「取り敢えず、夜会をぶち壊すわけにはいかないわね」
この国の問題だ。正妃の母国は関係ない。
と言い切れるだけの発言力が無いのは、国力の差だけでなく、正妃が我が国に嫁いで来たことによって得られる国の利益も大きかったからです。
だから、余計に強く言えないことは、王子妃教育を受けたことで理解出来ました。
その辺りのことを考えれば、国王陛下も含め、多くの方が強く正妃を諌めることなど出来ません。その出来なかったことを、ディオ様は行う、と決断してくださいました。
その決断は、国の政に影響が出てしまう可能性もあるでしょう。だから、聖女さまをお迎えしたのだと思います。
聖女さまは、どこの国の出身であっても、教会に保護・認定された時点で、中立のお立場になられる。聖女さまのお言葉は、世界で信仰されている神様を祀る教会の意思とも言えます。教会も中立に位置し、どの国の干渉も受けない代わりに、どの国も優遇しない。政にも関わらない。それが原則です。但し、人道的観点から問題視するような状況では発言権があります。
他国による内政干渉とは違い、中立な立場の教会による人道的観点からの干渉は、国の政に対してならば助言程度に当たりますが、王や王妃、王女や王子という王族の立場の資質如何を問うものならば、その発言権はかなりの効力を発揮します。
正妃の私に対する教育という名の虐げもさることながら、おそらく国力の圧によって、無理やり結婚を迫り正妃の座を射止めただけでなく、側妃としてお母様を娶ることに反対して、国の政を揺るがしたことも、聖女さまがやって来た理由になり得るのでしょう。
つまり、私に対する虐げの人道的観点。
また、国同士の契約を母国を匂わせて圧力をかけて反故にした人道的観点。
この二点で、聖女さまがやって来た、と。
でも、陛下とお母様の政略結婚を反故にした部分は、人道的観点というより国同士の契約の反故なので政の部分に当たりそうですけど。
その辺りの兼ね合いは、聖女さまが正妃の母国の王族という部分が関係するのでしょうか。
「取り敢えず、夜会をぶち壊すわけにはいかないわね」
と聖女さまが仰られて、聖女さまがさっさと王族の皆さまが居る場所へ向かいます。私はディオ様にエスコートされて後からついていきます。
ところで。聖女さまとディオ様と私が何やら話し合っていることに気づいた目敏い貴族の皆さまは、もう夜会どころじゃなくなっているのですが、それでもぶち壊しているとは言わないのでしょうか。
いえ、言わぬが花と言います。黙っていましょう。
あと、本当にどうでもいいことですが、両親がそれぞれの愛人を伴って夜会に来てます。王家主催の夜会なので、愛人を伴うなんてマナー違反です。王家主催である以上、別格の格式ですのに。どんなに冷めた夫婦であっても、他家はきちんと夫婦で来ているというのに、公爵家の当主夫妻ともあろう二人が率先してマナー違反って、貴族教育をやり直しするか、お咎めでも受ければいいと思います。私もお咎めを受けることになるのなら、それはそれで仕方ないですけどね。
正妃の件が片付いたら、国王陛下か第一王子殿下かディオ様に相談しましょう。
お読みいただきまして、ありがとうございました。