第6話
ロイド様はクララ様を客間に案内し、その後夕食はカトラリーが並び、クララ様は旦那様に教わりながら食事をしていた。クララ様の食べる音や食器の音などが気になるところではあるが、徐々に貴族としての嗜みを覚えて欲しいものだ。メイドや侍女たちはみんな貴族だ。平民のクララ様が上に立つことが屈辱であろう。所作などが全く貴族とかけ離れた態度だ。これは教育を早めた方が良いですな。旦那様に相談をしなければならない。
「クララ、これから貴族の作法をゆっくりとでいい勉強していこう。今後侯爵夫人としてお茶会などに呼ばれることが多い。貴族は人脈づくりは大事なんだ。大変だと思うが、クララの明るい、優しい性格で人脈を作ってほしい」
「あ、あたしは、そんな貴族の中で、それも侯爵夫人として、できる気がしません。やっぱり私には無理です」
「クララ、ゆっくりでいいんだよ。一緒に生きていこうと誓い合ってではないか。君もうれしい、頑張ると言ってくれたではないか。これから二人で生きていこう」
うつむきがちで”ええ”と了承していたクララ様だったが、食事が出されたときに”これだけ?”という言葉が聞こえた。
王都で旦那様と食事をしていた時よりは質素な感じの食事にびっくりされたのだろう。貴族の食事は豪華だと思ったのだろうか。
クララ様を部屋に送った旦那様にクララ様の貴族としての教育と侯爵夫人としての教育を早めにすることを提言する。
「旦那様、クララ様の貴族としての教育をどのように進めていきますか。それらの教育でしたら、グランドール伯爵夫人がよろしいかと思いますがいかがですか?そして、旦那様、早めの予算決算処理をしていただかないことには、融資などの話をどこにお願いするか決めなければいけません。今まではケイトリン様がしておりましたので、今後は旦那様とクララ様がしていただかなければなりません。融資先も考えていかなければなりません。早めに予決算を確認し、クララ様と挨拶を兼ねお伺いしたほうがよろしいかと思います」
「クララの貴族としての教育はもう少しゆっくりしてからでいいのではないか?この領地の良いところなどを案内したい。融資先はよく確認して決めていきたいな」
「早めに進めていかなければならない事柄を先延ばしし、旦那様やクララ様は仕事をしないということですか?決算時期の準備をしないといけないこの時期に。本来侯爵夫人も仕事が忙しい時期です。それにこの時期は災害が起こりうる時です。クララ様には貴族教育と侯爵夫人の教育を早めにすることをお勧めします」
「そうか、明日だけは頼む、クララを案内したい。それからで良いだろう?」
「さようでございますか。かしこまりました。では貴族教育はグランドール伯爵夫人様でよろしいでしょうか?あの方もお忙しい方なので、来られる日を教育日としてよろしいでしょうか?」
「ああ、それで頼む」
翌日には、2人で領地を見て回ったが、領民の目は厳しいものだったらしい。それはそうだろう。どれだけケイトリン様が領民たちのために頑張ってきたか。旦那様が王都でクララ様にうつつを抜かし、豪遊している間領地では台風襲来で大変だった。被害を最小限に抑えたのがケイトリン様だ。その後の復興もケイトリン様中心に行った。だから領民はケイトリン様を慕っている。
これから2人で領地を盛り立てるよう頑張ってもらいたいものだが、クララ様の顔を見るとすでに旦那様との気持ちが離れているように感じる。王都ではなんの仕事もない、ただ2人で一緒にいる暮らしと違いますから、すでにクララ様にやる気がみられない。貴族というのは豪華に見えるが、実質仕事ずくめだ。豪華絢爛に生活している人もいるだろう。だが、大抵の貴族は普通は質素に生きている。クララ様は貴族のほんの表側しか見ていないので、落胆は激しいだろう。特にこの侯爵領はケイトリン様のような頭の回転が早く、物を作り出すことが得意な方なら商売を興し領地を盛り立てられるだろう。しかし、この2人はどうだろうか?全く期待が持てない。旦那様がなぜこのクララ様が良いと思ったのか全くわからない。それほど平凡な方だ。仕事ができ優秀だと旦那様はいうが、平民の中ではの話なのか、そこの仕事場の中でだけなのかわからない。
ああ、不安でしかない。ケイトリン様、帰ってきて欲しい。