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第十六話、ドワーフ、王都

 ドワーフの陣


「すまなかった」

 ドロワーフは自軍の陣地で方々に頭を下げていた。怒る者もいたが、笑って許す者が大半だった。人間側のほうが犠牲は多かったが、ドワーフ側にも犠牲が出た。亡くなったドワーフの埋葬はすべてドロワーフに行わせた。

「戦果は悪くない」

 ダリムが食事を取りながらつぶやいた。

「危ないところだったけどな」

 メロシカムが答えた。餅米と鶏肉をエールで煮込んだ料理を食べていた。

「わかっている。一歩間違えれば全滅もあり得た。やはり馬は強い。簡単に後ろを取られるし、馬の体重と早さが乗った攻撃は、ミスリルの鎧兜でも、まともに当たれば防ぎきれない」

「ああ、それに遠い。馬上からの攻撃だと斧では届かん。馬を先に切らなきゃならない」

 ひと手間がかかる。メロシカムは付け加えた。

「想定外だったのは歩兵だ。盾に鉄の板をはりつけていて、壊せない。前方を押さえられ、騎馬で削られた」

「訓練もよくされている。押し負けていたな」

 密集して、穴が空けば横のもの、後列のものがすぐに穴を埋めた。盾で攻撃を防ぎながら執拗に槍で突いてきた。

「あの歩兵に、ここを攻められると、やっかいなことになる」

「馬は止められるが、柵では、あの歩兵は止められない。柵の前で粘られるといずれは壊される」

「歩兵を止めるため、こちらも、うってでなくてはならない。ぶつかれば、馬が出てくる。やっかいだな」

「陣の近くで戦うしかないだろう。柵を背に戦えば、馬に背後を取られる心配は無い」

「それでも相当削られる。囲まれれば、かなりの犠牲を覚悟しなければならない」

「耐え続けるしかないだろう。あちらも消耗する」

「きついな」

 ダリムはたき火に木をくべた。




 王都


 王都トレビム、王と閣僚が館の一室に集まっていた。掃除は行き届いていたが、古い部屋だった。

「バリイから援軍の要請があったようだな」

 王であるルミセフが言った。七十近くになるが、前王の治世が長かったため、その治世は、まだ十年ほどである。

「ドワーフが攻めてきたとか。おもしろいことがあるものですな」

 外務大臣のヨパスタが言った。

「不謹慎ですぞ。おもしろいなどと言っては、バリイの民は困り果てていると聞く」

 内務大臣のケフナが言った。

「軍を出すとなると、戦費がかかりますな」

 財務大臣のオランザが顔をしかめた。

「仕方あるまい。放っておくわけにもいかんだろう」

「しかしドワーフとなると、生半可な兵力では対処できないのではないでしょうか」

 軍事顧問のペックスが言った。四十代で、鷲鼻の眉の太い男である。

「五、六百人と聞いているぞ」

 財務大臣のオランザがいった。

「ギリム山のドワーフは二万程度いると言われています。五百程度ではないことは間違いありません」

「では、こちらの様子を見ながら兵を小出ししていると言うことか」

「かもしれません。相手の戦力がわからない状態ですから、できうる限り最大の戦力で応じた方がよろしいかと思います」

「最大と言っても、かき集めても三千もいないのではないか」

「まともに使える兵力は千もみたいないでしょう」

「そこらの領主よりも少ないではないか」

「予算がないのですよ。調練を行うにも金がかかるのです。座学や小規模の演習では兵は育っても指揮官は育ちません。武具も馬も足りていません。だいたい軍の予算を毎年削り取っていったのはあなたでしょう」

「民があっての軍隊だろう。民のために金を使って何が悪い」

 財務大臣のオランザはふてくされたような顔をした。

「軍が弱ければ、民も危うくなりますよ。奴らがここに現れたらどうするのです。とてもじゃないが民を守れませんよ」

「税というのはそう簡単にはいかんのだよ。増やせば民が困る。減らせば金が足りなくなる。軍に金をかけても民は潤わんし生活もよくならない。どこかで削らないと予算は増え続けていく。帳尻があわんのだよ」

「それはわかりますが、いざというときのことも考えていただかないと、帳尻あわせで国が滅んでもいいんですか」

「もうよい、その辺にしておけ、それよりも今この事態をどう乗り越えるか考えるべきだ。国軍が無理なら、各領主に兵を出させればいいではないか」

 王は言った。

「それがまた難しい話なんです」

 外務大臣のヨパスタが言った。

「なぜだ」

「兵を出せと言われても、それはバリイ領の問題なのでと言われれば、断れてしまうのです」

「なぜ断れるのだ。ドワーフが攻めてきているのだぞ。戦争ではないか」

 トレビプトという国は、各領主ごとに独立性が高く、王は絶対的なものではない。ただ外交や軍事などに対してはある程度の権限が与えられている。戦争時、トレビプトの各領主は王の命令によって兵を出すことを義務づけられている。

「それがまた微妙なところで、相手が国であれば、戦争と言うことになりますが、相手はドワーフなのです」

「国ではないのか。ドワーフにも王がいるのだろう」

「ええ、そうなんですが、相手は人ではありませんから、今までギリム山のドワーフのことを我々は国として認めていなかったのです」

「確かに、ギリム山のドワーフと外交などしたことは無いが、しかし、どう考えればいいのだ。どう考えても国だろう」

「国という概念自体、人間のものですから、他の種族にそれが当てはまるかというと、微妙なところでして、たとえば、ゴブリンが集まって、その中に王様がいても、それを国だとは誰も思わないでしょう。群れのようなものとしか認識されません。それに、バリイ領内に国があるというのも、違和感がありますので、少し避けていた部分があります」

「それは、確かにややこしい」

 王はうなずいた。

「ドワーフの群れが、バリイ領で暴れているから、各領主は軍を出せ、と言われて、出してくれるかどうか、どこも、火の車です。軍を出すというと相当の負担になります。なんだかんだ理屈をつけて先延ばしにして出したがらないでしょう」

「では、どうすればいいのだ。国軍は頼りにならん。他の領主は当てにならん。どうすればいいのだ」

「まぁ、なんとかするしかないんでしょうが、なんともむつかしいですな。ここは我々も時間をかけてじっくりと考えねばなりますまい」

 内務大臣のケフナは腕を組み困ったような顔をした。

「先延ばしにしろというのか。どこまで火の粉が飛んでくるかわからんぞ。そもそも、ドワーフはなぜバリイ領を攻めたのだ。何か不満があってのことか、それとも野心か」

「それは、まだなんとも」

「実は、つい先日、ギリム山のドワーフの商人が、我が屋敷に訪ねて参りました」

 情報部のトパリルが言った。この中では一番若く、三十代前半である。

「ドワーフの商人が、どのような用向きがあったのだ」

「ギリム山で捕まっている王の長男を救って欲しいと、頼まれました」

「どういうことだ」

 王は身を乗り出した。

「戦争に反対していた王の長男ロワノフをドルフ王が捕まえ牢獄にとらえたそうです。他にも数人、ロワノフの側近がとらえられたそうです」

「内乱ということか」

「そうなる前にドルフ王が長男一派をとらえてしまったということでしょう」

「なぜそのような事態になったのだ」

「近々ギリム山が噴火するそうです」

「なっ」

 それぞれ驚きの表情を見せた。

「噴火だと」

「どういうことだ」

「ギリム山が噴火するということで、ドワーフの長達の間で、議論が起こったそうです。最終的には、人に助けを求めるか。人と戦いその土地を奪うか。この二つに分かれたそうです。当初はドルフ王も人間に助けを求める避難派だったのですが、侵略派に押し切られたようで、避難派の長男一派をとらえ反対意見を封じ込めたようです」

「噴火の件は事実なのか」

 外務大臣のヨパスタはその情報を全くつかんでいなかった。目にはいらだちがある。

「部下に調べさせてみましたが、事実のようです」

「いつ噴火するのだ」

「それはわかりませんが、ドワーフの術士が噴火を押さえる術を地下深くで完成させたとか、しばらくは押さえられるそうです」

「なるほど、そういうことなら、ドワーフの一連の行動にいろいろ説明がつくな」

 王は深く頷いた。

「なぜその商人はおぬしにそのような話をしに来たのだ」

 外務大臣のヨパスタがトパリルに問うた。

「わかりませんが、何かしらの意図があるのでしょう。商人をとらえておくことも考えましたが、それだと、こちらに情報が入ってこなくなる恐れがあるため、帰しました」

「どういう意図があるのだ」

「同情を買い、和平交渉を有利に進めようとしているのかもしれません。避難先を求めての戦争ですから、どこかで和平交渉に応じるでしょう」

「それ相応の事情があるから考慮しろとでも言いたいわけか。戦う前に言って欲しかったものだ」

「戦わねば、ドワーフの主戦派が納得しなかったのでしょう」

「なら、彼らに避難先の土地を与えてやればいいのではないか」

「ドワーフに土地ですか。土地だけではすまないでしょうから、相当な負担になりますよ」

 財務大臣のオランザは嫌そうな顔をした。

「戦争が続くよりましだろう。それこそ、各領主に金を出させるべきだ。避難したドワーフを分けて各領主の元へ送り込んでもいい。だめならバリイの領主に出させればいい」

「ドワーフが素直に交渉に応じるでしょうか」

「困っているのはドワーフの方であろう。応じなければ、消耗戦になるだけだ」

「しかし今、ドワーフは勝っています。エルリムの街を落とし、フエネ平原で陣を構えています。交渉に応じるでしょうか。応じたとして、こちらが下手に出なければなりません」

「多少は目をつむらねばなるまい」

「やつらとて、争いが続いていてもメリットはありますまい。戦いの最中噴火が起こる可能性もあります。その辺りをつつけば、何とかなるやもしれません」

「なるほど」

「ドワーフの知り合いが何人かいますが、彼らは性格上一度始めた戦いを簡単には収めません。勝ち負けがはっきりつくまで、やめない連中です。彼らと交渉するということは、我らが負けを認める必要性が出てきます」

 軍事顧問のペックスがいった。

「負けたも何も、噴火で困っているのはドワーフではないか。それを平和的に解決しようとして、負けたことになるのか」

「相手はドワーフです。必ずしも、こちらと同じ価値観をもっているとは限りません。戦いに勝って人間の土地を手に入れた。彼らはそういう風に解釈するかもしれません」

「住処が噴火して消し飛ぶ連中に、同情して避難場所を与えてやったら、我らが負けたことになるのか」

 王は険しい顔をした。

「ドワーフの価値観ではそうなるかもしれないということです」

「気に食わん」

「現実的に戦争を避けたいのはこちらの方です。向こうはもう始めていますからな」

 内務大臣のケフナがいった。

「噴火の件も彼らが我々に言ってきたわけではありません。ドワーフの商人が言っているだけです。ドワーフの王が山が噴火するから助けてくれなどとは、いってきていないのです。こちらから土地の提供を申し出れば、ドワーフに恐れて土地を提供したと言われても仕方が無いかもしれません」

 外務大臣のヨパスタがいった。

「ドワーフめ、やっかいな球を投げてきおった」

 王は苦々しげに呟いた。



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