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第十話、サロベルの湖、漁師とリザードマン

 ギリム山から西へ、フエナ平原をこえた場所に、サロベルの湖はある。北と南、靴のような縦長の形をしている。その湖の真ん中あたりで、一艘の船に乗った少年と、水の中にリザードマンがいた。辺りに他の船は見えない。

「その話なら、一族の間で話題になっている」

 リザードマンのピラノイは水の中から頭だけ出し、しゃべった。ドワーフの話である。

「俺、志願しようと思うんだ」

 プレドは船の上にいる。リザードマンのピラノイとは子供の頃から友人で、ときどき漁の合間に湖で会っていた。プレドは網を使って魚を捕るが、リザードマンであるピラノイは水の中に潜ってモリで突く。

 プレドはサロベルの市場で志願兵募集の看板を見たのだ。

「戦争に行くのか」

「いや、町の守備兵だよ。いきなり、ドワーフと戦うってわけじゃないよ」

「そうか、町を守るのか」

「ああ、任しておけ」

「実はそのことで少しもめている」

「なにをだ」

 リザードマンのピラノイは少し躊躇した。これは誰にも言わないで欲しいのだが、と前置きをした。

「どちらの味方をすべきか、もめている」

「どちらのって、えっ、ドワーフにつこうとしているのか!」

「大きな声を出すな」

 ピラノイは頭を水中に沈め、水の中を見渡した。誰もいなさそうだった。

「何でドワーフなんだよ。俺たち友達じゃないのかよ」

 プレドは水面に向かって小声で話した。ピラノイは水面から頭を出した。

「別にドワーフにつくとは言っていない。少しもめていると言った。あと友達は関係ない」

「あいつらいきなり攻めてきて人間の町を燃やしてるんだぜ。悩むようなことかよ」

 悪い奴じゃねぇか。プレドはふてくされたような顔で言った。

「リザードマンにとって、人間もドワーフも異種族だ。異種族同士の争いに善悪など関係ない」

「じゃあ何なんだよ」

「損得だ。どちらにつけば得するのか。それでもめている」

「そりゃあ、断然人間だろ。俺もいるし」

 プレドは言った。

 そう簡単なことではない。年々サロベル湖の魚は減ってきている。人の数が増えすぎたことと、人間の漁の仕方に問題がある。リザードマンは、モリを使って魚をつくが、人間は網を使う。次第に大きな魚が捕れなくなった。大きな魚が捕れなくなれば、人間は網の目を細かくし、幼魚を捕ろうとした。ますます魚は捕れなくなった。リザードマンたちは人間と共存することに難しさを感じていた。

「山のドワーフとなら、魚の取り合いはおこらない。あと、おまえがいることは、一族の利益にまったく繋がらないから関係ない」

 魚が減った原因を人間側はリザードマンの所為にしていた。そのため、人間とリザードマンの間で魚を巡って小競り合いが何度か起きていた。最近では、プレドとピラノイも湖で隠れてあっていた。

「そりゃあ、まぁ、そうだな」

 なるほどと、プレドはすんなり納得した。プレド自身、網による漁の問題については、よくわかっていた。かといってやめてしまえば、母や弟や妹など、家族を養わねばならないプレドの生活はすぐに困窮する。だからこそ、兵の募集に惹かれたのだ。このまま漁師として生きていても先細っていくことは目に見えていた。

「迷っていると言っても、どちらにもつきたくないというのが本音だ。ただ、巻き込まれた場合の身の振り方が問題だ」

 仮に、領主が湖のリザードマンに対して兵を要求してきた場合どうするのか。兵を出さないということは、ドワーフの味方をしているのと同じことだ。人間の中で暮らすリザードマンはそのあたりの機微をよくわかっていた。敵か味方か、人間はそのような物の見方をする。

「じゃあ、ひょっとしたら、敵と味方に分かれて俺たちが戦うことになるなんてこともあるのか」

「避けたいところだが、その可能性が無いわけではない」

「まじかぁ」

 プレドは頭をかきむしった。


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