「その顔は、ようやく理解したみたいね」
ですが。聖女さまのご指摘やディオ様ご自身のお言葉を鑑みると、ディオ様も私のことをきちんと思ってくださっている、と信じられます。
尚、ディオ様のお気持ちに全く気づいていませんでした。というか、ディオ様のお気持ちは私に無いだろうと諦めていました。
私の片思いでも良いから、ディオ様との婚約は解消したくない、と望んでいましたけれど。その可能性は無いみたいで、ありきたりの言葉ですが嬉しいです。
「その顔は、ようやく理解したみたいね。お節介を焼いて良かったわ。さて。エンディオ、これからどうするのか分かるわね?」
聖女さまが、ニンマリと笑います。
神秘的な雰囲気が一気に親しみ易いものに変わりましたが、今、ディオ様の名を呼び捨てになさいましたよね。えっ、どういうことでしょうか。
「はい、叔母上」
えっ、おば……?
「今、なんて、言ったかしら?」
あ、なんか、聖女さまの背後から黒いオーラが出ています。一気にこの場の気温が下がったのは、気のせいでは無さそうです。
「すみません。聖女殿。母上と決着をつけたいと思いますのでお力添えをお願いします」
ディオ様が慌てて言い直しましたが、聖女さまの笑顔が黒い。笑顔なのに物凄く圧を感じます。
もしや、「おば」の一言がお気に召さなかった、なんてことは……いえ、口に出すのはやめておきましょう。
「良いでしょう。私も、姉上がどうにも王妃に向かないらしい、と姪から聞いたからやって来たけれど。プライドの高い人だから、自分が夫の唯一じゃないことが許せないのよね。昔の話、と割り切れないし。自分が悪いのに全く悪いと思ってないところも、本当に困った人だわ。取り敢えず、聖女として、姉上と決別するあなたを支持するわ」
聖女さまのお話で、ようやく状況が少し理解出来ました。
どうやら、聖女さまは正妃の妹に当たられる方のようです。正妃の母国から聖女として我が国に招待された、ということかしら。
姪と言うのは、正妃が第一王子殿下と婚約の縁を結んだ、正妃の母国の国王陛下の娘。つまり第一王子殿下の婚約者であられる王女殿下のこと。
第一王子殿下から王女殿下に話が通って、正妃の妹に当たられる聖女さまが我が国にいらっしゃった。
それは、正妃とエンディオ様の決別を支持するという理由……。きっと、それだけじゃなく、正妃の暴走を止めに来られた、ということかしら。
「ありがとうございます、聖女殿。ジェーン、行こうか。母上と決着をつけよう。もう、母上のせいであなたが傷つく日々を終わらせよう。私の抗議も兄上の忠告も父上の諫言も耳に入らないで、今もまだ密かにジェーンを虐げている母上と、決別する。母上の母国から発言力の強い方である聖女殿が来て下さったことでようやく対峙できる。不甲斐ない婚約者でごめんね」
不甲斐ないなんてことはありません。
どうしても国力の差が背後にあるために、国王陛下でさえも正妃を止めることが出来ない事情は分かっていました。
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