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第二十九話、バナックの活躍

 傭兵


 鋼の鎧を着て馬に乗って戦えば、馬の消耗が激しく動きも鈍くなる。だがミスリルの鎧は鋼に比べ軽いうえに硬い。ミスリルの鎧を着た騎馬隊と鋼の鎧を着た騎馬隊が戦えば、当然ミスリルの鎧を着た騎馬隊が勝つことになる。領兵の騎馬隊は瞬く間にすり減らされた。

「はっはっはっ、すばらしい! ミスリル万歳だ!」

 傭兵隊の隊長マヨネゲルはミスリル製の剣を手に言った。軽い。一見、頼りないぐらい薄い板で組み合わされているものの、至近距離のクロスボウでさえ跳ね返す強度。相打ちでいいのだ。あちらの武器はこちらに通らず、こちらの武器はあちらに通る。負ける要素が見当たらなかった。

「さて、貰った報酬に見合う仕事をしなくてはな」

 マヨネゲルは馬の腹を蹴った。


 バナックは元は馬泥棒だった。牧場や戦場で馬を盗んでいたが、名が売れ、追っ手が迫るようになり、しばらく身を潜めることにした。さばききれなかった馬がいたため、それを配下に与え、傭兵団を名乗ることにした。そのまま、傭兵として働くことになった。十五年ほど前のことである。

「兄貴ぃー、どうするんですかい」

「どうするもこうするも、助けに行くんだよ。助けられちまったからな」

 義理堅い、というより、恥をかいたという気持ちの方が大きかった。

「あんなきらきらした鎧着てる連中、俺たちにゃ、なんか、やばいっすよ」

 自分たちの身につけているものを見た。垢じみた服と、補修の跡がある皮鎧。きらびやかなものは一つも無かった。

「まともにぶつかる気はねぇ。必要なものだけでいい。できるだけ身軽にしろ」

 そういうと、バナックは皮鎧を脱ぎ捨て、馬に乗った。


 マヨネゲル率いるドワーフが雇った騎馬隊は、逃げようとする兵を横から背後から押し倒すように串刺しにした。マヨネゲルの騎馬隊に矢を射ろうと弓兵が前に出ると、ドワーフがやってきて弓ごと人間をへし折る。連携ができていた。

「ま、守りを固めろ。立て直すんだ! とりあえず!」

 指揮官のスプデイルは兵をまとめようと声を上げた。

「これじゃあ逃げるに逃げれんぞ」

 ゴプリは顔をしかめた。全員が一斉に逃げれば分散して生き残れる確率が上がるが、まとまって逃げれば確実に騎馬隊に狙われる。かといってとどまっていればドワーフに切り刻まれる。レマルクが率いていた騎馬隊は、ほとんど残っておらず、生き残ったものは馬に乗って先に逃げていた。

 馬蹄がした。

「て、敵か」

 スプデイルは別の方面からの騎馬隊に恐怖を感じた。

 よく見ると、鎧兜は着けず、小汚いなりをした馬に乗った男達であった。槍を手に、布袋を腰にぶら下げている。バナックの騎馬隊である。

「野郎ども行くぞ!」

 バナックはドワーフ目がけて突っ込んだ。軽く槍を突き、横にそれるような形で、すぐに離脱した。何度か繰り返すと、ドワーフがばらけた。

「よし、今だ。移動するぞ」

 どうやら味方らしいと、安心したスプデイルは、歩兵を北に移動させた。


「鎧も着ていないか」

 機動性を重視したのか、それとも金がないのか。同じ傭兵同士、マヨネゲルは少し脅すような形で、バナックの騎馬隊の横を走った。バナックの騎馬隊は方向を変え避けた。マヨネゲルの騎馬隊が近づくとバナックの騎馬隊は離れた。それを何度か繰り返す。

「陽動か」

 マヨネゲルは騎馬隊を二十騎ほどバナックに対応させ、残り五十騎をつれ、北へ逃げる人間の歩兵の前方に回り込み、剣でなぎ払った。歩兵の速度が落ち、滞ったところを後ろから追いかけてきたドワーフが攻撃する。

 二十騎の騎馬隊がバナックの騎馬隊を一定の距離あけながら追いかける。

「ちっ、しつこい奴らだ」

 バナックは一度、速度を上げてから、反転した。腰にぶら下げてある布袋に手を入れた。すれ違う瞬間、布袋から手を出し、手のひらに握っていたものを、馬に向け投げた。馬は驚き立ち止まり首を振った。灰である。バナックは布袋に入れた灰をすれ違いざま馬の顔に目がけ投げつけた。バナックの後続の兵も同じように、すれ違いざま灰を投げた。何頭かの馬の目に入り、竿立ちになる馬も出た。

「卑怯な」

 マヨネゲルの部下が言った。

「卑怯で結構」

 そんな高そうな鎧着やがって、何言ってやがるんだとバナックは思った。

 バナックは灰を投げつけることを二三度行った。四度目は、身構え動きが遅くなった騎馬隊に対して、槍を下に低く構え、馬の足元を、すれ違いざまに切り払った。馬は馬鎧を身につけていたが、太もも付近に防具はなかった。

 何頭か足を傷つけられ動けなくなる馬が出た。とどめを刺そうと槍を構えると、マヨネゲルが五十騎の騎馬隊を引き連れこちらに向かってきた。バナックは慌てて逃げた。

「逃げるな」

 せっかくのミスリル鎧を無視するかのような灰による攻撃に、マヨネゲルは不快感を感じていた。

 逃げるバナックを執拗に追いかけた。バナックたちが、近づいてきたところで灰を投げつけようとすると、マヨネゲルは一度距離を取り、タイミングをずらしてから速度を上げ、横から突っ込んだ。バナックの騎馬隊が何騎かやられた。

「怒らしちまったかな」

 バナックは西のリボルが立てこもる陣の方角へ慌てて逃げる。マヨネゲルは追いかける。近づくとリボルの陣から矢が飛んできた。マヨネゲルは、あきらめ引き返すが、すでにゴプリ達が属する歩兵部隊は逃げており、あらかた北の野営地に避難していた。




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