「私はあなたが良い」
「そう、だろうね。母上は父上に一目惚れして、無理やり結婚した。国力の差を見せつけて。だけどジェーンの母君を側妃として迎えようとしたことが、とても母上を傷つけた。母上が無理やり割り込んだのに、勝手に傷ついて、ジェーンの母君を嫌い憎んだ。それはそのままジェーンに矛先が向かった。でも。母上がどれほどジェーンを嫌っていても、私は、あなたを好きなんだ」
ディオ様のその言葉に、私が今度は目を丸くする。
「ディオ、さま?」
「私はジェーンを好きだよ。その水色の髪も苺のような赤い目の色も好ましく思うし、私の母上から嫌い憎まれているだけでも辛いだろうに、実の両親から見向きもされていない、と知った時はとても胸が痛んだ。私があなたの家族になろうと思ったし、その日を心待ちにしている。あなたと婚約を解消すれば、ジェーンは母上から睨まれることは無くなると分かっていても、私はあなたが良い」
初めてその胸の裡を聞いて、私の頬は熱くなる。こんな情熱的なことをディオ様が仰られるなんて、思ってもいなかった。その想う相手が私だなんて。
「知りません、でした」
「あなたに好意を持っていることを母上に知られたら、更に辛い目に遭うだろう、と考えたし、兄上も忠告してくださった。兄上も母上のジェーンに対する態度は諌めて下さっていたらしい。でもダメだったようでね。そして父上がジェーンのことを口出ししたら、母上は癇癪を起こす。元々、母上は王妃としての資質に疑問を覚えるのだけど、特にジェーンと母君のことになると、それに輪をかける。だから父上も口を出せなくて。それで兄上が、ジェーンを守るために、私は色んな令嬢に興味がある素振りをするように、と助言を下さったんだよ」
それはつまり。
「王妃の嫉妬や癇癪を避けるために、他の令嬢と差異なく接していた、ということでいいのかしら」
ディオ様の話を静かに聞いていた聖女さまが、そのように話をまとめられました。ディオ様が肯定の意を表します。
「なるほどね。お互いに思い合っているようなのに、王子の方は他の令嬢と仲良くしているし、令嬢は壁の花になっているし。何が原因で拗らせているのか気になっていたわけだけど」
聖女さまが先程よりも砕けた口調で仰るのですが、思い合っているように見える、と言うのは。
私の疑問が顔に出ていたのか、聖女さまが私たちの全身をじっくりと見回します。
「だって、あなたのドレスは薄い紫色で、スレンダーなあなたに似合うマーメイドラインじゃない? それも胸元が淡い紫で足元にいくに従って濃い紫のグラデーション。それもシフォン素材で作られている。つまり軽やかな素材だから、あなたの髪色である水色にもピッタリ。ドレスに施された刺繍の糸は金。派手な刺繍ではなくさり気無いものだから、ドレスの邪魔をしていない。でもどう見ても王子の色でしょ。大きなアメジストが首元を飾っているけれど、その鎖も金で、イヤリングもネックレスと同じ素材を使用している。イヤリングのアメジストは小さいけど、ネックレスを目立たせるわけだから、それでいい。そして夜会用にアップされた髪の髪飾りでさえも、いくつもの小さなアメジストを嵌め込んだ金の髪飾りだし。あなたの髪が水色だから金の髪飾りが良く似合っているわ」
聖女さまに指摘されて、改めて自覚しました。
私の姿って、全身、ディオ様色でした。
いえ、本日の夜会、城で開催するからとディオ様付きの側近の方が侍女と一緒にお迎えにいらして、城で支度をしてもらったものですが。あれよあれよ、という間に全身を湯浴みで磨かれ、マッサージされ、髪の手入れも爪の手入れも念入りにされて。
公爵家でも王子妃となる私なので、手を掛けてもらっていたはずですが、朝から念入りに身支度をしてもらうことなど無かったので、目を白黒させてしまっていたので、その、ドレスはディオ様のお色ということは分かっていたのですが、装飾品もディオ様色であることに気づいていませんでした。
尚、靴もディオ様色です。金の靴ですが、縁取りが紫で刺繍されてます。今、思い出しました。
なるほど。聖女さまが思い合っている、と思われるわけです。婚約者同士が互いの色を衣装に取り入れることは良くありますが、全身というのは中々無いことです。仲良くない婚約者なら義務のように、衣装の差し色程度で使用することもあるわけです。
そんな婚約者同士から見れば、全身ディオ様色の私って……。
今まではドレスがディオ様色でも、装飾品などは私の髪色か目の色で、ここまでディオ様色になっていなかったのですが、今夜の夜会は全身ディオ様色。
なにか、理由があるのでしょうか。
もちろん婚約者としてドレスや装飾品を贈ってくださっただけ、と言えなくもないですが。いえ、でも、ディオ様のお言葉を信じるのなら、ディオ様は私を、す、好きだ、と仰ってくださったわけですから。は、恥ずかしいですが、そのお言葉通りに全身ディオ様色コーデになったのでしょうか。
そしてよく見れば、ディオ様は、私の髪色である水色のジュストコートです。刺繍の色が赤です。つまり私の色。あと中に着ているジレも水色でした。そちらも刺繍は赤ですから私の色ですね。それとジャストコートもジレも金で縁取りをされてます。
こうして改めてディオ様を見てみますと、私の色を纏ってます。ディオ様もこんなに私の色で自身を着飾られることは無かったのですけれど。
いつも、エスコートとファーストダンスが終われば、ご令嬢たちに攫われてしまうからと諦め切っていた私は、全く意識していませんでした。
お読みいただきまして、ありがとうございました。