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リーファ・ラファウシュタイン

 私と妹は、城の中庭を笑いながら駆けていた。


「ほら、リディア、早く早く!!」


「待ってよ! お姉ちゃーん!」


 父と母が私たちを見守り、優しく微笑んでいた。常日頃、厳しい姉も、くすりと笑っていた。


 優しい世界だった。満たされた温かさは、私に全てを与えてくれた。それゆえ、何かを欲しいと思うことは、少したりともなかった。


 いつからだろう? 他人を羨む様になったのは……


 いつからだろう? 世界が自分を傷つけていると、思うようになったのは……


 ふと、視線を前に向けると、血の付いた剣を握りしめる少女がいた。


 少女は、ボロボロのドレスを(まと)い、涙を流していた。


(本当は、誰かにわかってもらいたいのに……)


 少女は、剣を構えた。


(誰にもいえない……わかっている。私にはわかる)


 怒りと悲しみを含んだ声を上げて、少女が突っ込んでくる。


(ああ、受け入れるよ。私は、私でない。それでも私は、私なんだ)


 鋭い剣が胸を貫いた。貫いた筈だった。けれども、剣の先にあったものは――


 周囲を見渡すと、数えきれない程の蝶が飛んでいた。灯りを受けて美しく輝く瑠璃色のそれは、辺りをまるで絵画の様な青い世界へと変貌させていた。


 リーゼが放った剣は、その蝶を貫いていた。蝶は二三、羽根を動かすと、動かなくなった。蝶たちが消え去ると、クラヴィスとリーゼを覆っていた結界は打ち破られ、その効力を失った。


狼藉者(ろうぜきもの)を捕らえよ!!」


 周囲を取り囲む様に兵士たちが、集まってきていた。しかし、それよりも速く、既に『神速の騎士』が目の前に立っていた。


「シルフィエッタ……」


「リーゼ、剣を収めて。もし、あなたがこれ以上続けるというのなら、止めなければならない。ううん、私が必ず止めてみせる」


 しかし、リーゼは剣の柄を強く握りしめた。


「ごめんね、シルフィー。これは、ずっと前から定められた私の進むべき道……後戻りは出来ない。絶対にね」


 向かい合う二人の前には、ただ、剣と剣があるだけだった。


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