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第四十九話、腹の虫


 アリゾム山


 オラノフは、兵を二百人ほど連れ、アリゾム山頂上にある砦に来ていた。残りの三百はいくつかに分け山岳部隊を探していた。

「徹底的に壊されているな」

 燃え尽きた建物は折りたたまれるように倒壊し、消し炭になっていた。周辺の防壁も崩され、燃やされていた。背後は崖で、ここに来るには狭い一本道しなかった。

「長年、記録を取り細工を重ねてきたのですが、すっかり無駄になりました」

 ゴキシンは間者として長年アリゾム山で工作活動をしていた。

「罠の位置や山の情報、十分に助かっています。無駄ではありませんよ」

「ありがとうございます。苦労、とばかり言えませんでしたよ。任務を忘れている時間も多く、楽しかったこともあったのです」

 燃えかすとなった砦を見つめた。

 ドワーフの兵が一人来た。走ってきたのか息が乱れている。

「どうした」

「敵を見つけました。東のふもと近くの川に二百五十」

 オラノフは地図を広げ、場所を確認した。ゴキシンが作った地図である。

「山岳部隊ではないな」

「はい、援軍のほうかと」

「そうか、ご苦労だった。休んでくれ」

「それと途中、ノードマン様に会ったので報告しました」

 ノードマンは部隊を率い山岳部隊を探していた。

「なんと言っていた」

「とりあえず行ってみると」

「そうか。よく知らせてくれた。休んでくれ」

 オラノフはしばし考えた。

「カプタル、来てくれ」

「なんだ」

 伸びた灰色の髪に着流しのドワーフが来た。一本、鉄の棒を持っている。

「ここに拠点を作る。兵を五十人ほど預けるから、お前はここを守ってくれ」

「了解した」

 兵に、拠点の整備を任せ、カプタル自身は、兵を数人連れ、鎧も身につけず鉄の棒一本持って山頂の砦に通ずる細い一本道に陣取った。

「あんな少ない人数で大丈夫なのですか」

「狭い道です。彼がいれば大丈夫でしょう」

 オラノフは、いくつか指示を出し、自らは、兵を百ほど連れ、山を降りながら東に向かった。


 山の東側を調べていたノードマンの部隊は、川の近くに人間の兵二百五十がいるという斥候の知らせを受け、兵を八十ほど引き連れ、ヘレクスの元へ静かに移動した。

「どんな様子だ」

 ノードマンは言った。

「変わんねぇ。ただ休んでいるだけだ」

 ヘレクスは答えた。

「山の兵じゃなさそうだな」

「ああ、援軍だろう。どう見ても山に溶け込んでねぇ」

 川沿いで竈を作り料理を作っていた。川をのぞき込んで魚を見ている兵もいる。

「んで、どうするんだ。やっちまうか」

 斧を持ち上げた。刃の先端が尖った片刃の斧だ。突くこともできる。

「いや、兵を見ても手を出さず指示を待てと言われている。見に来ただけだ」

「また待機か。いやになるな。せっかく見つけたって言うのによー」

 顔をしかめた。

「本命は山岳部隊だ。援軍の兵を倒してもたいして意味は無い」

「その山岳部隊は、逃げ回っているんだろう」

「ああ、だがいずれは出てくるさ。いくら広いったって、百五十人だ。兵を分けて調べていけばいずれは見つかる」

「だといいんだがね」

 ヘラクスはため息をついた。




「食いつかないですね」

 デノタスは、ノードマンやヘレクスがいる場所より、西にのぼった山の斜面の窪地にいた。

 山岳部隊を百名ほど伏せさせている。山岳部隊は、目立たないよう顔を茶色く塗り服の色も濃い緑と茶色の戦闘服を着ている。鎧は革の胸当て、革の丸兜、足元はしっかりとしたブーツを履いている。山の風景に溶け込んでいた。 

「警戒しているのか。様子を見ているな」

 デノタスは木の陰からノードマン達の様子を見ていた。

「どうします。河原の連中と挟撃して、このまま攻めるのも一つの手だと思いますが」

「いや、場所が悪い。ドワーフの連中には、河原まで降りてもらわないと」

 援軍の二百五十人をおとりにするため、河原で待機するよう命じた。二百五十人の兵をドワーフが攻撃している最中に、背後からドワーフの兵を攻撃する予定であった。援軍の指揮官にはそのことを伝えてはいない。

「ドワーフってのは、猪武者かと思っていたら、以外ですね」

「慎重な指揮官なんだろう」

「だとしたらやっかいですね」

 山岳部隊の攻撃方法は、山の斜面や木を利用した待ち伏せや奇襲が基本である。

「手口を知られているのも困るな」

 デノタスはゴキシンのことを思い出した。

「何かきっかけがあればいいんですが」

 そうすればいやがおうでも戦は始まる。





「うん?」

 何か小さな音がしたような気がした。プレドは辺りを見渡した。

「どうしたんじゃ」

 河原で食事をしていた。ゴプリはくず野菜に塩気が効いたベーコンのスープに硬いパンを浸して食べていた。

「いや、何か音がしたように気がして」

「そうか?」

 スープをすすった。

「鳥かな」

 首をかしげた。


 その音は少しずつ増えていた。

 きゅる、きゅるきゅる、きゅるきゅるきゅると、斜面を登った茂みの方から、かすかな音が聞こえていた。


「あれ?」

 茂みの中に何かがいた。

 

「やばい、見つかったぞ」

 ノードマンは腹を押さえ慌てて後ずさった。腹の虫である。食糧を切り詰めていたため、腹が減っていた。温かいスープの匂いにドワーフの兵の腹の虫が一斉になったのである。

 人間の兵達がこちらを指さし騒いでいる。

「馬鹿野郎! 腹なんか鳴らすんじゃねぇ!」

 ヘラクスも腹を押さえている。

「どうするよ」

「どうするってお前、見つかっちまったら仕方ねぇだろ」

 斧を握りしめた。

「そうだな」

 立ち上がった。




「おっ、なんか始まったぞ」

 ドワーフたちの背後、西の登った斜面に隠れているデノタスが言った。

「何があったんですかね」

 ドワーフが隠れていた場所からあらわれ、河原にいる援軍の兵に襲いかかっていた。

「チャンスだ」

 デノタスは手を上げ兵に準備の合図を出した。

「頭」

 マッチョムが静かに駆け込んできた。

「どうした」

「西の方角からドワーフの兵百がこちらに向かっています」

「援軍か」

「おそらくそうでしょう。敵の大将がいるそうです」

「オラノフとか言う奴だな。ふむ。よし、エンペド、ここの指揮は任せた。予定通りあのドワーフの背後をつけ、だが無理はしなくていい、打撃を与えるだけでいい。その隙に河原の兵を逃がしてやれ」

「承知しました。隊長はどうなさるのですか」

 副隊長のエンペドは言った。

「俺は、敵の大将の顔を拝みに行ってくる」

 デノタスはマッチョムを含む兵三十名ほど連れ西に向かった。



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