その身を食らう蛇
「魂を食らう剣!?」
想像を超えた話に、驚くシルフィエッタに対して、ベルライトは続けた――
「恐らく、あの剣は魔女そのもの、手にすれば自らの精神が支配される」
「それって、メドレーナがまだ生きているってこと?」
「魔女は、勇者・タジニウスによって倒されたことになっている……一応は、な」
ベルライトは、最後に残った焼き菓子の切れ端を名残惜しそうに摘まみ上げると、ひょいっと口に放り込んだ。
「だがしかし、世界の各地には、魔女の遺物が存在している――魔女の剣、魔女の腕輪、魔女の骨――それも、強い魔力を帯びたままに」
「そんな……だって、魔女が生きていたのは、数百年も前の話でしょう?」
疑念を持つシルフィエッタに、ベルライトは告げた。
「強力な魔力、ある種の怨念だ。時と場所、条件がそろえば、復活の可能性はあるといっていい。現に、それを成さんとする集団がいる」
「魔女を……復活、させる?」
「その身を食らう蛇……奴らは、そう呼ばれている」
「その身を食らう蛇?」
「そう、王族や貴族に軍人、商人や平民、さらには僧侶など、あらゆる場所に連中は存在する。一種の狂信的な集団だが、厄介な事に、平素は一般人に溶け込んで生活をしている」
「それでは、今回の事件は?」
「間違いなく、奴らが関係しているだろう」
自らが追っていた相手の途方もなさに、ことばを失っていたシルフィエッタの背後から、レイナードが疑問をぶつけた。
「それでは、この首の傷は何なのですか?」
「首の傷? あーあ、これね。これは、魔女とは関係ない。これは、本物の歯形だ」
「歯形? すると、吸血鬼みたいなものですか?」
「一見するとな」
ベルライトは、両手を広げながら前歯を出して、おどけて見せた。
「だけれども、死体に表れた死斑と硬直の具合、それに対する首元の傷を比べてみると、明らかに後者の方が新しい」
「どういうことですか?」
少々、学術的な説明に戸惑うレイナードに、ベルライトは答えた。
「つまり、死んだ後にかじりついてるということだ。吸血鬼というよりは、食屍鬼に近いかな」
「食屍鬼ですって?」
再び、シルフィエッタが口を挟んだ。
魔女を復活させようとする集団、死体を貪る魔物――思っていた以上に、厄介な相手だ。
「まあ、とにかく、注意をするに越したことはないということだ……」
別れ際にベルライトはいった。
「何せ君は、勇者・タジニウスの…………あ! そうだ。それと、クラヴィスにいっておいてよ。この気持ち悪い死体を早く取りに来いってね。竜騎士の奴ら、いつまでたっても来ないんだ」
いつの間にか、手にしていた新しい焼き菓子を頬張るベルライトに見送られて、ふたりは街に戻った。




