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第二十六話、バナックの反省

 国軍


「本当に俺たちだけでやるんですか」

「ああ、そうだ」

 モディオル率いる国軍はフエネ平原をつっきるように東に向かっていた。

「二万いるんですよね。ギリム山のドワーフって」

 モディオルの部下であるカルデは眉をしかめた。味方は千二百人しかいない。しかも、半数は新兵と傭兵だ。

「そう聞いている」

「俺たちだけで食い止めるんですか」

「ギリム山のドワーフが合流したら、もっとやっかいなことになるからな。その前に奴らを押さえておかなければならない」

「それ、本当に俺たちだけでやるんですか」

 カデルは念を押した。

「そう命じられている」

 モディオルは答えた。




 フエネ平原北


「どうだ働いているか」

 白髪の男が、フエネ平原北で指揮を取るザレクスの営舎を訪ねてきた。

「父上」

 ザレクスが言った。

「ジダトレ様、どうしてここに」

 ザレクスの副官のベネトがいった。

 ジダトレはザレクスの父であり、オラム砦の副指揮官をしている。

「補給のついでだ」

「父上、マデリルの様子はどうでしょうか。体など壊していないでしょうか」

 ザレクスは言った。

「おい、なんでおまえは嫁の様子を一番に聞くんだ。だいたいしょっちゅう手紙のやり取りをしているんだろう。元気だよ。別に何ともない」

「そうですか」

 何ともないと言われると、それはそれで残念な気持ちにザレクスはなった。

「心配していた。たいそう、おまえのことを心配していた。これでいいか。それで、戦いの方はどうなっている」

「膠着状態というか。こちらから手が出せない状況です」

「やはり無理か」

「はい、非常にかたく、強いです。いたずらに攻撃を仕掛ければこちらの犠牲の数が増えるだけです」

「そうか」

「援軍の件はどうなりましたか」

「無理だな。オラム砦の兵をこれ以上さくことはできない。傭兵を雇う金もない。まともな兵はリボル殿が連れて行ってしまった。しかし、悪い話ばかりではないぞ。国軍が来たそうだ」

「国軍ですか」

「だが多くはない。千二百だ。何をしたいのかギリム山方面に向かっていった」

「こちらには来ないのですか」

 ベネトは眉をしかめた。兵の質にもよるが、千二百の援軍が来てくれれば戦況を変えることができる。

「ああ、わしも奴らが何をしたいのかよくわからん」

「そうですか」

「その援軍の件だが、おまえらに少し相談したいことがあるんだ」

「なんです」

「援軍の心当たりが一つだけあるんだが、ちとややこしい」

「なんです。おっしゃってください」

「サロベル湖の北に、リザードマンがいるのを知っているな」

「まさか」

「そうだ。リザードマンに援軍を頼めないかどうか考えたのだが、どうだろうか」

「リザードマンですか。強いのですか」

「ああ、かなり強い。冬になると動きが鈍くなるが、まだそれほど寒くなってはいない。ドワーフと十分戦えるはずだ」

「強い兵であれば何でもかまいませんが、当てはあるのですか」

「ないな。だが、この辺りで使えそうな兵力と言えば、リザードマンぐらいしかいない」

「どのぐらいいるのです」

「総数としては四、五千人程度はいると聞いたことがある。どれぐらいの兵力があるのかはさっぱりわからん」

「しかし、来てくれるでしょうか」

「わからん。正直望み薄だと思うが、おまえらに異存が無ければ領主様にお願いしてみようと思う。わし個人で動ける話ではないからな」

「こちらとしては、異存はありませんよ。なにか動きがないと、プロフェン殿にせっつかれるのは、もう、うんざりですから」

 ザレクスは肩をすくめた。




 牧場跡


 暗くなり、ドワーフは兵を引いた。

 レマルクの軍はドワーフの軍の少し離れた北側で野営した。

「誰か知らんが、石垣を作ってくれた人間に感謝せねばな」

 リボルは言った。石垣は所々ドワーフによって破壊されたが、ドワーフの侵入を許さなかった。

「ドワーフ避けになるとは、ここを作った牧場主も考えてはいなかったでしょう」

 スタミンは笑った。 

「うむ、あとはレマルクが背後から奴らを蹴散らしてくれれば、この戦、勝ちが見えてくる」

「奴ら馬に対応できていませんでした。まぁ一部、しくじったものもおりましたが」

「あの傭兵か、無茶しよって、戦意がない傭兵も困るが、ありすぎるのも困るな。あの男の処分はどうする」

「傭兵隊の指揮はもう無理でしょう。別のものにまかせて、あの男はとりあえず私のところで預かるということでどうでしょうか」

 へまをしたが、戦意のあるものが嫌いではなかった。

「それでいい」

 補給と部隊編成の話を少ししたあと、リボルとスタミンは分かれた。


「やっちまった」

 バナックは落ち込んでいた。馬に乗り暴れ回っているうちに、自分が物語の英雄か何かになったような気分になってしまい、周りが見えなくなっていた。結果、預かった兵を半数近く失ってしまった。顔を上げて周りを見ることができなかった。

 背後に人の気配がした。

「よう、間抜け、しっかり落ち込んでいるようだな」

 スタミンがバナックの横に座った。

「すいません。先ほどは、助けていただきありがとうございました。命拾いしました」

 平謝りした。

「やっちまったことは仕方ない。おまえさんの処分だが、傭兵隊全体の指揮は取り上げる。おまえとおまえさんのところの傭兵隊は私の指揮下に入れ」

「はい」

 まぁ、元気出せと、スタミンはバナックの肩を叩き、他の兵の集まりに向かった。



 


 ドワーフの北側、レマルクの陣、兵と馬は休んでいた。

「年じゃな、しばらく動けそうにないわ」

 ゴプリはプレドに、薬草を背中に貼って貰っていた。

 ゴプリはドワーフ相手によたよたと八人ほど倒した後、へろへろになって動けなくなった。その後はプレドの背中におぶわれ逃げ回った。

「いやー、しかし大活躍でしたね先生」

 ゴプリの怪しげな槍さばきに、プレドは感銘を受け勝手に師と仰ぐことにした。

「まぁな、あと十歳若ければ、あの倍ぐらいは敵を葬れたのだがな」

「さすがです先生、私も見習いたいものです」

「よい心がけだ。気が向けば教えてやろう」

「ありがとうございます」

「まずは、当てることよ。当ててからさすと思え」

 ゴプリは身振り手振りをまじえながら、戦場における槍の極意を早速教え始めた。それをプレドは真剣に聞いた。

「なるほど、次の戦の時は試してみたいと思います」

「うむ。やってみなさい。実戦に勝る修練はない。だが、ボリジとか言うドワーフとは戦わん方がいいだろうな」

「なぜです」

「強いからだ」

「先生でも勝てませんか」

「うーん、やってみなければわからんが、勝てる気はせんな。槍が刺さるイメージがせん。あれが来たら逃げ回るが吉じゃ。うちの歩兵の指揮官も、それを感じたんじゃろう。力押しにするのではなく途中から引きながら戦っておった」

「なるほど」

「逃げるのも槍の極意よ。相手の攻撃が届かぬところで、ちくちくやればよい」

「なるほど」

 プレドは槍を握りしめうなずいた。





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