第三十六話、不明瞭な怒り
ドワーフ
「あのしっぽは、やばいな」
傷の手当てを行い食事をした後、ドロワーフ達は営舎で集まった。
「それほどのものか」
「ああ、まだそれほど味わっちゃいねぇが、槍なんて目じゃねぇ。間違いなく、あれが本命だ」
ドロワーフはうれしそうな顔をした。
「密集隊形が原因で使いづらかったということか」
メロシカムがいった。
「俺らと一緒だな、斧振り回すから詰めて並べねぇ」
「なら次は間隔を開けて、包み込んでくる可能性があるな」
「間隔を開けたところで振り回す武器は、難しいぞ。斧ぐらい短ければ別だが、あんな長ぇもん戦場じゃ使いにくい。上から叩きつけてくるだけだったら、軌道が読みやすいからなんとかなるんじゃないか」
「なるほど」
「中型のリザードマンはどうだった」
ダレムはトンペコに聞いた。
「力が強いし、上背がありますから、なかなかの攻撃力です。ただ、まとまりがなく、技術的にはたいしたことが無いので盾を使えばしのげます。むしろ統率がとれている人間の方がやっかいですね」
「脅威になるのは大型のリザードマンか。小型のリザードマンは参加しなかったようだが、予備兵と考えればいいのだろうか」
「だろうな、まだ若いリザードマンなんだろう。経験を積ませるために連れてきたんじゃないか」
「次出てくるときは、尾による打撃も戦術に組んでくるだろう。外に出て戦うのは不利なのかもしれんな」
「同感だな。壁を盾に戦った方がいい」
メロシカムが言った。
「おいおい、また籠もるのか。そんなんじゃいつまで経っても勝てないぞ」
「俺たちの目的は勝つことじゃない。相手の、のど元で敵を引きつけることだ」
「しかしよー、この壁じゃ乗り越えてくるんじゃないか」
二メートル程度の高さしかない。
「だが、しっぽによる打撃の心配はしなくてすむ。しばらくは壁を盾に守りに入る」
ダレムの言葉に、つまらんねぇ、とドロワーフはそっぽを向いた。
「問題は、援軍が来るまでもつかだな」
メロシカムは眉をしかめた。壁は補強しているとはいえ、剥がされれば壊れるし、補修する木材にも限りがある。
「ハイゼイツがヘドリル山方面から来ている。十日前後で来るそうだ。壁があるうちは無理をする必要性はない。ああ、それから、トンペコ、よくドロワーフを止めてくれた。礼を言うぞ」
「ええ、まぁやるといいましたからね」
トンペコは鼻をぴくぴくと動かした。
「これからも頼むぞ」
ダレムが肩を叩くと、トンペコはげんなりとした表情をした。
リザードマン
「恐ろしく強いものだな、ドワーフは」
ルドルルブがいった。ザレクスとルドルルブは、たき火の前で話していた。夜、兵を交代で休ませている。
「ええ、やっかいなことにそうなんですよ」
ザレクスは目線を上げた。人としてザレクスは大きい方だったが、ルドルルブとくらべるとずいぶん小さかった。
「我らの背の半分ほどしかないはずなのに、その力は我らと変わらぬ。我らより力が強い者もいた」
「赤毛のドワーフですね」
「ああ、何人も仲間がやられた」
ルドルルブは目を細め鼻息を一つ出した。悲しんでいるように、ザレクスの目には見えた。
「あの赤毛のドワーフは別格ですよ。ちょっと手がつけられない」
ドロワーフのことである。
「あのまま戦っていたら私も殺されていただろう」
ルドルルブはいった。
「そうはならなかった。それが重要ですよ」
「そうだな」
「我々は鉄の板を張り付けた盾を使っていますが、あのドロワーフとかいう、赤毛のドワーフには壊されます」
「鉄の板か。我々の盾にもつけてもらえないだろうが」
「いくつかできるかもしれませんが、奴らの援軍が来る前に決着をつけておきたいので、あまり数は用意できませんがよろしいですか」
「それでいい。よろしく頼む」
ザレクスはリザードマンの長盾に鉄の板を張り付けるよう指示を出した。
「くそ」
リザードマンのピラノイは、穴を掘りながら何に怒ればいいのかわからなかった。ピラノイはサロベル湖で漁師をしているプレドの友人である。
亡くなった仲間の遺体を埋めていた。十八人のリザードマンが死んだ。怪我をしたものの数はもっと多い。死者はもう少し増えるかもしれない。亡くなったリザードマンの中には知りあいもいた。
ドワーフに殺されたのだから、ドワーフを恨めばいい話なのだが、リザードマンは湖の漁業権欲しさに人とドワーフの争いに首を突っ込んだのだ。望んで戦いに参加したともいえる。戦いに参加しないという選択肢もあった。一概にドワーフが悪いとは言えなかった。
人にだまされたというわけでもなかった。取引なのだ。
魚が捕れなければリザードマンはいずれ死に絶える。人の法の下で、自らの利益を確保するため取引を行い戦争に参加した。長老達の判断も間違ってはいない。
にもかかわらず、ピラノイは怒りを抱えていた。何が悪いとは明確に言えなかった。ただ、その結果が。
「くそ」
なのである。




