「なにか、を言いたいほどに、あの二人に情がないのです」
「解除? は? 無理に決まってる。一年や二年の短い年月じゃないからね」
陛下が占い師に尋問し、占い師も観念したように呪いのことを認めましたが、呪いの解除はあっさりと出来ない宣言。
ちなみに、この占い師は女性のようで、これなら不貞とか疑われることは無いから侍女もなんの抵抗もなく頻繁に会えたのでしょうね。
「じゃ、死んでもらう方が良さそうね」
占い師の否定に聖女さまもあっさりと告げてます。占い師は顔を引き攣らせ「横暴」だの「人でなし」だのと叫んでます。
「じゃあ、あの女に唆されてこの子を呪ったあなたは人でなしじゃないとでも?」
聖女さまに真顔で問われ、金をもらっているから仕事だと言い切った占い師が、この子を助けることが私の仕事だと言い切った聖女さまに返されて黙り込みました。聖女さまがこの程度で黙るなら反論するな、とかお怒りです。
「聖女さま。占い師の方が呪いを解除出来ないって仰るのなら、その命と引き換えに私の命を助けてもらっていいですか」
私はこんな占い師と正妃のために死にたくない、と訴えます。聖女さまも「そうよね」と軽く頷き。
「ま、待って。私だって死にたくない。命を対価にしても良いほどの金をもらったわけじゃないっ。だから依頼者、依頼者の命と引き換えにして! あの王妃の憎いって気持ちを元に呪っているから!」
正妃の命と引き換えですか。陛下も第一王子殿下もディオ様も聖女さまも「じゃあそうするか」と、あっさり頷いて。占い師はギョッとして「あの王妃、こんなに嫌われてるの」と呟いたけれど、自分の命が懸かっているから前言撤回はしなかった。
それから占い師は、ただ正妃の命と引き換えなだけでは解除は出来ないから、というので。準備に時間がかかるということから、私は王城の客間で暫く過ごすことになりました。
聖女さまが、家に帰っても大切にされてないみたいだし、それならここにいる方がいいんじゃない? と仰るし、陛下も第一王子殿下もディオ様も頷いてくださって、そうなりました。
ついでに呪い解除の準備が整うまでの間に、私が未成人ではあるけれど、親が親の役割を果たしてないことを理由に陛下が公爵夫妻……つまり両親を叱責し、私を城で保護し、前王弟殿下の養女として迎えるという文書を公爵家とそれぞれの愛人の家に送りつけて、私は結局このまま王城に居ることになりました。
話し合い通りに進んでますね。
なんだか夜会からあっという間に色んなことが進んで、驚くやら目紛しくて気持ちが追いつかないやら、という感じでしょうか。
あと、陛下が一応の両親に登城することを通知したそうです。そこで、降爵の話もするとか。
「これが最後だ。なにか言っておきたいことはあるようなら機会を与えよう」
とまで陛下が仰ってくださいましたが、私は首を振りました。
「なにか、を言いたいほどに、あの二人に情がないのです。育つためのお金は出してもらってましたので、それはまぁ養育義務ですが一応感謝しますが。嬉しいも楽しいも喜ばしいも、辛いも苦しいも悲しいも、怒りも悔しいも何も浮かばないのです。私がそんな感情を持てるほどの関わりが無かったことが、私たち親子の全ての結果ですから。
家が降爵されようと、それで向こうが怒ろうと嘆こうと全く気にならないと思いますので。
もし、万が一にもあちらが私のことを口にしましたら、何の感情もあなた方に芽生えないほどに薄情な関係を築いてきたのはそちらです。実の親子でも情を育むことを拒否してきたのですから、私も拒否しても構わないでしょう。怒りも悲しみも喜びも虚しさも、何も思うことはありません。あなた方がご自分のご家族と幸せでも不幸でも気にしませんから、どうぞあなた方の大事なご家族とお幸せに。私も私で幸せになります、とお伝えくださいませ」
何か、を思うほどの情はなかったですが、お幸せに暮らしてくださいという気持ちにはなれたのですね、私。まぁ私に関係ないところでご勝手に幸せになってもらえば良いと思います。
私も私であの二人とは関係ないところで幸せになりますから。
後日、陛下が一応の両親に降爵の処罰とか諸々を伝えたら、万が一のことが起こったらしく、私のことを憐れんで欲しいとかなんとか騒いだようなので、私の言葉を伝えてくださったそうです。
そうしたら二人共に呆然とした、そうで。なぜでしょうね。ああ、王家との繋がりが断たれたからでしょうか。でも仕方ないことですけど。大人なのだからその辺り、言われる前に気づいて欲しかったですね。
その後、一応の両親はおとなしくなったそうです。騒ぎ立てなくて良かったです。
ついでに、降爵されたことを使用人たちも下知されて呆然としたとか。まぁ貴族位の最高位でしたものね。そこに仕えている自分たちって誇りがあったのでしょうからね。でも、そちらも仕方ないことです。
それから陛下と聖女さまが、この国の臣下とか向こうの国とかにアレコレ言われているのを振り切って、あと聖女さまの力が無くなってないのに、再婚されました。聖女さまがかなり強気で凄かったです。力が必要ならば力が終わるまで、その都度足を向ける、と宣言して。
あと、そんなゴタゴタから半年後。
占い師がようやく準備が出来た、とのことで。私の呪いの解除が行われました。儀式みたいな仰々しいことが行われることもなく。表向き、病に罹患した正妃が看病の甲斐なく儚くなった、という形で。
毒杯です。
処刑ってわけにもいかないですしね。
そして、その場には陛下だけじゃなく、アマディオ第一王子殿下とディオ様こと、エンディオ第二王子殿下と聖女さまも立ち会ったそうです。
私が立ち会うと暴れて潔く毒杯にならない気がした、というのがディオ様のお言葉で。
潔かったかどうか知らないですけれど、毒杯を飲んで命を絶たれた正妃を見届けられた聖女さま。後で確認よ、と私を呼び出して、呪いが全て解除されていることに安堵した表情を浮かべてくださいました。
それと。
ディオ様は正妃のことについて、詳しく語らなかったのですが、聖女さまが後でこっそりと教えてくださいました。
「ディオってば、お姉様にかなりお怒りだったみたいで、ジェーンを守るためとはいえ、他の令嬢と仲良くしなくてはならないことはストレスでした。母だと言うのなら子の幸せを願うべきでしょう、とか、かなり言っていたわよ。あなた、愛されてるわね」
そんなことは仰らなかったディオ様ですが、ストレスだったのは本当らしく、兎に角時間を見つけては、私に会いたがり、手を繋いで王城の庭を散歩したり、お菓子を私に食べさせて喜んでいたり、茶会でも夜会でも離れることなくピッタリとエスコートしてくださり、令嬢方を笑顔で退けてくださいました。
さすがに令嬢方やその親もディオ様のそんな様子を見て理解したようで、最近は挨拶だけ済ませて下がる方が増えました。それから。夜会で遠巻きに元両親に視線を向けられても、私は気づかないフリをしています。そのうち、あの二人も離婚してそれぞれの愛人と結婚することでしょうが、どうでもいいです。
私とディオ様はようやく婚約者らしい生活を送ってます。
お読みいただきまして、ありがとうございました。