オウル・ゲイナー
話を終えたクラヴィスは、混乱するシルフィエッタを引き連れて、謁見の間にたどり着いた。
入り口の前には、青いマントを身に付けた逞しい男が待っていた。男はクラヴィスが近づくと、膝をついて顔を伏せた。
男の名は、オウル・ゲイナーという。ロミオスとクラヴィス、二代に渡って仕える彼は、神速の騎士団を率いる団長であり、クラヴィスから最も信頼される人物であった。
「やあ、オウル団長、ご子息は元気かい? いくつになったんだっけ?」
「十歳に相成りました。最近は子供らしからぬ言葉を使うので、少々心配しておりまする」
「それは、ご子息が優秀な証拠さ。それはそうと、今日はどうしたんだい? 何か火急の要件かな?」
「はっ! それが……例の件、ですが…………」
竹を割ったような性格のこの男にしては、珍しく歯切れが悪かった。
それを見て取ったクラヴィスはいった――
「シルフィー、済まないが席を外してくれないか?」
シルフィエッタは心得て、一礼した後、来た道を引き返した。
部屋に入ると、クラヴィスは、後に続くオウルの方へ向き直り、表情を引き締めた。
「例の遺体の身元が、わかったのか?」
「いえ……しかし、顔の傷からして、宝物庫に入った賊に間違えありません」
顎に手を当てて、ふーむと、クラヴィスは考え込んだ。
「魔獣に襲われたのか、それとも……」
暫しの沈黙の後、オウルが口を開いた。
「遺体の傷口ですが、今、ベルライト博士に見てもらっています。魔素か何かが残っていれば、反応が出るでしょう」
「すると、団長は、あれが魔獣の仕業でないと思っているのだな」
「御意にございます。まず第一に、遺体が発見された場所は、比較的開けた森で過去に魔獣の目撃情報がございません」
「しかし、最近は森の奥から、出てくる個体もあるというぞ」
「それにつきましては……こちらをご覧ください」
オウルは、懐から紙を取り出した。人体の絵に、朱色で印がついていた。
「これが第二の理由です。遺体の損壊は、えぐられた胸部、それに首元の小さな穴の二箇所のみです。もし、魔獣に襲われたのであれば、このぐらいでは済まないでしょう」
「そうだとすれば、これに関わった人物がいるということになる……」
「それを含めて、ただ今調査している所にございます」
「よし、引き続き警戒を怠るな。それと、噂話の流布にも注意するのだ。何しろ、盗まれた物が、モノだけにな」
「大逆の魔女メドレーナですか?」
「左様、忌むべき過去の遺産とでもいおうか……」
当時の人々を震撼させた魔女の名前が、数百年の時を経て、再び暗い影を落とそうとしていた。




