「取り敢えず、呪いは嘘じゃないわ」
「呪い」
アマディオ第一王子殿下がポツリと溢しました。
「そう、呪い。私が頼まれて掛けた呪いは解除したけれど、まだある。私が掛けた呪いは婚約者から嫌われるという夢を見るもの。それは解除した。でも。婚約者から愛されない呪い。婚約者と別れないと寿命が縮まる呪い。結婚式に死ぬ呪い。が、まだかけられているのよ」
聖女さまから改めて言われましたけど、本当に実感が無いので何とも言えません。
「呪いって叔母上が聖女ということをジェーンに信じてもらうための嘘ではないのですか」
ディオ様が焦ったように口にしますが、聖女さまを叔母上呼ばわりするのは止めた方がいいのでは?
ああ、ほら、聖女さまが睨んでます、ディオ様。
「エンディオ、あとで話し合いしましょうね。取り敢えず、呪いは嘘じゃないわ。抑々私は聖女という称号を与えられているけれど、それは私の持つ力を正しい方へ導くためのもの。力に善悪は無いから、使う者を善や正の方へ導くためにその称号を与えているのが教会。同時に教会や時の権力者たちに都合の悪い人が現れたら、悪や邪の方へ力を使うことも求められる。
だから私が彼女を呪ったこともその求めに応じた結果なの。私に呪いを掛けるように頼んできた者は、権力者の意向もある、ということよ」
それはつまり、この国の偉い方が私を邪魔に思ってということで。
「母上はそこまでジェーンを嫌っていた、と? 呪いを叔母上に頼むほど?」
私が気づいたようにディオ様も気づいたようで。正妃が自分の言うことを聞く者を動かして、聖女さまに私を呪うように頼んだということですよね。
「そうね。私も教会を通して依頼されたから背後に居るのが誰か分からなかったけれど。この子を疎ましく思っているのはお姉様だと考えれば、私に呪いの依頼をしてくる理由も理解出来る。
お姉様は聖人も聖女もどういう存在か正しく理解している人だから。
でも、多分それだけでは足りないほど、この子が憎いのかしらね。他にも呪いを掛けるよう頼んだ。或いはお姉様経由ではなく別の誰かが呪いを掛けるように願った。だからこの子には呪いが掛かっているの」
聖女さまが懇切丁寧に説明して下さいますけど、やはり私には他人事に思えて。本当に掛かっているのかしら、と疑問が沸く。
「ですが、聖女殿。私がジェーンを愛さない呪い、というのはジェーンに掛かってないはずです。私はジェーンを大切に思っています」
ディオ様、叔母上と呼んでは拙いと思い、聖女殿という呼びかけに直しましたね。
「呪いをきちんと掛けられる者なんて、中々居ないものよ。社交界でエンディオが婚約者より他の女性を優先している、という噂が流れたことで、呪いが完成した、ということになったのかもしれない。私も詳しくは分からないわ。
寿命が縮むことに関しては、若くして亡くなったとしてもそれが元々の寿命ということもあるし、五十年くらい生きたとしても、元々の寿命がさらに三年くらい先だったら短くなったと言えるわ。だからこの呪いも掛かっていても、完成したと言えるのか分からない。
そうだとしても酷い呪いだと思うけれどね。
問題は最後よ。結婚式に死ぬ呪い。これが強力だと結婚式に死んでしまうこともある。強力か微力か、それは私にも分からない。元々人を呪いたくて呪っているわけじゃないから、勉強不足で悪いけど私には分からないわ」
ということは、現状、ディオ様と結婚式を迎えたら死ぬ、という呪いは変わらないのですね。
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