「聖女さまはお優しい方ですね」
「エンディオ様は、男女問わず誰にでもお優しい方なのです。私を優先して下さいますよ。婚約者としてのエスコートとか、ファーストダンスとかです。あとは令嬢方に詰め掛けられて、お断りしないですから優しく話し相手をなさいまして、優しくダンスのお相手を務められます。ですので、自分こそ相応しいと思われるご令嬢方が多いのです」
そのエンディオ様の優しさに私も救われました。エンディオ様は私が愛されていないことに気づいてくださり、優しくしてくださった。
公爵家に使用人は居ても愛情をくれる人は誰も居なかった私です。その優しさに好きになりますよね。
きちんと婚約者として尊重してもらっていますから、それでいいんです。
「でも、みんなに優しい人って浮気もしやすそうだけど」
「最後に私を選んでくださるのなら、それで構いません。ね? 聖女さま。私、我儘でしょう? それに、結婚式の日程も決まりました。今夜の夜会は、その発表のためなんです。十八歳の私の誕生日に結婚式を行ってくれる、とエンディオ様が教えてくださいました。聖女さまも聞いていらしたでしょう?」
日程が決まったことは、先程の夜会の挨拶で陛下が発表してくださった。
そして今。
ファーストダンスを終えた私とエンディオ様。直後にエンディオ様がご令嬢に攫われていきました。そして私は、壁際に避けたら聖女さまにお声掛けいただいたのです。
「もちろん聞いていたけれど、私に呪いの依頼をしてきた令嬢からは、あなたが無理やり公爵家の力を使って婚約を結んだって聞いたものだから、結婚前に二人を別れさせたいって話だったのよ。それで、あなたのことを知ろうと夜会に参加したのだけど。あなた、聞いていた話と全然違う雰囲気だったから。声を掛けてみたの。ごめんなさい。呪いをかけたのは私の意思。だから、あなたに申し訳ないと思うわ」
聖女さまが思い違いをしていたことを丁寧にお詫びくださいます。やっぱり聖女さまに呪いなんて掛けさせてはいけないと思います。お優しい方です。
「聖女さまはお優しい方ですね。きっと他の方だったら、ご自分が呪いを掛けても謝るなんてしないでしょうから」
聖女さまに微笑むと、聖女さまがまた困惑したように笑う。
「あなた、高位貴族の令嬢なのに、随分と人の善性ばかり見ているのね。私も人間。そんなに良い人ではないのよ。そんなことで王子の妻なんて務まるの? 別の良い方を見つけたら?」
聖女さまは本心で私を案じていらっしゃるのか、私とエンディオ様との婚約を壊して欲しいという依頼を受けているから、婚約解消の誘いをしているのか。
それは分からないけれど、聖女さまに仰られてもそれだけは、したくない。
断ろうと言葉を発する、前に。
コツコツと足音が聞こえてきて、振り返るよりも前に、静かだけれど強い意思を感じるその声が背後から耳に届きました。
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