リーゼ・ラファウシュタイン
「リーゼ! 何で!?」
クラヴィスの目の前で、リーゼが剣を構えていた。買ったばかりのドレスの裾は、無惨に切捨てられていた。
誰もが混乱して、動けなかった。そんな中で、竜騎士のネルセンだけが、我を取り戻し声をあげた。
「何をしている! クラヴィス様をお護りするんだ!!」
兵士たちが一斉に集まろうとすると、周囲にいた数人の男女が間に割って入り、呪文を詠唱した。一瞬で結界が張られ、近づこうとする者を拒んだ。
結界に剣を打ち下ろしながら、シルフィエッタは思った。
(こんな魔法、見たことがない。これが魔法王国の……しかも一呼吸する僅かの間に、この障壁を展開させた)
オービスの関係者の中に協力者たちがいた。厳重な警戒をくぐり抜けて、晩餐会に潜入していた。
ホノミスの騎士たちは、クラヴィスたちと、完全に分断させられてしまった。
クラヴィスと向かい合って対峙していたリーゼは、剣の切っ先を向けたまま告げた――
「剣を抜いて、クラヴィス。これは私に残された、ひとかけらの良心なの。だから、剣を私に向けて。こんな最悪な結末でも、あなたとは正直に向き合いたいの」
「それならば……リーゼ、君は何で、そんな悲しそうな顔で剣を向けているんだい?」
涙が一滴、頬を伝って零れ落ちた。
「剣を取って!! お願い」
「リーゼ、話してくれないか? 何が――」
「私は、リーゼじゃない!!」
「…………………」
「ずっと、みんなを騙してきたの。何食わぬ顔で生きてきたの。偽物なのに、本物の振りをした。悪意があるのに、友達を装った。私は……私は、リーゼなんかじゃない!!」
「それでも、私は君を知っている。剣を抜くことはできない」
「あなたに、私の何がわかるっていうの!!」
流れるような連撃が、クラヴィスに向かって放たれる。クラヴィスの肩や頬に赤い線が走った。
「これが最後の警告よ、クラヴィス。次は、あなたの胸を貫くから……」
リーゼの言葉に、クラヴィスは悲しそうに微笑んだ。
「これが、運命なのかもしれない。私と君がたどり着いた場所は……」
「クラヴィスゥゥゥッ!!!」
両手で突き出した渾身の剣がクラヴィスの命を捕らえようとした時、女神の言葉が空間の中に現出した。それはまるで、静寂が眼球に映り込むような気分だった。
『運命は――認めない』




