「お姉様、あなたは王妃の資質を問われることになりました」
「ディーバ?」
王族の皆さまがいらっしゃる席に着いた時には、正妃が聖女さまの名前を呼んでました。歌姫という意味を持つ聖女さまの名前は、その歌声に癒しの力が乗るようで、生まれた時から泣く声に癒しの力が乗っているから名付けられた、という逸話は各国で有名です。
さておき。
「お姉様、あなたは王妃の資質を問われることになりました」
え、聖女さま、一応夜会で挨拶をされたとはいえ、ここでの挨拶を抜きにして、いきなりその発言しちゃいますか。
「な、なにを」
正妃が珍しく狼狽えているのは、妹である聖女さまの発言に驚いたからなのか、それとも聖女さまの背後に世界各国にある教会の力を見たからなのか。
「お姉様、あなたは元々王女としても資質の問題視をされていました。それで前国王のお父様は、あなたを臣下に降嫁させるおつもりでした。ただ、この国の国王陛下が王太子殿下だった頃に我が国を訪れ、お姉様は一目惚れし、お父様に結婚を強請った。
お父様はこの国の国王陛下……当時の王太子殿下に婚約者がいらっしゃることも結婚も間近だったこともお姉様にお話したはずです。だからお父様は反対したのに、お姉様はお父様から許可をもらい、あなたの妃になるよう仰った、と嘘を吐いた。そして国力の差で圧力をかけた。それでもお断りされたのに諦めきれず、この国の前国王陛下に、お姉様は圧力いえ脅しをかけた。お父様が何も仰ってないのに、戦争を仕掛ける、とね。
前国王陛下はその脅しに屈して、お姉様との結婚を受け入れた。国王陛下、その時の王太子殿下は隣国の王女殿下と婚約していたというのに。そうして強引に結婚し、王妃の座を射止め、第一王子殿下を産んだ。
でも、隣国からすれば蔑ろにされたも同然。せめて側妃として迎え入れようと決断されたこの国の考えは、何も間違っていないのに、嫉妬と癇癪でそれを妨害。そこでまたお父様の名を出して、戦争になってもいいのか、と脅して、隣国の王女殿下を公爵家の当主夫人に降嫁させた。
この辺りのこと、お父様は全く知らなかったわ。だからお父様は、国王陛下がお姉様を本当に王妃として迎え入れる気持ちになってくれた、と喜んでいた。真実を知った今は、自分の娘のやらかしに激怒して、その怒りからか、寝込んでしまわれたわよ。
国王陛下……お兄様も、お姉様の所業を知って、かなりお怒りで。私に人道的観点から見て問題視される案件かどうか、私の目で見て確認してくれないか、要請を受けたの。でも、その辺りは内政干渉に成りかねないから、静観するつもりでいたのだけど。
ねぇ、お姉様。さすがに妃教育と称して行き過ぎた指導は、虐待と言えるのよ。人道的観点から見て問題視する案件だったから、私が来たの」
長い長い聖女さまの説明。
国による圧力ではなく、ただの正妃の暴走だった国王陛下の結婚。
そして、その被害を受けた挙げ句、妨害にあったお母様の輿入れ。
正妃の母国と我が国の間に小国がある。
もしも戦争になる、と考えたら、真っ先に何の関係も無いその小国が火の海に沈んだことだろう。国を戦地に変えたくないし、小国を戦地に変える、その懸念を考えれば、陛下が正妃との結婚を受け入れるしか無かったのも頷ける。
お母様の母国である隣国との関係が悪化することは分かっていても、無関係の小国と自国を戦地に出来なかったのでしょう。
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