第四十一話、援軍妨害
「ここまで手強いとは、数の力で何とか退けているが、このままではいずれ崩れる」
リボルの顔色は悪かった。
「面目ありません」
スタミンは顔を曇らせた。あれだけの身長さ体重差があっても、ボリジという名のドワーフには、まるで歯が立たなかった。
「ドワーフ相手によくやってくれている。君がいなければ、もっとひどいことになっていた」
歩兵の指揮を執っているのはスタミンである。今の領軍に指揮を任せられる人間はあまりいない。
「いえ、力及ばず」
「問題は練度だな」
「すぐには難しいかと」
兵の数は十分足りているが、半数以上が傭兵や民兵である。連携がうまくいっていなかった。必ずどこかが崩れる。そこを固めようとするが、遅い。さらに崩れ、防衛線を引かざるを得ない。ずるずると下がりながら、壁を使い何とか守った。連携を強めようにも時間が無かった。
頭数だけ増やしても厳しいかと、亡くなった副官のレマルクの言葉を思い出した。
「せめて騎馬隊が使えればいいのだが奴らがいるからな」
「ミスリルの武具を身につけた傭兵団ですね」
リボル側の騎馬隊は傭兵も合わせ、二百騎程度いたが、正面からぶつかっては、マヨネゲル率いるミスリルの武具に身を固めた傭兵の騎馬隊に手も足も出なかった。こちらの攻撃はミスリルの鎧に阻まれ、あちらのミスリルの槍は易々と通る。これでは勝負にならなかった。バナックがやったように、灰を投げつけ馬の目を潰すか逃げ回るしかなかった。
「フエネ平原北では、ドワーフが守りに入っているそうだ。北部から、ドワーフの援軍が来ているという情報もある。援軍は期待できない」
「こちらで踏ん張るしかないということですね」
「守り切れるのか」
リボルは迷ったような目を見せた。
「ここが落ちれば、フエネ平原北もアリゾム山も、危うくなります。耐えるしかありますまい」
「そうだな」
リボルは静かに答えた。
フエネ平原北、人間
「すさまじい体力だな」
ザレクスは、やや、あきれた声を出した。
フエネ平原では、夜間以外は三交代で休み無く責め立てた。五日ほどになる。ドワーフは衰えることなく、対応していた。
「こちらの方が先にへばりそうですよ」
ベネドが疲れた顔で言った。常に全力で攻めるというわけではなく、相手に隙ができた瞬間ねじ込むように攻撃を加えていた。攻めると見せかけ攻めないときもあった。
「精神的には守っている方が疲れるはずなのだが、ドワーフは例外らしい」
「壁は削れていますよ」
徐々にだが、ドワーフの防は削れていた。
「けが人が多いな」
特に大型のリザードマンの負傷者は多かった。丸太の先端を削り、ロープで持ち手を作った破城槌を、二列に並んだ大型のリザードマンに持たせた。その回りを盾を持った歩兵隊でかため、ドワーフの砦の扉に破城鎚をぶつけた。息を合わせリザードマンの力で二度三度打ち込むと木材を組み合わせた扉がひび割れ内側に曲がる。
当然ながら狙われる。
破城鎚を持った大型のリザードマンが、もう一方の手に鉄板を貼り付けた大盾を上げ砦に近づくと、攻撃が集中した。時々飛んでくる片腕のドワーフ、メロシカムが投げた石がやっかいだった。狙いも正確で、盾の隙間を縫って頭や膝を狙って投げてきていた。全身鱗に覆われているとはいえ、ろくな防具を着けておらず、頭に当たり昏倒するリザードマンもいた。
「完全に狙われてますね」
ベネドが言った。
「ああ、もうちょっとまともな鎧でも着ていてくれていたらよかったのだがな」
「下げますか」
「そうだな、リザードマンは下げ、破城鎚は歩兵隊にやらせるか」
「無理をさせるのも一つの手だと思いますよ」
ベネドは小声で言った。
「だめだ。これは俺たちの戦だ。トカゲのしっぽに隠れているわけにはいかんだろ。それに、壁が崩れてからの方が本当の戦だ。それまで大型のリザードマンは温存しておきたい」
ザレクスは戦況を見つめた。
ドワーフ、援軍
ハイゼイツは兵を千人ほど連れ、食糧と物資を馬車に詰め込み、ギリム山から北西、ヘドリル山のふもとの狭い道を移動していた。ほぼ不眠不休の行軍であった。
道の真ん中が石で埋まっていた。
「落石ですかね」
ドワーフの一人が石をどかそうと兵を集めた。
「待て」
ハイゼイツが止めた。
「どうしました」
「罠かもしれん。全員回りを警戒しながら互いの距離を少しとれ」
左手には川があり、右手は山の急斜面だった。道を埋めるように石が転がっていた。
「まったく、急いでいるというのに」
ハイゼイツは爪を噛んだ。
「罠だって、ばれちまったようだぜ」
斜面の岩陰に男が数人隠れていた。
「そのようだな」
カルデは言った。二人は国軍の兵である。上司のモディオルに命じられ、騎馬隊百と歩兵二百を率い、北西ルートからくるドワーフを足止めするよう命じられた。
「どうする。警戒されちまったようだぜ」
ドワーフが道を塞ぐ瓦礫を除去している最中に斜面に隠している岩石を上から落とす計画だった。
「そうだな、見つかる前にとんずらするか」
「岩は落としていかないのか」
「今、落としてもたいして意味は無いだろう。それより見つかりたくない。次の場所に行くぞ」
「了解」
ヘドリ山の石で閉ざされた道の周辺を調べると、斜面の岩陰に岩石が積み上げているのを見つけた。人の姿はない。ハイゼイツは少し悩んだが、道を通っている最中に落とされる可能性を考え岩を落とすことにした。岩は斜面を転がり、いくつかの岩がさらに道を塞いだ。
「ああ、もう、邪魔くそ!」
ハイゼイツは悪態をつきながら、道を塞ぐ石を撤去した。




