第4話
クララさんが私をずっと見ていたが、目はそらしていた。勝ち誇った目をされていたら、いやな気持になるので見ないようにしていた。でも、クララさんから見れば、私が怒っているように見えたのだろうか。
「あ、あのお伺いしていいですか?」
ビクビクしながらクララさんが尋ねてきた。
「?なんでしょう?」
「あ、あたしも慰謝料を払うのでしょうか?あたしたちは体の関係は本当にありません。本当に純粋に一緒にいたいと思い過ごしてきました。それでも慰謝料を払わなければいけないのですか?それにこの積まれた書類が侯爵夫人としての仕事ですか?」
「まず慰謝料としては、私は今までこの領地を支えてきました。あなた方が楽しく王都で過ごすことができたのは、こちらの領地でお金を捻出していたからです。ロイド様と観劇に行ったり、そのドレスもロイド様から送られたものですか?一緒に作りに行ったのですよね。色合いを同じにしてますよね。ロイド様はあなたのところに生活している間、全て私が仕事をしてきました。そして、御二方が生涯を共に過ごしたいということでの離縁ですので、慰謝料は発生するでしょ?あと、不貞行為があったかは教会が調べるでしょうから、それにより不貞行為がないと判断されれば慰謝料が減額されるのではないですか?そしてこの書類の束は、代々侯爵夫人としてすべきことが詰まった書類です。お義母様もこれは侯爵夫人がすべきことなので、永代引き継いでいって欲しいと仰っておりましたの。読めばわかるように、事細かに書かれてますので大丈夫です。ただ、この書類だけは早めに見ておいてくださいね。この書類は重要です。災害対策による侯爵夫人としての仕事が書かれてます。これからはクララ様がこちらを引き継ぎ、これからお子様も生まれ、娘さんやお嫁さんに引き継いでいってくださいね。頼みましたわよ。これで私の肩の荷がおりました。本当に大変でしたわ。これからは御二方の愛の力で頑張ってください。領民のことをよろしくお願いいたします」
「奥様、待ってください。私たちは不貞行為はしてません。本当です。信じてください」
「もう、私は奥様ではありません。それは私に言われても困ります。教会が調べることになるので、不貞行為をしていなければ、焦ることはないのでは?」
かなり焦っておりますわね?不貞行為でもあったのかしら?
「私はルメニエール教の教えに背いていない。不貞行為などしていない。本当だ」
ロイド様が言っているが本当のところはわからないでしょ。
「そうですか?別に私に言わなくとも、教会で調べればわかることですから。結婚中に別の女性のところにいること自体不貞があってもおかしくないと思いますけどね?まぁ、どうでもよいわ。では、クララさん、代々侯爵夫人が引き継いできたことは必ず後世にも引き継ぐようにお願いします」
「あ、あの、あたしこんなにできません。どうすればいいですか?」
「ロイド様からクララ様は優秀な方と聞いております。私の仕事を簡単に引き継げるとロイド様はおっしゃってましたわよ。大丈夫です。やればできます。それに、ロイド様も愛するクララ様のお手伝いをして2人で乗り越えていけますよ。私はルーデンスとライナに支えてもらいながらやっとこなしていた状態でしたが、あなたには愛するロイド様がついてますわ」
クララさんは”あたしはそんなに優秀ではない”とロイド様に言っていた。かなり引き攣った顔をしている。なだめるようにロイド様はクララ様の手を握っていた。これから貴族としての嗜みや侯爵夫人としての仕事をしていかなければならないのだから大変でしょうが、ロイド様と一緒に生きていくと決めたからには覚悟がおありでしょうしね。
「それでは私はこれで出て行かせていただきますわ。末長くお幸せに」
立った瞬間立ちくらみがした。倒れそうになるのを必死に堪えた。
「「ケイトリン(様)!」」
あらロイド様まで立ち上がった。執事のルーデンス、侍女長のライナが心配そうに私の方は駆け寄ってきた。
「ごめんなさい、大丈夫よ。今まで忙しかったから、少し立ちくらみをしてしまったわ」
「「奥様」」
「もう奥様ではないわよ。2人とも今まで助けてくれてありがとう。あなた方がいたからこの領地で過ごすことができたわ。これからはクララさん、いえ、侯爵夫人になるのですからクララ様ですわね。クララ様を助けてあげてね。それではロイド様、クララ様さようなら」
2人を抱きしめてお礼を言った。
不安そうなクララ様。心配気に見ているロイド様。私は振り返らずに、実家から迎えにきた馬車に乗って帰路に着いた。
帰る道すがら、領民たちがお辞儀をして見送ってくれた。今までありがとう。不甲斐ない私でごめんなさい。自然と涙が流れていた。これはケイトリンの思いなのだろう。