第三十五話、人とリザードマン、ドワーフとの戦い
フエネ平原北、人間とリザードマン
物見の報告によると、ギリム山から援軍の動きがあることがわかった。ドワーフの援軍が来る前に、フエネ平原北にいるドワーフの陣を落とす必要性があった。ザレクスは、もう少しリザードマンの調練を行いたかったが、そのような時間はなかった。
ザレクスはドワーフの陣から見て西側から歩兵二百を進め、北からは、ルドルルブ率いる四百のリザードマンとベネドひきいる百人の歩兵を進めることにした。プロフェンひきいる騎馬隊五十は遊軍として好きに動くよう命じた。
フエネ平原北、ドワーフ
ダレムはドワーフの兵百をひきい、西の歩兵に対応し、北のリザードマンと人間の混合部隊に対しては、兵二百を、ドロワーフと、まだ若いトンペコにまかせた。残りの百は守りに残した。
「いいか、トンペコ、相手のリザードマンの力を試すための戦だ。引き上げの合図が出たら、ドロワーフをなんとしても下がらせろ。わかったか」
ダレムは戦の前にトンペコを呼び出した。まだヒゲも生え揃わない若いドワーフである。
「あの、やるだけやってみますが、無りっぽいんじゃ。あのドロワーフさんですよ。私の言うことなんか、聞きませんよ。メロシカムさんに変わってもらえませんか」
目が泳いでいる。
「だめだ。メロシカムは、ここの守りをして貰う。騎馬隊にも対応してもらわなければならな。ドロワーフの相手はおまえしかいない」
ドロワーフを止めるのはメロシカムでも難しいだろうと思っていた。かと言って外せば、戦力が大幅に減る。誰がやっても難しいのなら、若いトンペコにやらせてしまえと、ダレムは考えた。ドロワーフは年寄や上官の言うことは聞かないが、自分より若いものの話は意外と聞いた。身勝手な男だが、若いものを守らなくてはいけない。そういう気持ちが少しはあるようだった。どうしてもだめな場合は、ダレムがドロワーフのところに直接行って、言うことを聞かせるつもりだった。
「やれと言われればやりますよ。そりゃ、やりますよ」
トンペコは投げやりに言った。
ザレクスは歩兵隊二百をドワーフの陣の西側に進めた。ダレムも同じく西側に、兵百を率い陣の外に出た。
北では、リザードマン四百とベネド率いる歩兵百と、ドロワーフとトンペコが率いる二百のドワーフが相対していた。
西、ザレクス率いる歩兵隊は金属の板を張り付けた盾を前にじりじりと近づいた。少し離れた場所から騎馬隊を率いるプロフェンが突撃の機会をうかがっている。ダレムはそちらを警戒しながらも、盾を持ったドワーフ兵を前に進めた。徐々に距離が近づいていくが、なかなかぶつからない。お互い、リザードマンの実力を試す、その方針で兵を出したため両者様子見だった。
北では、盾を持った大型のリザードマンが隊列を組み密集して構えている。
ドロワーフ達はそれを見上げた。
「こりゃでけぇえな」
ドロワーフは感心した声を出した。
「そ、そうですね。壁みたいですね」
ドロワーフより小さいトンペコの目には槍を持った木の壁があるように見えた。
「よし行くか」
ドロワーフはハンマーを担いだ。
「えっ、いきなりですか。もうちょっと様子を見た方が」
「だから、様子を見に行くんだよ」
ドロワーフは、にやりと笑い駆けだした。つられて兵が前に動く。
「いや、ちょ、まってください。側面突かれますって、右に五十、側面からの攻撃に対応してください」
トンペコは慌てて指示を出した。
リザードマンは盾を構えながら槍をあげた。三メートルはあるリザードマンが自分と同じ身長の長さの槍を上にあげた。
ドワーフは、ドロワーフを先頭にばらばらに近づいてくる。
「やれ!」
ベネトの命令にリザードマンは槍を打ち下ろした。
先頭を走るドロワーフに槍が集まる。
「おいしょ!」
ドロワーフはハンマーを上に、槍の打撃をハンマーの柄で受け止めた。打撃の重さに、ずっしりと膝が曲がる。ドロワーフの両肩の筋肉が盛り上がり、打ち込まれた槍が振り払われる。ドロワーフは前に出ようとするが、別のリザードマンの槍が振り下ろされる。ハンマーで受け止める。鋭い上に強い。前に進めない。
ハンマーを小刻みに動かし槍を防ぐ。兜で受け止める。二の腕にいくつか傷ができていた。
ドロワーフの元へ複数のドワーフが集まる。攻撃が分散される。ドロワーフはじりじりと近づく。
上からから打ち込まれる槍を、ドロワーフは鉄の塊ともいえるハンマーで、あるいは兜で受け、たまにひょいと避けながらも近づく。リザードマンの攻撃に耐えきれず倒れ込むドワーフもいる。それでも近づく、這うように、傷を負いながら、ドロワーフと数人のドワーフが、リザードマンの足元、射程圏内に、近づいた。
「なっ! がーーん!」
ドロワーフはハンマーを握りしめ、リザードマンが持つ長盾目がけ、振り下ろした。
盾は上から下に真っ二つに割れた。
ドロワーフは前に進み、左右にハンマーを振り回した。リザードマンが少し距離をとる。その空いた隙間に他のドワーフが集まる。ドワーフは両手斧を手に斬り込む。リザードマンは盾に隠れる。攻撃の手が止まる。
木片が飛ぶ。両手斧を持ったドワーフ、あるいはハンマーを持ったドロワーフが、リザードマンの盾を壊していく。
「引いてください、ルドルルブさん!」
状況を見てベネドが言った。
「引け!」
リザードマン達は盾を構えながら後ろに引いた。その歩みは遅い。リザードマンはしっぽがあり、前傾姿勢なため、体の構造上後ろに下がるのは苦手であった。ドワーフは追いく。長盾の隙間を狙い斧をねじ込んでいく。
「ドロワーフさん、深追いしないでください」
トンペコがハンマーを振り回しているドロワーフに声をかけた。
「どえっしゃー!」
リザードマンの盾をたたき壊し、はじき飛ばしている。聞いていない。
「リザードマン第二部隊前へ」
ベネトは東に控えていたリザードマンに命令した。リザードマンの第二部隊二百が、前進した。中型のリザードマンである。人間の歩兵百も前に出た。
あらかじめトンペコが指示を出していた五十のドワーフが、東から現れた中型のリザードマン二百と人間百に対応する。
五十のドワーフはミスリルの兜を前に出し、斧を構えた。
中型のリザードマン、といっても二メートル前後あるリザードマンである。それが両手に槍を持って前に出てくる。盾は持っていない。リザードマン達はドワーフを槍で殴りつける。ドワーフは斧や兜でリザードマンのやりを受ける。血を流し膝を突くものが出る。耐えるように、その場にとどまる。
トンペコが指示を出し、盾を持ったドワーフ三十ほどを援軍に送る。盾と槍を持ったドワーフが前面に出る。リザードマンは突きに変えて盾の隙間を突こうとする。ドワーフは槍を盾で受けながらじっと耐える。
ドワーフの陣から見て西側、ザレクス率いる歩兵隊とダレムが率いるドワーフ兵がようやくぶつかり、押し合いをしていた。ダレムは指揮を取りながらも、北の様子をうかがっていた。
押し合うが、お互い前には進まない。
矢の音がした。ドワーフの陣から、矢が何本か飛んでいた。矢が飛んだ方角を見ると、プロフェン率いる騎馬隊がいつの間にか、ダレム達の側面に近づいていた。矢をうたれた騎馬隊は距離をとる。
「おい! ぼやっとすんじゃねぇ! 集中しろ!」
メロシカムが怒鳴った。
「すまん!」
ダレムは目の前の敵に集中した。
北では、中型のリザードマンと人間の兵が、トンペコ率いるドワーフ軍の側面を突こうとしていた。盾を持ったドワーフの兵がそれに対応していた。リザードマンが槍で盾を持った兵に攻撃を加えている間に、人間の兵が、すり抜けようとするが、斧を持ったドワーフの歩兵がその動きを封じた。
ドワーフの右側を突いたことにより、大型のリザードマンを攻めるドワーフの猛攻は弱まるとベネドは考えていたが、あまり変わらなかった。
「普通、気にするよな」
ベネドはあきれた。味方が側面を突かれたら、普通は気になる。原因はおそらく先頭で暴れ回っているドワーフであろうと推測できた。他のドワーフもつられているのだ。
「べらっしゃ!」
ドロワーフは元気にハンマーを振り抜いている。三メートルあるリザードマンがドロワーフのハンマーに殴られ、へし折れるように倒れてた。
「あのドワーフか」
ベネドは思い出した。
立てこもるドワーフに悪口を言い挑発したことがあった。その時、一人飛び出してきた赤毛のドワーフである。
大型のリザードマンの隊列が大きく崩れそうになっていた。今は無理をするような状況ではないので、撤退させようかとベネドが考えていたところ、ルドルルブがドロワーフの前に出た。
「おう、強そうじゃねぇか」
ドロワーフが笑った。ルドルルブは槍で突いた。ドロワーフはハンマーの柄で受け止めた。それを引き、すぐに二撃三撃と突いた。ハンマーの頭に当たり、削るように火花が飛び散る。ルドルルブの槍が高々と上がる。ドロワーフが少し前に出る。槍が振り下ろされる。ドロワーフはハンマーの柄を上に槍を受け止めた。体が沈む。
「おう、こりゃすげぇ」
ルドルルブは再び槍を振り下ろす。ドロワーフは受け止めながら、前に進む。
「まずい」
ベネドは舌打ちした。リザードマンの指揮官を失えば、今後の戦いにおいて、かなりの痛手になる。ベネドはルドルルブを助けるため、人間の歩兵と中型のリザードマンを強引に進ませた。互いに犠牲が出る。
圧力が増えた中型のリザードマンと人間の攻撃をなんとかしのぎながら、そろそろ潮時ではないかと、トンペコは、ドロワーフの様子を見た。戦いに熱中しているようで、引く気配はない。
陣を見ると、メロシカムが手を振り、退却の合図を出していた。
トンペコはその場を部下に任せ、ドロワーフの元へ走った。
ドロワーフは槍を防ぎながらじりじりと、ルドルルブの足元まで近づいた。ルドルルブは槍を短めに持ち、突きを入れた。
「ほい」
ドロワーフは槍を兜に当てはじいた。ドロワーフの鎧兜は厚めの鋼でできている。ミスリル合金の鎧兜では、重みがなくて腰が回らない。と、断った。
ルドルルブのやりを兜で受け止めたあと、ドロワーフは前へ進み回る。ハンマーで思いっきり盾をぶったたく。ルドルルブの盾にひびが入る。ルドルルブは後ろに下がった。
もう一撃と、ドロワーフは一歩前に進んだところで止まった。何か来る。そう思った。後ろに飛んだ。何かが落ちてきた。ドロワーフの顔をかすめ地面に、なにかがたたきつけられた。槍、ではない。尾である。
ルドルルブは背を向け、尾を高々と上げたたきつけたのだ。尾を振るうスペースがないため、体をひねり尾を上にあげ叩きつけた。尾は、なめした水牛の皮を巻き付け、その上に尾球という、尻尾の先端が出ないような形状のまるびを帯びた金具をつけてある。それを叩きつけのだ。
「いーもん、もってんじゃねぇか」
ドロワーフの頬に小さい切り傷ができていた。血が垂れた。
「左だ! 騎馬隊だ!」
メロシカムが大声をだした。
プロフェンの騎馬隊が大型のリザードマンを攻めているドワーフの側面を突いた。数人のドワーフがはじかれるように倒れた。
「まずい、ドロワーフさん、早く撤退を」
トンペコがドロワーフの肩をつかんだ。
「いいところだ。邪魔するな」
ドロワーフはトンペコを振り払った。
(いけるかもしれない)
ベネドはそう思い始めていた。右側のドワーフも崩れ始めていた。このまま騎馬隊とともにドワーフを左右から押しつぶせば、後は陣に残るドワーフと歩兵隊に対応しているドワーフのみである。檄を飛ばした。
メロシカムが兵を率い、陣の外に出ていた。クロスボウで騎馬隊を牽制している。
ドロワーフ以外のドワーフは、撤退の指示に、じりじりと後退しつつあったが、ドロワーフが前に行くので、その動きは遅かった。
「撤退してください!」
トンペコはドロワーフの体にしがみついた。
ルドルルブの尾球が飛んできた。ドロワーフはハンマーで、尾球をはじいた。
「ちっ」
ドロワーフは舌打ちした。
「ドロワーフさん」
「引き上げだ!」
ドロワーフは左手にトンペコを抱え、右の肩にハンマーを担ぎ、やれるものならやってみな、と、幅の広い、ぶ厚い背中を存分に見せつけ引き返した。




