第四十三話、ドワーフの力押し
フエネ平原南、牧場跡
夜、暗闇の中、牧場跡のかがり火の光から外れたところで、ドワーフが集まり何かをしていた。鎧の音と荷を運ぶ音が聞こえた。
その方向に向かって、人間の兵がたいまつを投げた。
半円状に矢盾が建てられていた。その後で、ドワーフたちは土嚢を積み上げていた。
人間の兵は、矢を放った。ドワーフは矢盾で防いだ。土嚢は着々と積み上げられていく。
「攻める。わけにもいかんよな」
リボルは悔しげにつぶやいた。
暗闇である。どれだけの伏兵が隠れているのかわからない。
ドワーフが落ちているたいまつに近づき、足で火を消した。暗闇の中、土嚢を積み上げる音が聞こえた。
朝になると、牧場跡地の壁の近く、南と西に二つ、土嚢を積み上げ壁にした拠点ができていた。
ドワーフの兵は、土嚢に作った拠点に梯子や弓矢を運び込んでいた。
「近いな」
牧場跡の石壁から、二百メートルほどの距離にドワーフたちは拠点を作っていた。矢で牽制しているがあまり効果は無い。
「あそこから、順次攻められると、かなり厳しいことになりそうですね」
スタミンがいった。
拠点を作ることによって、持続して攻めることができる。
「かといって、あれをつぶせるだけの兵力は無い」
拠点をつぶすために、牧場跡の外へ出なければならない。それこそドワーフの思うつぼである。
「耐えるしかなさそうですね」
スタミンはつらそうな顔をした。
「耐えきれるのか」
リボルは沈んだ声を出した。
昼が過ぎ体制が整ったのか、ドワーフは戦支度を始めた。牧場跡から見て、南と東に五百人ずつ兵を集めた。土嚢で作った拠点にいるドワーフが土が入った土嚢袋を振り回し、放り投げた。土嚢袋は放物線をえがき、石壁の前で落ちた。二百メートルほど離れているが易々と届いた。拠点のドワーフたちは石壁目がけ土嚢袋を振り回し投げた。
石壁周辺は土嚢で埋まった。取り除こうとしたが取り除く速度より投げてくる速度の方が早く取り除けなかった。東の五百が前に出た。人間の兵は矢を放つが盾に拒まれる。ゆっくりとその短い足で、ドワーフの兵が近づいてくる。
東からきたドワーフの兵五百は、石壁の前に重なった土嚢をふみ、石壁を乗り越えてくる。人間の兵は槍で突く、ドワーフは斧を振るう。南のドワーフはまだ動かない。
徐々に人間の兵は耐えられなくなっていく。
「退け、後ろに下がれ」
スタミンは兵を後ろの壁に下がらせた。土嚢と木材を使い壁を作り、その回りには溝を掘っている。
五百のドワーフは、すぐに攻めず、石壁に投げ積まれた土嚢袋を手にそれを溝に投げた。何カ所かの溝が埋まった。拠点から若いドワーフの兵が梯子持ってきた。それを次々と渡していく。
その間、人間の兵は盛んに矢を放つが、盾に拒まれ、鋼の鎧兜にはじかれ、たまに刺さるが、命に別状がなければいいと、ドワーフは、さほど気にした様子もなく、体に刺さった矢をへし折り作業を進めた。
梯子を使い壁をのぼる五百の兵の側面から叩こうと、人間の兵が北側から回り込み矢を放った。何人か横から射られ梯子から落ちる。盾を持ったドワーフの兵が、一部北側に移動する。その兵を壁の内側から人間の兵が矢を射かける。
南にいたドワーフの兵五百が前に出た。ボリジが先頭に立っていた。
「先頭のミスリル合金の鎧を着たドワーフを狙え」
スタミンは命じた。
ボリジが石垣を乗り越えたところで、複数の矢が飛んできた。ボリジは頭を下げ、戦鎚を顔の前に出した。クロスボウから放たれた矢は、ボリジの鎧兜と戦鎚にはじかれる。
矢は連続して放たれる。すべてボリジに集中している。
「こざかしい!」
矢を戦鎚ではらいながら、前に進む。
「だめか」
これだけの数の矢を受けながら、ボリジはほとんど無傷だった。いくつか、鎧の隙間に引っかかるように突き刺さったようだが、鎧の下に鎖帷子でも着ているのかダメージを受けた様子はなかった。
ボリジを先頭にドワーフたちは石垣を乗り越え、土嚢の壁にたどり着いた。土嚢の壁周辺の溝は、ドワーフが投げた土嚢で埋まっている。そこをはしごを持ったドワーフが土嚢の壁にはしごを掛けていく。
よじ登るドワーフに、人間の兵は槍で突いた。兜や鎧に当たりはじかれる。気にせず、のぼってくる。
人間の兵は恐怖に駆られ槍を振り下ろす。背を頭を槍で叩く。
はしごを登るボリジも人間に兜を叩かれる。
「痛えじゃねぇか」
お返しとばかりに戦鎚の尖った部分で人間の兵の太ももを突き刺す。
「ひぃいい」
悲鳴が上がる。
「どけ!」
スタミンが駆け寄り、槍をボリジの頭目がけ両手で振る。ボリジの兜に当たる。首が傾いた。
「おまえさんか」
ボリジが笑う。
「くそ!」
スタミンは思いっきり、ボリジの顔面を蹴り上げた。ボリジはのけぞり、はしごを転げ落ちた。太ももを戦鎚で貫かれた兵もボリジと一緒に落ちていった。
「すまんな」
スタミンは落ちた兵に向かって言った。
南と東、兵を時々休ませながら、ドワーフは攻め続けた。
防壁が崩されていく。
「これが本物の力押しか。これだけの数で守れば何とかなると思っていた自分が恥ずかしい」
リボルはいった。
数の上ではまだまだ圧倒的に上だが、兵がおびえていた。
「がんばってはいますが、難しい状況かと」
疲れ切った顔をしたスタミンが言った。
「ここを捨てるぞ」
撤退する準備は内々に進めていた。
「はっ」
スタミンは答えた。




