レベリカ・ベルライト
昼過ぎ、シルフィエッタとレイナードは、ベルライト博士のもとに向かった。
シルフィエッタの手には、以前にリーゼから教えてもらった人気店の焼き菓子の袋――ベルライトの工房の扉を開くための『鍵』が握られていた。
賑やかな街の通りを抜け、雑木林と畑が広がる田舎の風景を眺めながら、レイナードは尋ねた。
「僕は、一度もお会いしたことがないのですが、どんな方なのですか?」
「うーん、一言でいうと、美人で変わり者で、甘いものに目がなくて、寝てばかりの……」
「全然、一言じゃ、ないじゃないですか!」
「あはは、そうだね。まあ、魔導物理学の専門家だよ」
「すると、僕たちが調査している一連の出来事には、魔道具が関係しているんですね」
(さすが、察しがいい)
事件の概要は、簡単に説明しただけだった。それなのに、打てば響くように返してくるレイナードのことをシルフィエッタは改めて感心した。
道を進むと、その建物は突如、姿を見せた。魔法の研究者の家ゆえに、周囲に認識を阻害する魔法が掛けられているようだった。
扉の前に立つと、何処からともなく声が響き渡った。
「消失したのは、王様の?」
「杖」
シルフィエッタが答えると、扉が僅かに開き、にゅっと細い手が出てきた。焼き菓子の袋を渡すと、物凄い勢いで中に引き込んだ。やがて――
「合格」
声の主が扉を開いた。
その姿を見て、レイナードは、ああ、なる程と思った。
整った顔だち、それなのにボサボサの髪の毛、しわくちゃの洋服――その生活ぶりが、ひと目で分かる様だった。その口元には、先程の焼き菓子がもうくわえられていた。
「ひはひふひはへぇ、ヒフヒヘッハ……」(久し振りだねぇ、シルフィエッタ……)
彼女こそが、ホノミスで最も権威のある魔法の研究者、レベリカ・ベルライト博士、その人だった。




