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第四十六話、軍備と教育


 北、へドリル山


「また、あの連中か」

 ハイゼイツは頭をかきむしった。道の真ん中に切り倒された木が積み上げられていた。近づくと油の臭いがする。撤去しようと近づけば、どこからか火矢が放たれ燃やされる。そうなると土をかけ火を消さなければ近づけない。幾度となく繰り返されたことだ。フエネ平原に、援軍と物資を届けようとしていたハイゼイツの部隊は何度も足止めをくらっていた。

「いい加減に姿をあらわさんか!」

 ハイゼイツは怒鳴った。

 斜面の岩の後ろから火矢が飛んできて、道に積まれた木に刺さり火がついた。




 フエネ平原北、人間


 ザレクスの営舎。

「森を迂回して、北側からドワーフの援軍が来ているそうだ」

 ザレクスは書状をもっていた。

「それは、まずいですね」

「幸いなことに、国軍が先回りして、ヘドリル山で援軍の進行を遅らせているそうだ」

「どのぐらい遅らせられそうなんですか」

「せいぜい三日程度だそうだ。山を抜ければ、ここに来るのに二日、一週間も無いと思った方がいい」

「五日ですか」

 兵の犠牲を出しながら、防壁は少しずつ削れている。何度か総攻撃を仕掛けているが、はね返されている。門が破れたとき、あの時が最大の好機だったのかもしれない。ザレクスは悔やんでいた。

「奴らを倒し、その後、援軍のドワーフを迎え撃たねばならない」

「きびしいですね」

「ああ、きびしい」

 それをしのいだところで、火が収まれば、残り二万のドワーフの相手をしなければならない。噴火で住処を失うドワーフたちに退路はない。どのような犠牲を払っても、ひたすら攻めて自分たちの居場所を確保するしかないのだ。

 そのドワーフを防ぐために人間はどのくらい代償を払わなければならないのか。アリゾム山ですむなら、と思いながら、それは兵士が考えることではない。と打ち消した。

「悪い話ばかりではない。リボル様から歩兵五百が送られてきた」

「いいのですか」

 敗走したと聞いている。

「ああ、牧場跡に立てこもるドワーフを倒す戦力はどのみち無い。それならば、ある程度こちらに兵力を集中して、倒せるドワーフを倒した方がいい。そう考えられたそうだ」

「なるほど、それはそうかもしれません」

「目の前の敵を倒す。その後のことは、その時に考えるしかない」

「ですね」

 ベネドは答えた。



 アリゾム山、人間


 アリゾム山ふもとから少しのぼった小さな小川で、スプデイル率いる歩兵部隊が野営していた。

「しかしこんなところで休んでいて、いいものかのう」

 ゴプリとプレドは朝飯を食べていた。

「どうしてですか」

「うむ、なんとなく、いやな予感がする」

 辺りを見渡した。河原の開けた場所で木も少なく、野営には向いていた。言い換えれば見晴らしのいい場所でもあった。

「そういう指示があったのでしょ。ここで待機しろと」

 アリゾム山山岳部隊の指揮官から指示があったと聞いている。

「まぁ、わしら一兵卒には選択肢などありゃせんがな」

 ずずずっと、スープをすすった。


「奴らめ、のんきに飯など食いやがって」

 ヘレクスは藪の中で小さな声でつぶやいた。ヘラクスはドワーフの斥候部隊である。

 オラノフは山の四方に斥候を放っていた。ヘレクスの部隊が、山の東で野営中のスプデイル達を見つけた。

 部下を二人走らせ、ヘラクスと数人の部下は残り監視を続けた。



 王都


 王都トレビムでは、兵と金がかき集めてれていた。

 ドワーフ討伐の義勇兵を集め、国庫を開け、傭兵を募った。罪が軽微のものに限って恩赦と引き替えに兵士にした。商人が集まり、王のサインが入った借用書が作られその金で、物資とさらに傭兵を雇った。

 兵の数はふくれあがり、五千を超えた。

「あるではないですか」

 ペックスは財務大臣のオランザに向かって言った。金のことである。

「ほとんどが国の借金ですよ。幸い、思った以上に低金利で借りられました」

 鉱山の噂を情報局のトパリルに流させた。耳ざとい商人は、ぞろぞろと集まってくれた。

「だが、もっと早ければ、バリイ領の兵の犠牲も、森を焼くこともありませんでした」

 二千の兵で二万のドワーフを押さえる方法は他になかった。もてる全兵力で叩きつぶす、それが一番犠牲の少ない方法だとペックスは考えていた。

「軍事のことはわかりませんのでね」

 オランザは鼻で笑った。

 戦争など馬鹿のやることだ。オランザは心底そう思っていた。

 国の立場は弱かった。税の徴収権は各領主がしっかり握っており、各領主から送られてくる税収は微々たるもので、強制的に各領主に納めさせる税を増やせるほどの力は、国にはなかった。税を上げれば、それこそ、オランザが最も嫌う戦争になりかねなかった。各領主と戦争になどなれば、他国が喜ぶだけだ。

 この現状を変えることができるのは教育だと、オランザは考えていた。王都であるトレビムに学校を作り、知識を集め、産業に変え、なおかつ国の形を考える政治家を多数育てる。そうすることによって、王家を中心とした国家を作る。何十年と、かかるかもしれないが、強すぎる各領主の力の流れを変えるためにはそれしかない。そう考え、王都トレビムにいくつもの学校を作った。

 そのため、ペックスとは何度もぶつかっていた。話はわかる。軍事力が無ければ国は守れない。だが、どうしても、ペックスの言っていることは、オランザには無駄としか思えなかった。来るか来ないかわからない敵に備えるよりも、間違いなく国の利益として跳ね返ってくる教育の方が有用ではないかと、そう思ってしまうのだ。

 とはいえ、軍備をおろそかにした所為で、ドワーフへの対応が後手に回ったことも事実だ。

「ままならんものだ」

 つぶやいた。

 なにがです? とペックスはオランザを見た。




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