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第四十七話、搾りかす


 ペックスは五千の兵を率い、王都を立った。

 内務大臣のケフナがバリイ領領主の館に訪れていた。

「ケフナ様、国軍の派遣ありがとうございます」

 バリイ領の領主イグリットは深々と頭を下げた。

「なに、バリイ領の大事とあれば、いつでも駆けつけますぞ」

 内務大臣のケフナはソファに座り答えた。応接室である。

「これで安心と言いたいところですが、いかんせん、ドワーフは手ごわく、我が領地は荒れに荒れております。内務大臣のケフナ様に来ていただいたにもかかわらず、歓待できず心苦しく思います」

 我が領地が荒れているのは、半分ぐらいはおまえら国軍が森に火を付けたのが原因だがね。と、イグリットは心の底で毒ついた。

「なぜ私がここに来たのか、さぞ不思議に思われているでしょう」

「ええ、正直言って、驚いております」

 何かしら国の方から、人が来るのではないかと想定はしていたが、内務大臣が来るとは思っていなかった。

「今回の事態、非常に難しい問題をはらんでいます。国家間、領主間の争いなら、ままあることですがドワーフという、ある種の国家レベルの戦力、それが近くにありながら、我々は見逃していたのです。反省してもしきれません」

 ケフナは頭を下げた。

「頭をお上げください。我々も、ドワーフが攻めてくるなど思ってもいませんでした。国が悪いとは思っていません」

「そう言っていただけるとありがたい」

 ケフナは頭を上げた。

「始まってしまったものはどうしようもないとして、難しいのは、どう戦いを終えるのか、終えた後どうするか考えなければなりません」

 ケフナはいった。

「ええ、それは本当に、せめて早く終わって欲しいものです」

 終わったところで問題は山積みなのだ。イグリットは暗澹な気持ちになった。

「ドワーフは今、アリゾム山を攻めていると聞きました。これは、事実ですか」

「ええ、ドワーフの一部隊がアリゾム山に攻め入っています」

「なぜなのでしょうか」

「さて、ドワーフのすることですから、ひょっとしたら、アリゾム山を足がかりにさらに西に、進軍する予定なのかもしれません」

「西へですか。しかし、ドワーフが西へ、アリゾム山を攻めたのは、国軍が森に火を放った後です。さらに西へとなると、兵站が持たないのではないですかな」

「確かに、ケフナ様のおっしゃるとおりです。なぜなのでしょうか」

 イグリットは首をかしげた。

「彼らはドワーフです。アリゾム山に何かを求めているのではないですか」

「なにかというと」

「鉱物を求めているのではないですか」

「鉱物を、なるほど、それは思いつきませんでした。しかし、あの辺りに鉱物があるなど聞いたことがありませんな」

 イグリットは内心の焦りを隠しながら話した。

「仮にアリゾム山に有用な鉱物が埋まっているとします。まぁ、たとえば、金や銀、あと、ミスリルなんかもありますな、それらの有用な金属がアリゾム山に埋まっているとしたら、ドワーフの一連の行動、バリイ領に宣戦布告し、糧道を確保しながら南西のアリゾム山に攻め入る。噴火によって崩壊する故郷の代わりを求めての行動なら、理解ができるというものです」

「なるほど、それは、おもしろい仮説ですね」

「腹のさぐりあいはやめませんか。現在拮抗しているとはいえ、ギリム山のドワーフはすべて無傷、人間同士、互いに手を結ぶことができなければ、この戦、勝てませんよ」

 ケフナは真剣な表情で言った。

 イグリットは、しばし沈黙した。

「そういう、話があることは事実です。ですが、ドワーフから直接聞いた情報ではありません。まだ推測の域を出ない話です」

「その推測が当たっているのかどうかで、今後の対応が変わるのではないでしょうか」

 ケフナは思案気な顔をした。

 国の援軍や支援、鉱物のあるなしで、それらの対応に影響するぞと、軽く圧力をかけてきている。イグリットはそう感じた。

「アリゾム山に、ドワーフの間者が潜り込んでいたようです。五十年ほど、山菜採りだとか」

「鉱物の調査を行っていたのかもしれないと考えたわけですな」

「ええ、人と寿命が違うと言っても、五十年です。ドワーフにとってそれだけ重要な場所であったということです。噴火の件と合わせると、鉱物を求め、ギリム山からアリゾム山へと移住をするつもりだったのではないでしょうか。確証はまだありませんが」

「なるほど、ドワーフ王ドルフの息子がギリム山に幽閉されているという、報告を聞きました」

「初耳です」

「ドワーフの商人から得た情報です。王の長男は、戦争に反対していたそうです。それで王の手によって幽閉された。と、聞いております」

「そのようなことが、奴らも一枚岩ではないということですか。それが原因で兵の数が少なかったと言うことでしょうか」

「ええ、それもあるでしょう。反対する者もいたため、あまり多くの兵を投入できなかった。主戦派のみで攻撃し、アリゾム山を奪ってしまえば、残った反戦派も従う。そう考えたのかもしれません」

「なるほど」

 イグリットがエルフのソロンから聞いた話とは違ったが、あえて言わず、話させることにした。

「それと、保険のつもりかもしれません。主戦派の王が亡くなった場合、反対派の長男にあとを継がせ、和平交渉に入る。そう考えていたのかもしれません」

「負けることも想定していたということですか」

「ええ、わざわざドワーフの商人を使ってこちらに伝えてきたと言うことはそういうことでしょう」

「では、王さえ死ねばドワーフは和平に傾くと」

「そうかもしれません」

「なるほど、少し希望が見えてきました」

「戦う以外の選択肢を考えてみるのはどうでしょうか」

「ドワーフと話しあえと? それは試みましたが、奴らは和平交渉には応じません」

「それは、奴らの狙いがわからない段階での話し合いだったからではないですか。今は違います。奴らの狙いがアリゾム山に眠る鉱物とわかっています。それを交渉材料にすればよろしいのでは」

「アリゾム山を、ドワーフに渡せと」

 イグリットは顔をしかめた。アリゾム山の鉱物を担保に金を借りようと考えていた。

「お気持ちはわかりますが、争っていても、被害が拡大するだけです。どこかで折り合いをつけなければなりません」

「奴らは領地を攻めてきたのですよ。それなのに奴らの望みを叶えてやるつもりですか」

 冗談じゃない。何のための援軍なのだ。せめて五千の国軍が戦ってから、交渉すべきだろう。イグリットはそう思った。

「確かにそうですな。無かったことにするのは問題です。ここは一つドワーフに損害賠償を求めるというのはどうでしょうか」

「損害賠償?」

 そんなもの、とれるわけがない。奴らは自分たちの住処であるギリム山を失うのだ。何もかも失う予定の連中から、とれるものなどあるわけが無い。

「彼らから財物を得るのは不可能でしょう。ですが、彼らには能力があります」

「能力、ですか」

 国は、ドワーフを戦争の道具にでも使う気だろうか。

「ええ、彼らには労働力を提供して貰うのです」

「労働力、働かせるということですか」

「そうです。アリゾム山の鉱山の開発には、時間がかかります。ですが人間には、それを開発するだけの能力も労働力も無い。そこを彼らに出させるのです。戦後の賠償として」

「なるほど」

 悪い話ではない。戦後生き残ったドワーフをアリゾム山の鉱夫として用いれば、二万もいるギリム山のドワーフの問題は解決する。その上がりをバリイ領の復興にまわせば、なんとかなるかもしれない。

「その管理を、国の負担で行うというのはどうでしょうか」

「は?」

 イグリットは唖然とした。

「戦後の復興、バリイ領にはドワーフの管理をするだけの余裕はありますまい。バリイ領とドワーフとの間での恨み言もあるでしょう。ここはひとつ、ドワーフの監視と管理を国の負担で行うということでいかがでしょうか」

「なにを、なにをいっているんです。我々の領地ですよ。アリゾム山は我々の領地なのですよ」

 くそ! 国は、ドワーフの監視と管理という名目で、アリゾム山の鉱物をすべて抱え込もうと考えているのか。

「現状は微妙なところですがね」

「負けたわけではありません」

「そうですね。ですが、勝った後、ドワーフの面倒を見られるのですか」

「それは」

 無理だ。そもそも、現状でもバリイ領だけで対応できていないのに、二万のドワーフをバリイ領だけで管理するのは不可能だ。

「アリゾム山に新たな鉱山ができるとなると、バリイ領とて、潤うではないですか」

「それは確かにそうですが」

 だからといって、国がアリゾム山を管理するのはおかしいだろう。なぜ自分の領地を国に管理されなければならない。

「それを、我々が行うと言っているのです」

「国は、人の領地を、何だと思っているのですか」

 イグリットは顔をゆがめた。

「では、どうなさるおつもりです。確かに、この問題は、バリイ領の問題です。なるほど、そういうことであれば、バリイ領で解決するというのはどうでしょう」

 ケフナは言った。

「国軍は何もしないと言うことですか」

「いやいや、そのようなことはありませんよ。援軍を送ったじゃないですか」

 二千の援軍を送った。その援軍は、ドワーフの援軍を押さえるため、冬場の燃料となる木材がある森に火を放った。

「しかし、五千の兵が派遣されたと」

「ええ、出発しましたよ」

「遅れると、おっしゃりたいのですか」

「まさか、そのようなことがないよう、一丸となってがんばっております」

 笑った。

「貴様!」

 イグリットは顔を赤らめ立ち上がった。

「まぁ、落ち着いてください」

 そりゃ怒るよな。先祖代々、そう長い歴史ではないとはいえ、守り育てた領地だ。ドワーフに荒らされ、兵は死に、森は焼かれ、挙げ句の果てに新たに見つかった鉱山を国にかっさられる。その後に噴火も起きる。かわいそうに、ほとんど絞りかすじゃないか。ケフナはイグリットに同情した。だが、立場というものはそういうものだ。弱ければむしり取られる、強ければむしり取れる。それがいやだから、人間は自分の立場を上げようとする。ばかばかしい話なのだが、重要なことだ。

「あなたの領地です。ドワーフに取られるか。国に取られるか。あなたが決めなさい」

 ケフナは言った。


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