「あなた、呪われてるわね」
「あなた、呪われてるわね」
初対面の方に唐突に言われて目を瞬かせる。
「はぁ、呪い、ですか……? そうですか」
怒るでもなく無視するでもなく返した私に、彼女が今度は目を瞬かせた。
「こんなこと言われて怒らないの?」
「ええと。呪われてると言われても実感してないからでしょうね。あとは、怒るって心も身体も疲れるってご存知ですか?」
紫色の目。桃色の髪。目の前の彼女と面識は無かったけれど、その二つの色で誰か見当がついた。見た目の年齢も二十代みたいだし。
推測した人ならば、唐突にそんなことを言われても納得してしまう。でも怒る気にはなれないのと、怒るって精神的にも肉体的にも疲労が凄いことを知っているから、怒らない。
「……そうね。確かに。分かるわ。私、あなたのことを誤解していたみたい」
その言葉で何となく察した。察せてしまう自分が虚しい。それと。
「あなたの力を借りてまで私を呪いたい人が居る、ということですか。それは……悲しいですね。あなたの力はそんなことのためにあるわけじゃないのに」
私の言葉に、彼女はまた目を瞬かせる。
「呪われてることが悲しいのじゃないの?」
「呪われる理由は嫌というほど分かってますから。それよりも、あなたの力は本来、人を呪うためにあるわけじゃないですよね? 聖女さま」
「ああ私のことを知っていたの」
言い当てた私に、彼女は軽く頷き肯定する。
「面識がありませんでしたが、髪と目の色は聞き及んでおりましたし、年齢も二十代のように見えましたから」
聖女さまは、教会に保護された癒しの力を持つ女性のことを言う。男性は聖人。癒しの力は良くも悪くも使えてしまうと聞いたことがある。
身体の怪我や病を治す力でもあり、悪しき者に対しては眠りを妨げる呪いが使えることもあり。
「それで、私に呪いを解いて欲しいと言わないの?」
掛けたご本人なら解けるのだろうけれど、頼むことはしない。
「掛けて欲しいと言った人は、あなたに願うほどに私の存在がお嫌いなのでしょう。噂ではあなたが呪いをかける場合は、掛けて欲しいと願った人から対価を得るとのこと。何らかの対価を支払ってまで私を呪いたいのなら受け入れておく方がいいのでしょうから」
聖女さまは困ったように笑った。
「こんなに人の気持ちに寄り添えるあなたを呪いたいって思う人がよく分からないわ。私が呪うのは、人を苦しめてきた人だけだと伝えたのに」
「きっと、苦しんでいるのでしょう。恋とはそれほどに愚かになってしまうのですもの」
「あなたは、呪われる理由も分かっているのね。でもこのまま掛けておくのは、私のプライドが許さないから、解くわ」
私が苦笑して答えれば、聖女さまはそのように仰った。聖女さまのプライド、と言われてしまえば私に否は無い。
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