第二十八話、ミスリルの傭兵
「人間だけが、傭兵を雇うと思うなよ」
ムコソルは笑った。近くの林に人間の傭兵を伏せさせていた。レマルクの騎馬隊に南に押し込まれているように見せかけ、傭兵を伏せさている位置まで誘い込んだ。
ドワーフの足の遅さは十分承知している。それをカバーするために騎馬隊が必要であったが、手足が短い割に体重が重いドワーフにとって馬に乗って戦うという行為はかなり難しいものがあった。そこでムコソルは人間の傭兵を雇うことにした。騎馬隊主体の傭兵で、それ相応の強さがなければ意味が無かった。いくつか当たりをつけ、一角馬団という傭兵を雇うことにした。
騎士の家の次男坊以下の食い詰めを積極的に集めて作った傭兵団で、全員乗馬と剣の訓練をそれなりに受けている。団長のマヨネゲル自体どこぞの騎士の三男坊らしい。
足元を見られ、かなりふっかけられたが、契約金の半分をミスリルの武具で支払うことで合意した。その分ドワーフが身にまとう予定だったミスリルの防具が減ってしまったが、ミスリルの武具で武装した人間の騎馬隊を手に入れることができたと考えれば大幅な戦力増強となる。傭兵側も滅多に手に入らないドワーフ製のミスリルの武具を手に入れることができ、互いによい取引をしたと言える。
追い打ちをかけるよう、ムコソルは命令を下した。
「ああ、まずいまずい、どうしよう。ひ、ひけぇ」
レマルクの死んだことを知った歩兵の指揮官であるスプデイルは、撤退の指示を出した。レマルクの次に地位の高い人間がスプデイルだった。
北に逃げるかリボルがいる西に逃げるか少し悩んだが、西の牧場後にはリボルがいるが、ドワーフもいる。それならばm野営した北にとりあえず逃げることにした。
北に逃げる人間の歩兵をボリジの部隊が追いかける。足の遅いドワーフの部隊は追いつけなかったが、ドワーフに雇われた傭兵団が馬で回り込んできた。足が止まる。ボリジの部隊が追いつき挟み込まれる。
「誰か、騎馬隊を、騎馬隊の傭兵をなんとかしろ! 盾持ち、前線に出てドワーフを止めろ」
混乱しながらも指揮官のスプデイルは指示を出した。レマルクを失い、混乱していた騎馬隊は少しずつまとまりだしたが、ムコソルの軍が取り囲んでおり、身動きできず一騎ずつ減らしていた。
「軽くでいい、槍で突いて牽制しろ」
「は、はい」
プレドはゴプリの指示通り、ドワーフに対して槍で何度かついた。ドワーフは鬱陶しそうに頭を下げ、斧で払った。
「せくなよ。おまえの腕じゃあ返り討ちじゃからな。よし、少し下がれ」
言われたとおりプレドが一歩下がると、一体のドワーフが前に出た。そこをゴプリが槍で一つきした。槍は左の首に突き刺さり引き抜くとドワーフは血しぶきを上げて倒れた。
「お見事!」
プレドが言った。
「うむ、だがもう、くたくたじゃあ」
ゴプリは槍にもたれかかった。顔色が悪く頬がこけている。新兵や退役兵などが多く、ドワーフの兵に圧倒されていた。移動しようとすると、ドワーフ側に雇われた騎馬隊の傭兵が襲いかかり、足が止まる。そこをドワーフに食いつかれる。そのくり返しだった。
騎馬隊が三十騎ほど、まとまりスプデイルに合流した。
「よし、ドワーフが雇っている騎馬隊を牽制しろ! 北へ移動するぞ!」
歩兵の指揮官はレマルクが指揮していた騎馬隊に命じた。ドワーフの雇った騎馬隊にレマルクが指揮していた騎馬隊がすれ違うような形で何度かぶつかる。兵の数が少ないため、あまり強くはぶつからない。その間に、人間の歩兵は北へ移動する。行く手を遮るように、ムコソルの部隊が北に先回りしていた。
「逃がさんよ」
ムコソルは盾とメイスを手に立ちはだかった。ドワーフは横に広がっている。
「突っ切れ!」
ぶつかる。突っ切ろうとする人間の歩兵の足が止まる。
「こりゃ下手にまとまるより、潰走した方がいいかもしれんな」
ゴプリは槍を杖に息を切らせなら言った。人間の兵の方が数が多い。ばらばらに逃げればドワーフは追いつけないし、騎馬隊も的を絞れない。指揮官はそれに気づかず、何とか兵をまとめようとする。足が止まる。ボリジの部隊が追いつく。挟み込まれさらに数を減らした。
牧場跡
「レマルクが死んだ」
リボルはその報告を聞いてショックを隠せなかった。長年にわたってリボルを支え続けてきた男であった。年が三つ上で、勝てる部分と言えば家柄ぐらいだった。
「人間の傭兵か」
その可能性を検討しなかったわけではない。だが、ドワーフの強さを考えれば人間の傭兵に頼る可能性は少ないのではと思っていた。ミスリルの武具で身を固めた傭兵とは、考えてもいなかった。
「囲まれていますな」
スタミンがレマルクが率いていた部隊がいる方角を見ながら言った。
「ああ、敵の騎馬隊にいいようにやられている」
顔をしかめた。
「いかがいたします」
リボルの陣もドワーフに攻められていてる。距離もある。下手に助けに動くと、さらに犠牲が増える可能性があった。
「騎馬隊を出す。レマルクの部隊は、ばらけさせて一度北に戻させて、その後こちらに合流させる」
北の野営地には、補給物資と夜襲を警戒して、一応、防御柵が立てられている。
「わかりました。では誰を」
「俺がいきます! いかせてください!」
バナックが声を上げた。
「おまえがか」
汚名返上を狙っているのだろう。もう一度指揮を任せるには不安があった。
「俺の兵隊だけでもいいです。いかせてください」
前の戦いで犠牲は出たが、バナックの馬が四十頭ほど残っていた。リボルの目から見てたいした馬ではない。仮に失敗したところでたいした痛手にはならないだろう。手勢の騎馬隊を温存できることを考えれば悪い話ではない。
リボルはスタミンに目をやった。いいのでは、とうなずいた。
「いいだろう。行ってこい。無茶をするなよ」
「ええ、まかしておいてください」
バナックは仲間を集めに走った。




