第三十八話、欲
王都トリビム
王都トレビムでは会議が行われていた。
「なぜアリゾム山にドワーフは攻め入っているのだ」
王であるルミセフが言った。
「目的は不明です」
軍事顧問のペックスが言った。
「そんなことより、森を焼くのはやりすぎなのではないかね。バリイの民のことも考えねば」
内務大臣のケフナが言った。
「二万のドワーフを押さえるためには、この方法しかありませんでした。それにギリム山が噴火すればどのみち森は焼けてしまうでしょう」
「そこまで焼けんだろ。たき火に薪をくべるかのごとく、焼き払っているそうではないか」
財務大臣のオランザが言った。
「そうでもしなければ、抑えられませんので」
ペックスは冷静に答えた。
「むう、わしのせいだとでも言いたいのか。実入りのない戦争に金など出せるか」
オランザは、まくしたてるように言った。
「一度燃えてしまったものは仕方が無いでしょう。しばらくは燃えて貰うしかないでしょう。それよりも、陛下の疑問、なぜドワーフはアリゾム山に攻め入ったのかですが、鉱山を求めて、アリゾム山に侵攻したという情報があります」
情報部のトパリルがいった。
「ほう、鉱山」
「それは、どれぐらい信頼の置ける情報なのだ」
「バリイ領の領主周辺の情報なので、ある程度信頼の置ける情報です。少なくとも、領主はそう考えているようです。一連のドワーフの行動、ギリム山噴火により住処を失うドワーフが、西のアリゾム山へ向けて拠点を作りながら移動していると考えれば、筋が通るのではいないです」
「なるほど、最初からバリイ領を征服しようとなど考えていなかったわけだな」
「ええ、最初からアリゾム山のみを狙っていたわけです。ドワーフに人間を支配することなどできません。奴らができることは山に穴を掘って鉱物を取り出すだけですよ」
「そのために戦争を行ったということか」
「よくある話です。肥沃な土地を求めて攻め入る。ドワーフの場合はそれが鉱山だっただけのことです。此度は火山の噴火というやっかいなおまけがありますが、人の争いとたいして変わりません」
「陛下、バリイ領の山一つ、それで収まるのなら、あとは話し合いで落とし込んでいけばいいのではないでしょうか」
内務大臣のケフナはいった。
「そうだな」
悪くはない考えに思えた。戦争には金がかかる。ましてや国内の争いなど、なんの得にもならない。あとはバリイ領と調整すれば、とりあえずの問題は解決できる。王であるルミセルはそう考えた。
「陛下、これはチャンスかもしれませんぞ」
財務大臣のオランザが言った。
「なにがだ」
「鉱山ですよ。もし、アリゾム山になにかしらの鉱物が眠っているとなると、ドワーフにくれてやるのはもったいない話なのではないですか」
「アリゾム山を巡って、ドワーフと戦えというのか」
「ええ、そうです。戦って手に入れるのです」
「だが、あるかどうかはわからんのだぞ」
「戦争をしてまで手に入れたい山なのですよ。何の価値のない山を大勢の同胞の命を失ってまで手に入れようとしますか。鉱物に関してはドワーフはプロ中のプロ、あると、考えてもよろしいのでは、もし、ミスリルでも出てくれば、国の財政は長期にわたって好転します」
オランザは少し興奮した様子で言った。オランザは、長年、国の財政と経済を、あの手この手で、すりあわせてきた。鉱山を国有化できれば、財政と経済、両方解決できる。そう考えた。
「しかし、アリゾム山は、そもそも、バリイ領の領地ですぞ。どうやって手に入れろと」
ケフナはいった。
「なんとでもなるでしょう。戦後処理という名目でアリゾム山に居座るなりすればいいでしょう」
「それは、ちと無理がありますな」
「仮にアリゾム山を押さえられたとして、その後どうする。利益が出るまで金と年月がかかるのではないか」
「陛下、金は借りればよろしいのです。商人は将来の収益を見込める事業には貪欲に投資するものです。鉱山から漏れる、道、道具、人、食い物、群がっていくらでも湧いてくる。資源があれば金など後で何とでもなりますよ」
「そういうものか」
「ええ、そういうものです」
「では、賠償金代わりにドワーフをアリゾム山で働かせるというのは、どうでしょうか」
内務大臣のケフナが言った。
「その管理を国が行うと」
「そういう名目で、アリゾム山を押さえてしまえばいいのでは、対外的には、ドワーフの収容所、避難所と言うことで」
「悪くはないな」
「噴火が起きれば、バリイ領は大混乱に陥るでしょう。バリイの領主にドワーフの管理をしている余裕はありますまい。そこに付け込んで吸い上げるのです。多少強引なことをしても、噴火の混乱でなんとでもなるでしょう」
「いい、いいよそれ」
財務大臣のオランザは興奮した様子で椅子で飛び跳ねながら言った。
「ドワーフに勝てるのですか」
ペックスは疑問の声を出した。
「拮抗しているようだが」
「ええ、今のところは、二万のドワーフを封じ込めていますから、しかし、火が収まれば、彼らは来るでしょう。そうなると現状勝ち目はありません」
「とりあえず、ドワーフの王ドルフを倒せばよいのでは、反対派の王の長男がギリム山で幽閉されています。戦後それを使えばよいのではないでしょうか」
「ドルフ王を倒せるか」
ルミセフはペックスに聞いた。
「兵を集中すれば何とかなるでしょう。ただ、相手はドワーフですので倒した後どうなるかわかりません」
人とは違う。王が死んだからと言って戦意を喪失するとは限らない。残り二万が、王のかたきだと、燃えさかる森を乗り越え暴れ回るかもしれない。
「どんなに危なくても、手を入れなければ何も得られませんよ」
財務大臣のオランザが言った。




