「私は躾をしているの。教育を受けさせているのよ」
それでも陛下は隣国との悪化を懸念して、せめてお母様を側妃に、と必死に懇願された。お母様も隣国も陛下のその懇願に心動かされて、側妃の話を受け入れた、というのは、王子妃教育の機会で登城してから耳にした話でした。
それなのに、正妃の嫉妬と癇癪で、陛下の懇願を台無しにされ、お母様と隣国の怒りは相当なものでしたでしょう。ただ、陛下が戦争にしたくない一心で、お母様を説得し、お母様が隣国を説得したとも聞いています。
そのとばっちりでお父様はお母様と結婚したわけですが。それでお父様は相思相愛の婚約者を愛人にするしか無かったわけですが。
それでお母様は、陛下の側妃にもなれず、お父様に顧みられることが無いことに希望を見出せず、支えてくれた護衛を愛人にしましたけど。
その辺りは、両親に同情しますけど、だからといって、最終的にその皺寄せが私に来て、一見すると良い暮らしをさせられていますが実態は蔑ろにされ、冷えた夫婦どころか、今となっては、マナー違反で愛人伴って夜会に来る辺りはもう、同情も何も、という話です。
元を糺せば、正妃が悪い、の一言に尽きますけど。
「ディーバ、私は躾をしているの。教育を受けさせているのよ。虐待だなんてそんなことは。それに陛下との結婚は圧力なんて」
「かけてない、と言ったら軽蔑するわ、お姉様。あなたが行ったことは、この国への圧力。暴走した恋心によって不幸な人たちを生み出した。
そしてその皺寄せが、エンディオの婚約者であるジェーンの身にいったことも許し難いのに、さらに元隣国の王女殿下である母親そっくりなジェーンを気に入らない、と躾や教育と称して虐待していることは、もうお兄様やお父様だけでなく、教会も許し難いの。
アマディオが婚約者であるお兄様の娘に連絡を寄越したことで、お姉様の長年の行いは暴かれた。お父様もお兄様も考えもしなかった戦争を匂わせたことは、許さないそうよ。
教会も匂わせとはいえ、小国を戦地にするような発言をしたお姉様を、一国の王妃として支持することは出来ない、とトップが発言された。エンディオもアマディオも、お姉様のことを王妃としての資質を問題視している。陛下の心裡は聞いてないけれど、おそらく同じでしょう。
お姉様の妹として、そして聖女として、あなたの王妃としての資質を疑問視することを告発します」
告発する、と聖女さまが仰ったことで、正妃の立場は揺らぐことになりました。中立の立場の方が告発した時点で、問題がある、と言っているのと同じなのです。
アマディオというのは第一王子殿下のお名前です。やっぱり第一王子殿下は、婚約者であられる正妃の母国の王女殿下に現状を知らせていたのだ、と分かりました。未来の王太子殿下そして国王陛下が、きちんと公正な目を持つ方で安心です。
「王妃よ。聖女殿の告発を受け、余はそなたを捕えることにする」
国王陛下がご決断なさいました。
聖女さまがいくら告発しても、その告発を受け入れるか否か、あくまでもそれは陛下のご決断。陛下が正妃を庇うのなら、それで終わり、でした。
中立の立場の聖女さまなので、内政干渉、と陛下が決断すれば正妃は捕らえられることはなかった。告発を受けて捕らえ、裁可を下すのは陛下の意思です。
陛下は、正妃の度を越した振る舞いを許す気はないのでしょう。
せめて、正妃らしく毅然とした姿を見せて会場から退出すれば良かったのに。
喚き、拘束を解こうと踠く姿は、正妃としての誇りなど全く垣間見えなかった。陛下も王子殿下たちも私も呆れ果てました。
貴族で目敏い方たちは気づいたかもしれませんが、王族席での出来事だけに多くの人たちは気づかなかったことでしょう。
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