第四話、エルリムの町
エルリムの町は混乱していた。
エルリムは、山間のなだらかな平地の上にあった。森を切り開き作られた小さな村がいくつかあるだけだったが、ドワーフの鉱山の発展とともに、森は切り開かれその材木は、ドワーフが鍛冶で使う燃料になった。その後、町は鉱物の輸送路を支える形で大きくなっていった。鉱物の取引所もあり、ドワーフとの関係は強かった。
エルリムの石壁は二百年前に作られたものである。当時はバリイ自体いくつかの領地に分かれ、それぞれの領主が争っていた。トレビプトという国でさえまだ無かった時代である。何度か戦火に見舞われ、当時の領主が、ギリム山のドワーフに頼み石壁を作った。
四方を囲む石壁は町全体を覆っているわけでは無い。二百年の間人口が増えたことにより、壁の外に新た建物が建設されており、それらに住む人の半数ほどが、壁の中に避難していた。残りは町の外にいるか、他の町や村に避難していた。
多数の兵がエルリムの町に押し寄せ駐屯していた。おもに町の公園や広場、町の施設などに寝泊まりしていた。入りきれない者は町の外で野営していた。ドワーフがエルリムの近くで陣取っているため、門はドワーフがいる場所と反対側の門しか開けられず、出て行く人間と入ってくる人間で混雑していた。
傭兵もずいぶん来ていた。ある程度まともな者は雇ったが、武具のそろっていない者や、まとまった人数でないものは断った。すべて町の負担で雇った。雇った傭兵が治安悪化の原因にもなっており、町長であるクレカプレにとって頭の痛い問題であった。
問題が次から次へと町長の下へ運ばれてきており、細かい案件などは後回しにされた。町長は代々、商工組合の中から選ばれている。任期は最長十年、現町長のクレカプレは三年ほど町長を務めている。町長になって三年、特に大きな問題に直面したことは無かった。
「なんで俺の時に」
町長のクレカプレは嘆いた。
軍から、町内にいるドワーフを一カ所に集め監視するように言われていた。内側から手引きする恐れがあるためだ。
長年町に溶け込んできたドワーフである。エルリムで生まれ育ったドワーフもいる。町長であるクレカプレ自身、何人も懇意にしているドワーフがいた。人間と共に戦う。そう言ってくれたドワーフもいた。
町長は、ドワーフの夜間の外出を禁止し、監視をつけることを軍に提案した。軍は渋っていたが、一カ所に集める施設がないため町長の案を飲み、監視には軍の人間を何人か使うことで妥協した。
石壁の幅は狭く、人が一人立つだけのスペースしか無かった。二百年前作られた時には、石壁に接するように兵士が動き回れる木の台と階段が設置されていたが、老朽化と町の拡張に伴い、ところどころ無くなっていた。
それらを昼夜を問わず補修建造していた。場合によっては壁に接している建物を壊し兵士が動き回れる台を作った。それでも、三分の一ほど木の台が無い場所が残った。
ドワーフの兵はエルリムの東で野営していた。火をおこし、簡易の鍛冶場を作り、前の戦闘で傷ついた武具の修理を行った。
ドワーフの兵の数も少し増え、六百人いた兵が七百人ほどになっていた。ドワーフの兵達は川を渡る時に乗ってきた筏を解体し、石壁を乗り越えるための、はしごを作っていた。木材が無くなればそこらに生えている木を切り作った。石壁の高さは三メートル程度、それに合わせはしごの長さを調節した。
水の入った大きな鉄鍋に、毛をむしり血抜きし、ぶつ切りにした鶏肉と米をいれ、木の実や香辛料を入れ煮る。ドワーフの兵はそれを器に入れうまそうに食った。腹がふくれるとドワーフの兵は鎧を着たまま、ごろりと寝転んだ。寝息が聞こえる。
夜襲を行うことをエルリムの兵は考えたが、洞窟の中で生活をしているドワーフは夜目が利く、隙だらけに見えて、罠かもしれないと、その案は見送られた。
朝、ドワーフの兵は水を飲みパンを少し食べた。
それから、泥を顔に塗りたくり、鎧の隙間にも泥を詰めた。泥水を頭からかぶり、エルリムの壁に向かい歩き始めた。
壁に向かってくるドワーフの兵に、人間は弓矢や投石や魔法で応戦した。先頭のドワーフの兵は身の丈をこえる大盾を構え、防いだ。盾に防がれなかった矢はドワーフに当たるものの、鎧兜に跳ね返され、たまに鎧の隙間に刺さっても、ドワーフは気にせず前に進んだ。魔法に関しても同じようなものだった。ミスリルは魔法をはじく性質を持っている。集団で密集するとその効果はさらに高くなる。どのような魔法であれ、その根源である魔力をはじかれれば、威力は半減する。魔法の矢が、ドワーフに当たる前に弱まり当たりはじかれる。効果がないとわかり、エルリムの法力部隊は投石機の石に風の魔法を使った。風の力をまとった石は、勢いよく飛んだ。加速した石がドワーフに当たる。ドワーフの兜や鎧に、石の塊が降り注ぐ。人なら昏倒するような打撃にドワーフの首と頭は耐えた。洞窟に住むドワーフは落盤事故に遭う可能性があるため丈夫な頭蓋骨と首を有していると言われている。




