「解除してもらえますかね」
「ということは、侍女に尋ねれば良いのか」
陛下が自身の護衛に「王妃付きの侍女を捕えよ」と命じられました。アマディオ第一王子殿下とディオ様の護衛が居るから大丈夫だ、と仰って。
陛下の護衛が直ちに動いて十名の侍女が連れて来られていました。陛下と王子殿下二人と聖女さまがいらっしゃるところに連れて来られたので、十名が怯えています。
陛下に視線を向けられた私は、「誰でも」と。誰であっても知っているはずです。だって正妃に罵倒されたり打たれたりするのをみんな見ていたはずなので。
よく分かっていないような侍女たちに陛下のご下問があって。侍女たちは不安げな顔を見合わせ、互いに誰が喋るのかアイコンタクトを取っています。痺れを切らしたのは聖女さまで、聖女さまを敵に回すことは拙い、と判断したのか侍女たちはそれぞれが勝手に喋り出し、逆に何を言っているのか分からない状況に陥ってしまったので、端から話すように促されてます。
結果として、侍女たちは頻度はバラバラですが、皆が数回は占い師に会ったことがあると分かり、一人の侍女がその占い師の住まいに案内しろ、と陛下と聖女さまに命じられました。捕縛なので護衛ではなく騎士五人が侍女と共に捕縛に向かう、とのこと。占い師一人に五人の騎士は多い気がしますが、逃走を防ぐためもあるようなので、もしかしたら少ないのかもしれません。
ちなみに残りの侍女たちは、正妃の私に対する態度を聞き出すという名目で、貴族牢に引っ立てられていきました。貴族牢ってたくさんの人数を入れられるのかしら、とちょっとだけ気になってます。
「これなら占い師とやらがお姉様に頼まれてあなたを呪っていたのなら、その占い師に呪いを解除してもらえそうね」
聖女さまがホッとしたように息を吐きます。
「解除してもらえますかね」
お金もらっているのでしょうから可能性が低そうですが。
「あら。解除しなければ命に関わると言えば良いのだもの。ただ問題は、あなたが長年王子妃教育を受けてきたことで、呪いがかなり強い場合かしらね」
聖女さま、前半さらりとなんだか脅す言葉を使ってませんでしたか。そして長く妃教育を受けていると呪いが強いってなんでしょう。
「それはどういった意味でしょうか」
私が尋ねると聖女さまが説明してくださいます。もしも正妃が私に妃教育を開始した頃から呪いをかけていたとしたのなら、呪いを掛けているのが占い師だとして、その占い師の力が弱かったとしても、長い時間掛け続けていれば強くなるものだ、と。
聖女さまが細い糸一本だと引っ張れば切れてしまいやすくても、何本も重ねて引っ張ると切れにくくなるようなもので、呪いを掛けている人の力が弱くても、ということらしいです。
なるほど。
つまり、長い時間かけ続けられていただろう私の呪いは、成就する可能性が高いとのことですか。
「その場合は掛けている者の命で贖ってもらう可能性もあるわね」
つまり、命と引き換えに私を助けてくださるということでしょう。
冷たいかもしれませんが、見知らぬ人が私に呪いをかけていて、その命と引き換えにすれば私が助かるのなら、そうさせてもらいます。
いくらなんでも私自身の命と見知らぬ人の、それも私に害を為す人の命を天秤にかけるのなら、後者ですから。
私が犠牲になってでも、その人を助けたい、なんて気持ちまではさすがに持っていません。
「でしたら、その人の命を捧げてもらいましょう。見知らぬ人の、それも私に害を為す人のために、私は犠牲になる気はありませんから。解除方法が無いのなら潔く死ぬことも考えますけれど、私に害を為す人の命と引き換えに私が助かるのでしたら、私は良心を痛めません」
私のこの考えが自己中心的だ、と思う人がいらっしゃるのならそれはそれで構わない。では、あなたは自身の命が儚くなっても、お相手を助けるのね、という話です。
私には無理というだけ。
「あら、あなた、変に良い子ちゃんじゃないのね。そこで人の命と引き換えなら助かりたくない、なんて言う子だったら私もあなたを助けるつもりはなかったけれど」
聖女さまが皮肉を仰いましたが「私はそこまで心根の広く優しい人間ではないです。充分自分勝手な性格ですよ」と苦笑しました。聖女さまは、寧ろそういうところは好ましいわね、と笑い声をあげて認めてくださいました。
そんなやり取りをしているうちに騎士が占い師を捕えて帰って来ました。縄でグルグルと巻かれてます。あと多分煩かったのでしょう。口も塞がれてました。
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