「ええ。ただ私の掛けた呪いだけ、ね」
「解除できたわ」
「もう、ですか」
聖女さまが手を差し出してきたと思ったら、そう仰るので驚いた。
「ええ。ただ私の掛けた呪いだけ、ね」
ああ、なるほど。ということは他にも呪いを掛けて欲しいと願う誰かがいて、それを叶えて呪いを掛けている人が居るということか。
「ちなみにどのような呪いなんですか」
掛けられている自覚の無い私。興味本位に尋ねてみたら、聖女さまは渋々教えてくださった。
「私が掛けた呪いは、悪夢を見る呪い。婚約者から嫌われる夢ね。これは今も言ったけど解除したわ。それから、婚約者から愛されない呪い。婚約者と別れないと寿命が縮まる呪い。これは酷いわね。それから、結婚式に死ぬ呪い。……えっ、こんな呪いまで掛けられているの? 酷過ぎるわ」
聖女さまが私をジッと見て、呪いの内容を教えてくださった。なるほど。やっぱり婚約者絡みでしたか。
「取り敢えず、聖女さまが掛けていた呪いというのは、気にしてません。いつか嫌われるかもしれない、と常に怯えてますから」
聖女さまが気にしないよう、お伝えすると、聖女さまが目を見開き、それから痛ましそうな顔をした。
「あなた、そんな気持ちで婚約を続けていたら辛いでしょうに。せめて眠る時くらい、良い夢をみられるようにしましょうか」
「いいえ。聖女さまのお力は、もっと必要とされる方に使用ください」
私が否定すると、聖女さまが悲しそうに笑う。悲しませるようなことを言ってしまったのでしょうか。
人が良過ぎるわよ。もっと我儘になったらどう?」
「我儘です、私。十分に。だって、どれだけ呪われようが嫌われようが婚約者と別れたくないので。彼に愛されなくてもいいんです。彼に嫌われたくないから、いつか嫌われてしまうかも、と怯えていても。別れたくないのです。ただ。結婚式に死ぬ呪いは、死にたくないですけど、彼と別れたくないので、成就しそうですね」
私が苦笑すると、聖女さまは、そんなにも彼がお好きなの? と聞いてきた。
もちろんです、と答える。
私たちの婚約は政略的なもの。でも、私は彼に恋した。だから、彼のことを好きな人たちから嫌味を言われても嫌がらせされても、婚約解消したくない。
彼が望んでも婚約解消はしたくない。
「でも、ご家族は呪いのことを知ったら悲しむのではないかしら」
聖女さまは心配してくださっているように、家族に同情を向ける。
有り難いけれど、でも。
「それは有り得ません。お金はかけてもらってます。ドレスや装飾品に教育まで、公爵令嬢として、王族の婚約者として、恥ずかしくないように金に糸目をつけてないのは知っています。でも、名前を呼ばれて抱きしめられたり、頭を撫でられたり、そんな愛情はもらったことはありません。両親それぞれに愛人が居ますし。異母兄弟・異父兄弟は何人かいるらしいですが、会ったこともないですし。異母兄弟の誰かが公爵家を継ぐのでしょうが、それも誰か知りませんし。使用人に蔑まれることはなくても、優しさもありませんし。家族として過ごしたことなんてありませんし。殆ど両親は居ないですからいつも一人ですし」
聖女さまは、絶句されてしまった。
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