第十九話、領主の考え、ドルフの出陣、リボルの焦り
領主
「噴火の件、どう思う」
ソロン達が部屋から出た後、領主のイグリットは腹心の部下に問うた。
「筋は通っているかと、一連のドワーフの行動、ギリム山の噴火と言うことならば、理解はできるかと思います」
「確かにそういう事情なら、わからなくはないな。どちらにしろ確かめねばならないだろう。国王は、この件、ギリム山の噴火についてつかんでいるのだろうか」
「わかりません。返答もまだ来ておりません」
イグリットは国に援軍の要請の手紙を出した。
「知っていたなら、兵を出し渋ってくるかもしれんな。兵を出さず、和解を進めてくるかもしれん」
「口だけ出されるのは、困りますな。ドワーフが和解に応じるとは限らないですし」
「そこだよ。金も人も出さずに、ドワーフの面倒を押しつけられたらたまったもんじゃない。そもそも、やつらどこまでやる気なのだ。ギリム山が噴火するからと言って、バリイ全体を支配しようなんて考えているとは考えにくい。フエナ平原を切り取り、ドワーフの国にしようと考えているのだろうか」
「しかし、あそこはそれほどいい土地では、ありません。土地もやせていますし、所々湿原地帯もあります。ドワーフが農耕をするところをあまり想像ができませんがうまくいくでしょうか」
「知らんよ。フエナ平原なぞいくらでもやるが、欲をかいて、オラム、サロベルと攻められたら困る。その先はここだ」
イグリットは舌打ちした。
「そこまでやるでしょうか」
「わからん。どちらにしろ、兵の数は欲しい。こちらが負けそうな状態では、交渉にならん。リボルは何をやっているのだ」
「ドワーフが守りを固めて、こもってしまっているようで、なかなか手が打てないようです」
「頼りにならんな。もう一度、国に対して、援軍の要請をしろ。ギリム山噴火の件は伏せてな」
「かしこまりました」
「あのエルフに親書を持たせ、和解の交渉を行っている間に、国からの援軍を待てばいい」
「親書の内容はいかがいたしましょうか」
「話し合いの準備がある、程度でいい。後は奴らが喜びそうなことを、様々な支援の用意があるとでも書いておけばいい」
「わかりました」
「その後のことは、その時々で考えればいい。和解が成立したら、時間をかけて、奴らの武装を解除していけばいい。約束を破ろうが何をしようが、ドワーフに対する恨みが残っているうちなら、問題ない。人の社会だ。文句を言う人間がいなければ、ドワーフに何をしてもいい」
ドワーフの王
ドワーフの王、ドルフは馬上にいた。馬と言っても人間が乗るような大きな馬ではなく、ドワーフ用に改良された背の低い馬である。
ドルフは二千の兵を率い、ギリム山南西の森の中を移動していた。兵の士気はいいとはいえなかった。戦に興奮している者もいれば、顔を下に暗い雰囲気を持っている者もいた。
「もう少し、明るい顔をなされよ」
ドルフの側近ムコソルが言った。
「そうだな」
ドルフはため息をつき背筋を伸ばした。
「そうであるぞドルフ王、これから戦というのに、辛気くさい顔をしてはいかん。勝機が逃げてしまう」
同じく馬に乗った白髪を頭の後ろでまとめた筋骨たくましいドワーフが言った。
「わかっているボリジ殿。だが、気が乗らないものは乗らないのだ。戦になれば、シャンとなるだろう」
「それは楽しみだ。アデル族との戦いでの活躍、聞き及んでおりますぞ。共に戦えるのは楽しみだ」
ボリジはうれしそうに笑った。
「はるか昔のことだ」
ドルフは再びため息をついた。
フエネ平原
リボルは焦っていた。ギリム山から、二千ほどの兵が出発したと報告があった。こちらの戦力は千人程度。ドワーフの軍が合流すれば勝ち目はなくなる。多少の犠牲を出してもフエネ平原のドワーフを押しつぶす必要性があった。陣を構えるドワーフを蹴散らし、平原でドワーフの本体を迎え撃ち騎馬隊で蹴散らす。リボルには、それ以外の勝ち筋は見えなかった。
少し編成を替え、ベネト率いる歩兵隊に、傭兵、民兵が集まった部隊を組ませることにした。
歩兵隊が前に出るとドワーフの兵が柵の外に出て対応した。押し合いになる。ドワーフも盾の扱いに慣れてきたのか、しっかりと押し返してくるようになった。
歩兵隊を前に出し、柵に取り付こうとした。小盾を前に出し、槍と手斧を持たせている。小盾で矢を防ぎ、柵に取り付く。柵越しに槍の突き合いが始まる。
傭兵と民兵の寄せ集めの歩兵には、はしごを持たせ、木の柵を乗り越えさせようとした。ひるむ者もいたが、騎馬隊を背後につめさせ檄を飛ばした。逃げる者がいたら槍で軽く突いた。おびえながらも、はしごを何本か柵にかけ、おそるおそるよじ登った。中に入った。斧を持ったドワーフが待ち構えており、何人も送り込むが、ことごとく斬り殺される。あるいは、手斧を持った軽装備のドワーフ兵が飛びかかり頭をかち割っていく。その間、外の歩兵が槍でつつきあいながら、柵の木を手斧で叩き壊そうとしていた。それに気づいたドワーフが柵越しに槍で突く。犠牲を出しながらも、一カ所二箇所と柵を壊していく。
「行け行け行け!」
壊した柵から歩兵隊が入り込む。
「外に押し返せ!」
片腕のドワーフ、メロシカムが幅広の直刀を手に壊れた柵から入り込んでくる歩兵の前に立ちふさがった。失った左手の代わりにつけた盾で、槍をはじき、右手の直刀で人間の兵を刺し殺し、手足をはね飛ばした。怯えが広がる。
それでもベネトは歩兵隊を押し込む。
犠牲を出しながら、進むと、つっかえが取れたように、歩兵隊がドワーフの陣になだれ込んだ。
なだれ込んだ先に、もう一枚柵があり、ドワーフが待ち構えていた。
逆に押し込まれる。
訓練を受けた歩兵隊は、それなりに持ちこたえるが、寄せ集めの傭兵民兵部隊は崩れる。逃げようとする者があらわれ、動きにくくなる。
「撤退せよ!」
リボルが撤退の指示を出した。敵陣地内で崩れれば立て直しようがない。このまま力攻めしても落とせるとは思えなかった。仮に落とせたとしても、その後のドワーフの本軍、二千と戦えるだけの兵力が残るとも思えなかった。
兵が柵の外に流れ出す。何カ所か柵が壊れているため、撤退は難しくない。ドワーフは追い打ちをかけたが、足の遅いドワーフではそれほど効果が無く人間が柵の外に出た時点で追うのをやめた。




