「聖女殿、いくらあなたでも私たちの婚約に口出しする権利は無いですよ」
「聖女殿、いくらあなたでも私たちの婚約に口出しする権利は無いですよ」
振り返ると、国王陛下と同じ金色の髪に正妃と同じ紫色だけど、正妃と真逆の温もりのある目を見せているエンディオ様。
「ディオ様」
「ジェーン。済まないね。使用人に命じて、あなたたちの会話を聞かせていた。聖女殿、ジェーンが呪われてるというのは本当ですか」
私がエンディオ様の愛称を呼べば、エンディオ様が私の傍らに立って聖女さまにお尋ねされている。こうして二人を見て不意に気づいた。
聖女さまもエンディオ様も同じ紫色の目をしている、と。濃淡の具合まで同じで、そんなこともあるのね、と感心する。
「ええ。あなたと婚約解消すれば命は助かるでしょうね。でも彼女はそれを望まないようだわ」
聖女さまがチラリと私を見るので、微笑んで頷く。
「ジェーン……」
「ディオ様、ごめんなさい。あなたは私と婚約解消をしたいかもしれないですが、私はあなたと別れたくないのです。あなたを慕っています」
私がはっきり言い切ると、ディオ様が目を丸くする。
「それから聖女さま。私のことを案じてくださり、ありがとうございます。人は良いところばかりではないことは知っています。私はある人の良いところを探したいと思っていますが、その人の良いところは全く見つからず、他の人の良いところは見つけられるようになった。それだけです」
私のその言葉に、ディオ様が私の肩に手を置きました。ディオ様を見れば、エスコートよりも近しい距離で驚きます。それからギュッと肩に置いた手で私を引き寄せて抱き寄せられました。
……え。私、抱き寄せられていますか? えっ。
「ごめん、ごめん、ジェーン。あなたが人の良いところを見つける癖がついたのは、母上があなたに酷い対応をするからだろう? 報告は受けていた。二回、母上に抗議したことがあったけれど、あなたへの妃教育という名の虐めが酷くなってしまい、私が抗議すればするほど、あなたを苦しめることになると理解した」
……ああ、そうだったのですね。ディオ様は、正妃に嫌われている私を守るために、敢えて正妃に何も仰らなかったのね。
「いいんです。私が正妃に嫌われているのは……母そっくりだから、でしょう。母に生き写しと言われるほど、成長するごとに似る顔も、母と同じ髪色も目の色も正妃は嫌いだと、いえ、憎いのだと、知っていますから」
私が唯一敬意を払わない王族。
聖女さまに、怒るのは心身共に疲労する、と言ってしまうくらい、疲労が溜まり。でも私自身の尊厳を守るために、怒りを燻らせている人。
良いところを見つけてみようと思ったこともあったけれど、向こうが良いところを探させないくらい、私を虐げてくるから良いところを探すことを諦めた人。
私と同じくらい、いえそれ以上に私のことが嫌いで憎いと思っているだろう、その人。
それが、私とこの国の正妃の関係。
だから私は正妃に敬称を付けない。
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