第十七話、死んだカメ
サロベルの町
(どうなってんだろうなぁ。戦いは)
サロベル湖の漁師であるプレドは、人手が足りなくなったサロベルの町の守備兵になっていた。兜と槍を渡され、時々調練を受け、町の入り口に立たされていた。
兵隊になることは母親に反対されたが、漁師では生きていけないことを説明して納得してもらった。父親を病で亡くし、十三の頃から漁に出ていた。年々湖の魚は減っている。いくらがんばったところで、それどころか、がんばればがんばるほど、魚はとれなくなる。このまま漁師を続けていても、生活が成り立たなくなることは目に見えていた。ろくな教育を受けていないプレドには選択できる仕事などさほど無かった。
フエナ平原のドワーフとの戦いは、勝っているとも負けているとも、はっきりしない情報しか入ってこなかった。
フエナ平原
「押せ押せ!」
歩兵隊を指揮するザレクスが指示を出した。
歩兵隊とドワーフの兵は柵のそばで押し合っていた。歩兵隊に対抗し、ドワーフの兵も盾を持っていた。体がすっぽり入る木製の盾だ。武器も斧ではなく、騎兵対策のため長めの槍に変えている。
歩兵隊は盾で押し合いながら、槍を差し込んでいく。力ではドワーフに負けているものの、上背と練度に差があるため、少し押し込んでいた。
時々ドロワーフが一暴れし、歩兵の隊列に穴を開け、そこから押し返えしてくる。
騎馬隊は盾を持ったドワーフの横っ腹を攻撃しようとしたが、盾を持ったドワーフが長槍を突き出さし近づけない。ザレクスは、騎馬隊に対応している盾持ちのドワーフ目がけ、副隊長のベネドが率いる歩兵隊を突入させた。
「いくぞ!」
副隊長のベネドが兵を突撃させる。鎌槍を持っている。ドワーフの持つ盾を鎌槍で引っかけ、引きはがすようにしながら、斬り込んでいく。
ドワーフの陣から、騎馬隊と歩兵目がけ矢が飛んでくる。ドワーフはクロスボウを使っている。通常は滑車やレバーを使い弦を引くのだが、ドワーフは腕の力だけで易々と引いた。数は少ないものの高威力の矢が連続で打ち出される。騎馬隊や歩兵隊が倒れていく。
「ちっ、距離を取るぞ」
プロフェンは騎馬隊を下げた。
ザレクスも歩兵隊を下がらせた。手薄になった部分をドワーフの盾持ち部隊がしゃにむに攻め込む。ザレクスは崩れたふりをして全体を下がらせる。槍を持ったドワーフの盾持ち部隊は一定の距離、前に出るとぴたりと止まった。
一度距離を取った騎馬隊は、ドワーフを攻めるそぶりをしながらも、柵を壊そうと縄を投げ柵を引き抜こうとしたが、頑丈に作られているため、引き抜けなかった。油をまき火をつけたがこれもすぐに消し止められた。
傭兵や民兵を中心とした歩兵に何度かドワーフの陣を攻めさせたが、士気も練度も低く、すぐにあきらめて帰ってきた。
両軍疲弊しながら数を減らしつつあった。
「芳しくないな」
リボルは言った。少しやせ、目がくぼんでいる。テントの中、副指揮官のレマルク、騎馬隊のプロフェン、歩兵隊の隊長ザレクスと副隊長のベネドがいた。テーブルの上には地図があった。
「こうも守られると、さすがに手が出ませんな」
副指揮官のレマルクが言った。
「まるで死んだカメだ。いくらつついても出てこない」
「盾持ちがやっかいですな。歩兵隊のまねをしているのでしょうか。ザレクス殿、奴らの動きどう見ますか」
「手強いです。ただでさえ固いドワーフが盾を持っています。密集隊形での押し合いなら、こちらに、まだ分がありますが、時々でてくる赤毛のドワーフがやっかいです。ドロワーフとかいう傭兵らしいですが、あいつが出てくると、盾が何枚か割られます。隊列を崩され、そこから押し返してきて一定以上押し返すと元の位置に戻ります。柵から引きはがそうと、何度か誘ってみましたが、必ず止まりますね」
「最初に突出したことに相当懲りたと言うことか」
「ただ、槍はさほど恐くはありません。精度も悪く、体重も乗っていません。腕の力だけで突いているのでしょう。斧槍部隊は別ですが」
「ダレムとかいうドワーフが率いている部隊だな。あれが、ドワーフの将だろうな」
「ドワーフの王ドルフの息子だそうですよ」
レマルクがいった。
「槍を持たれると騎馬隊は近づけません。斧なら容易なのですが」
プロフェンは悔しそうな顔をした。プロフェンは元は牧童だった。馬を使って羊を柵の中に誘導しているところを見たネボルが騎馬隊に誘った。プロフェンにとって亡くなったネボルは師のような存在であった。
「矢もいいタイミングでうってきますね。盾をはがそうとしているところでうたれると、兵の動きが止まります」
副隊長のベネドが言った。
「敵の盾持ちを避けて柵にあたれないのか」
「歩兵隊の足では難しいです。何度かドワーフの兵を迂回しようとしましたが先回りされてしまいました」
「そうか」
「柵に近づいて見てみましたが、あの柵はよくできていますな、要所要所を石材で補強していて、壊れても、そこを支点にすぐ補修できるようにしているようです」
副指揮官のレマルクが言った。
「木材をそれほど備蓄しているとは思えません。壊し続ければいずれは尽きるでしょう」
「傭兵と民兵の士気が低いな。全く役にたたん」
何度か柵を攻めさせたが、腰が引けていた。その辺のところをドワーフにも見切られている。
「仕方ありません。寄せ集めと食い詰めです。略奪の機会もありませんし士気は上がらないでしょう。いないよりましと思うしかありませんな」
「あまり時間はかけられんぞ。ドワーフの援軍が来るかもしれん」
ギリム山のドワーフの動きと今後の戦略を話し解散した。




