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魔女の前菜

 アストライアという大陸がある。かつて、大らかな姿であったその大地は、海からの浸食によって、より複雑なものへと形を変えていった。


 ある者はそれを龍の化身が横たわっているといい、またある者は、いいや、眠りについた幻獣の(むくろ)だといった。


 その龍の首元から生える翼の部分――その中心にホノミスの王都はあった。


 その日の夜は大気が澄んでいて、空を仰ぐと普段見れないような星たちも、はっきりと見渡すことが出来た。そんな満天の星々の下、ふたつの影が王城の近くにある森の中をうごめいていた。


「まったく、馬鹿な奴だ。度し難いとは、まさにこのことだ」


 黒い影は、誰にというわけでもなく(つぶや)いた。その足元には、苦悶(くもん)の表情をさらした男が横たわっていた。


 すでに、こと切れているであろうその体を足で裏返すと、男は大事そうに一本の剣を抱えていた。


 異様だったのは、剣の下にのぞき見える男の胸が、大きくえぐられて無くなっていることだった。まるで魔獣に嚙み千切られたように、その部位が喪失していた。


手筈(てはず)通り、渡していれば、死なずに済んだものを…………」


 黒い影は、フードを被りながらかがみ、哀れな亡骸(なきがら)から剣を引き抜いた。剣を握ったその右手には、自らの尾を食らう蛇をかたどった指輪がはめられていた。


「だがな……この世は、不条理で溢れているからな」


 そういうと、いつの間にか足元に来ていたもうひとつの影を怒鳴り飛ばした――


「おい、何をしている! 誰がそんなものを飲んでいいといった? 時間の無駄だ。もういくぞ!」


 星々に照らし出された大地の陰に、ふたつの影は溶け込むように消えていった。


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