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第三十七話、負けにくい戦い


 牧場跡


 牧場跡に立てこもるリボル達は夜襲におびえていた。鉱山暮らしで夜目の利くドワーフたちはたいまつを待たずに近づいてくる。人間の兵は、周辺に火をたき、見張りをたて警戒した。ドワーフは周辺を回るように、鎧の音が鳴らしながら、石垣に近づいてくる。

 暗闇、草むら、かがり火に反射し、ドワーフの目が光っている。

「野生の熊かよ」

 バナックは槍を持って警戒していた。暗闇の中では馬は使えない。弓も至近距離でなければ使えなかった。逆に頭を出していると、クロスボウの一撃を食らった。

 毎夜、ドワーフは攻めてきていた。石垣を壊そうとしてみたり、乗り越えてきたりもするが、本腰で攻めてくる様子はない。いずれは来ると、皆が思っていた。交代で眠っているとはいえ、武具の音を鳴らしながら近づくドワーフを前に熟睡できる者は少ない。兵の疲労はたまっていた。




 アリゾム山


「左の斜面に罠が仕掛けてあります。お気を付けください」

 ゴキシンは言った。オラノフ率いるドワーフの部隊は山中を移動していた。間者としてアリゾム山に長く潜入していたゴキシンは先頭に立ち案内をしていた。

「砦にいないとなると、奴らはどこに行ったのです」

 オラノフは言った。何人か兵を出し山頂の砦を見に行かせた。岩場の多い場所で、砦の建物は燃えて崩れ落ちており火はくすぶっていた。外壁もほとんど打ち壊されており廃墟となっていた。

「山の中でしょう」

「逃げたということはないのでしょうか」

 敵にとられるよりは防衛拠点を燃やして逃げるという考え方は珍しいものではない。

「彼らは山の男ですよ。そう簡単に山を明け渡すものですか」

 ゴキシンは幾分胸を張って答えた。

「それはやっかいですね。彼らを倒さない限り、アリゾム山を占拠したとは言えないということになる」

「ええ、しかしそう簡単にはいきませんよ。アリゾム山は彼らにとって庭同然です。いつどこで襲われるかわかりません」

 斥候を出しているが、帰ってこない部隊があった。

「追いながら、守りながら戦わねばならないということですか」

 オラノフはひげをしごき考え込んだ。

「そうなりますね」

「ゴキシン殿、失礼だが、先ほどからの、あなたの言動はどちらの味方なのかわからない」

 オロノフの部下が言った。

「これは、申し訳ない。長く、彼らと共にいたせいか。どちらに肩入れすればいいのか。忘れてしまうのですよ」

 ゴキシンは寂しそうに笑った。


「やっぱり罠には引っかかってくれないか」

 デノタスは遠く離れた山中の岩陰からドワーフの様子を見ていた。

「ドワーフの斥候が罠の位置を書いた地図をもっていました」

 副官のエンペドが血のついた地図を渡しながらいった。

 斥候の四人のドワーフを二十人で囲んで殺した。それでも二人犠牲が出た。

「ゴキシンだな」

 罠の位置は定期的に変えているが、その位置まで詳細に書かれていた。

「ええ、先頭で道案内しているようです」

「やっかいなのが敵になったな。いや、最初から敵だったのか」

「五十年の長きにわたって潜伏するとは、寿命の長いドワーフだから成立する芸当ですね」

「それだけ長いこと、ドワーフは、この山をよだれを垂らして見続けていたということだな」

「よほどいい鉱脈があるのかもしれません。ひょっとしたら、他にもそういう山があって、そのうちの一つだったのかもしれません」

「気の長いこった」

 デノタスは血のついた地図を握りつぶした。



 牧場跡


「砦を燃やしたのか」

 リボルは、アリゾム山山岳部隊からの報告を聞き驚いた。

「ええ、燃やしました。きれいさっぱり」

 伝令であるマッチョムは答えた。流石に報告しておかねばならないと、領主とリボルには伝令を出した。

「燃やしてどうするのだ」

「山に籠もります」

「砦でいいのではないか」

「それじゃあ勝てません。こちらの情報は筒抜けでしたから」

「山にいたって同じだろ」

「砦にいるよりましですよ。砦は一カ所しかありませんからね。山はだだっぴろいですから、いくらでも隠れられます」

「しかし、しばらく砦で戦ってもよかったのではないか。その後、山に籠もればいい」

「それじゃあだめです。砦が落とされたら、俺たちの負けは確定です。山の所有権はドワーフにうつったとお偉方は判断するかもしれません。そうなると、俺たちは、ただの敗残兵になっちまいます。ですが、こっちで燃やせば別です。そういう作戦ということになりますからね。俺たちが残っているうちは、山をドワーフが占領したとはいえなくなり、負けにくくなります」

 リボルは少し考えた。

 一理あった。確かにドワーフに砦が落とされたとなると、アリゾム山がドワーフに占拠されたと考える者があらわれるかもしれない。もし領主であるイグリットがそう考えれば、ドワーフとの間で交渉が行われ、何らかの協定を結ばれるかもしれない。

「わかった。燃やしてしまったものは仕方が無い。そういう策であると領主様にも伝えておく。歩兵を五百送っておいた。砦に向かっていると思うから、そちらの方でうまく活用してくれ」

 そう言い、送り返した。

「動きながら戦うか」

 伝令が去った後、リボルは一人つぶやいた。

 ドワーフ相手に足を止めて守りに入るより、山中で動き回った方が、足の遅いドワーフ相手には有効なのかもしれない。そう考えると、夜間の襲撃におびえながらも牧場跡の守りを固めていることが、正しいことなのか、リボルは自信が持てなくなった。



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