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第四十話、牧場跡の戦い

 フエネ平原南、牧場跡


 朝方、バナックは少しうとうとしていた。

 毎夜来ていたドワーフの襲撃はなかった。だからこそ危ないのだという気持ちと、ああ、こなかったという気持ちが兵の間で入り交じっていた。

「来るぞ!」

 スタミンが声を上げた。

 千人ほどのドワーフが朝日を背に東から進軍してきていた。

 慌てて跳ね起きる。東の壁に並んだ。

 ドワーフは広めの間隔で並び、ゆっくりと近づいてきた。

「弓矢隊前へ」

 弓をもった兵が前に出た。ドワーフの歩みは遅い。まだ弓を構えてはいない。

 盾を持ったドワーフの兵が前に出た。背の低いドワーフの体がすっぽり入る木製の盾である。

 ミスリル合金に身を固めたドワーフに雇われた騎馬隊が、矢が届かない距離でうろついていた。

「弓を構えろ」

 スタミンが言った。東の壁の兵がクロスボウを構えた。

 ドワーフが近づいてくる。

「放て!」

 ドワーフの持つ盾に矢が突き刺さる。盾を持っていないドワーフは斧を顔の前に矢を防いだ。

 ドワーフが前に進む。石垣の前に来ると、土が詰まった土嚢を五、六袋抱えたドワーフが前に出てくる。矢が土嚢を抱えたドワーフに集中するが、盾を持ったドワーフがそれをカバーする。

「槍隊、前ぇ!」

 弓隊が下がり、槍を持った兵が前に出る。槍で楯を突く、叩きつける。土嚢袋を抱えたドワーフの兵が石垣の前に来ると、もっていた土嚢を倒すように放り投げる。それを何度か繰り返すと、石垣の前に土嚢で作った斜面ができあがる。

 そこを、ドワーフの兵が駆け上がる。

 させじと、槍で突く。

 槍で突かれドワーフが転げ落ちる。

「続け!」

 自身の身長ほどの長さの戦鎚を肩に、ボリジが積み上げた土嚢の上を走る。

 槍が一斉に襲いかかる。ボリジが着ている鎧はミスリル製である。槍は軽い金属音を出し、はじかれる。ボリジは戦鎚を振り槍を払う。

 槍をかき分け石垣の内側にボリジが降り立つ。

 人間の兵が槍で突こうとする。

 槍を鎧で受けながら、ボリジが戦鎚を振り下ろす。人間の兵の肩の辺りに当たり、そのまま地面に叩きつぶした。

 ボリジに続き、他のドワーフが石垣を越えてくる。

「押し返せ!」 

 盾と槍を持った人間の兵が、石垣の内側に降り立ったドワーフを押しながら槍で突く。人間の盾は木の上に鉄板を貼っており、ドワーフの斧でも容易には壊せない。ドワーフは石垣の内壁に押し込まれていく。盾に押し込まれ、斧を自由に振り回せない。身動きがとれなくなり槍でつつかれドワーフたちは倒れていく。

「狭苦しいわ!」

 ボリジが戦鎚をハンマー側ではなく先端が尖っているピック側で、鉄板を貼った盾に叩きつけた。鉄の板を張り付けた盾に穴が空き、鉄板の下の、木の部分が割れる。二三度叩きつけると盾が壊れる。ボリジは体をねじ込むように前に踏み出し、盾が壊れた兵の頭を戦鎚で殴りつける。頭のつぶれた人間の兵ごと押し込んでいく。盾による包囲が少し崩れ、ドワーフが押し返す。

「突けー! 押し返せー!」

 スタミンが檄を飛ばす。

 人間は盾で叩くように押しながら、盾の隙間から槍で突く。

 負けじとドワーフの兵が盾に斧を振り下ろす。盾が壊れれば己の腕が切り刻まれる、人間の兵は、おびえながらも、肩を当てるように盾で押し込み、槍で突く。

 ボリジが戦鎚を振るい盾を腕ごと壊す。その後をドワーフの兵が続く。

 人間の兵は後を気にしだした。

 ドワーフに徐々に押され、人間側の圧力がふいに弱くなる。崩れた。

「下がれ!」

 リボルの指示に、人間の兵は土嚢を積み上げて作った壁の内側に退避した。土嚢の壁は、牧場跡の周りにある石壁より高く、土嚢の壁の回りは溝が掘られている。何人か取り残され無残に殺された。

 ドワーフが牧場跡の石垣の中に流れ込む。

 人間の兵は、土嚢を積み上げた壁の中で態勢を立て直す。クロスボウに矢をつがえる。

「放て」

 人間の兵が土嚢の土壁の上から、矢を打ち込む、盾を持ったドワーフは盾を上に掲げ、矢を防ぐ。盾を持っていないドワーフの兵は盾を持っている兵の後にしゃがみ込む。ミスリルではなく鋼の鎧を着た兵が多いため、クロスボウの矢は当たり所によっては、ドワーフの鎧を貫通した。

 ドワーフは石垣の外側から、クロスボウで応戦する。数は少なく、目があまりよくないため、命中率は悪いが、当たれば人の頭を兜ごと吹き飛ばした。

 ドワーフは、はしごを持ち出した。近くの森林から切り出して作ったものだ。ドワーフの体型に合わせ横幅に広く作られている。

 土嚢の壁に、はしごをつぎつぎと立てかけ、その上をのぼっていく。乾燥しておらず掴むと少ししなる。

 はしごを登るドワーフは人間の兵に槍で小突かれ、至近距離でクロスボウを放たれ落ちる。はしごの下では溝を埋めるため、土嚢が投げ込まれる。

 煮えたぎった油がまかれる。肉の焼ける臭いと悲鳴、ドワーフの皮膚は、人の皮膚より、分厚い。それでも地面に転がり回り、鎧兜を脱ぎ捨てようとする。そこを矢で狙われる。油を掛けられても耐えてはしごを登ろうとする者もいる。槍の石突きで小突かれ、はしごを槍で外され落ちる。

「壁を壊せ!」

 ボリジが戦鎚の尖った方で土嚢で作られた壁に叩きつけた。土嚢に深々と突き刺さり、中に入った土が漏れ出す。他のドワーフもそれぞれの武器で土嚢でできた土壁を崩し始めた。

「ぬぐ」

 ボリジの体に油がかかった。煮えたぎった油がミスリルの鎧の隙間に入り込み皮膚を焼く。痛みに耐えながら、ツルハシのように戦鎚を振るい突き刺し引き抜く。土壁の一角が崩れる。人間の足が見えた。ボリジは掴んだ。引きずり、足で踏みつぶす。崩れた土壁を体を丸めよじ登る。槍で突かれるが、鎧兜で弾く。ボリジは、よじ登った。

 スタミンが前に出た。槍を振りかぶり、思いきりぶつけた。ボリジは戦鎚で受け止めた。槍はしなった。

「ほう、いいじゃないか」

 ボリジは言った。

「ちょいやー!」

 スタミンは全体重を掛けて突きを放った。ボリジは易々と払った。スタミンの身長は二メートル近くある。一方のボリジは百四十センチ程度、大人と子供程度の身長差がある。スタミンは連続で突きを放つ、火花が散り槍の刃先が削れていく。どれも必殺の突きである。ボリジは戦鎚で払い、鎧で受け流した。

(まるで根が生えているようだ)

 スタミンはそう思った。

 動かない。どの攻撃も全力である。相手を根こそぎ吹き飛ばす。そのような攻撃でなければ、ドワーフは倒せない。他のドワーフなら吹き飛んでいるような攻撃をボリジは軽くいなしていた。

 スタミンの体から汗が吹き出し息が上がる。 

 人間の兵が左右から槍でボリジを攻撃した。脇の下、膝の裏、鎧の隙間を狙っていた。ボリジはわきを締め、足を動かし攻撃をはじいた。

 ボリジは二百年生きている。着ている鎧は百年前に作ったミスリルの鎧である。どこに隙間があるのか、どこで敵の攻撃を受ければいいのかよくわかっていた。

 ボリジは少しずつ前に進む。その後から、他のドワーフがボリジが開けた土壁の穴から入ってきていた。

「盾兵、こいつをおせ!」

 盾兵が前に出て、盾ごと体当たりするようにボリジを押した。

 ボリジは左手で盾を止めた。逆に押し込んだ。盾兵がずるずると後ろに下がる。

「くらえ!」

 スタミンは槍を高々と上げ振り抜いた。ボリジの兜に当たった。槍がしなりにしなる。ボリジは少し首をかしげ。 

「背が縮んだわ!」 

 戦鎚を振った。スタミンの槍がへし折られた。

 スタミンは腰に手をやった。手に取ったのは棍棒である。腕ほどの太さの丸太に鉄板を巻いている。ドワーフの攻撃に対してどのように頑丈な剣でも受けることは難しい。だから棍棒である。これならば易々と折れることはない。両手で握りしめる。

 ボリジが近づいてくる。戦鎚を振る。スタミンは棍棒で合わせる。はじかれるようにのけぞる。二度三度と打ち合う。火花が飛び木片が飛ぶ。

「くっ」

 スタミンが押されている。

 ボリジはスタミンの膝の辺りを狙い戦鎚を振った。スタミンは叩きつけるように棍棒を振り下ろす。ぶつかる。棍棒は根元からへし折れた。スタミンの両手には木片が残った。

「とどめだ」

 ボリジは戦鎚を後ろに引いた。

「くそ」

 何かが飛んできた。

「ぐおっ」

 ボリジは顔を背け目を覆った。灰である。

「逃げてください」

 バナックがボリジの顔目がけ灰を投げた。

「助かった」

 スタミンは距離をとり、兵を立て直した。

 その後押し合いが続き、昼頃にドワーフの兵は撤退した。

 血の臭い、肉の焼ける臭い、崩れた土の壁、人もドワーフも多数の死者が出た。

 リボルは、疲れ切った兵をたたえながら、壁の補修を命じた。

 兵の動きは鈍かった。


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