第19話
しばらくは復旧とともにダメンタール男爵がこの領地や他の支援している領地に不法な物資を隠していることが判明し密かに押収する作業もしていた。あのダメンタール男爵はそんな不法物質をマジックバッグなどにしまっておけばバレないものを、まあ、調査などしなければ、あんな誰も来ないようなところは気づかない場所であったことは認めよう。私は領民の顔や名前を全て覚えている。だから知らない人が数人紛れ込んでいることが分かり、そこから場所の特定した。前世でいう”麻薬”だ。この国はその薬物を許していない。他国からダメンタール男爵と仲間の貴族が取引しているのだろう。その貴族も判明したので、そろそろ一掃摘発がされることになるだろう。こんなもので人を支配し、お金を搾取しようとしていることが許せない。
ダメンタール男爵がこの土地に来るときは、その者たちに指示を出しているのだろう。さて今度来るのはいつかしら?その時、この領地で取り押さえる手はずになった。その時は公安部のスレイドタス公爵自ら来るらしい。一応ここは侯爵領なので、その上の地位の公爵様が来ていただけるそうだ。父たちも来ると言っている。
ロイド様が近づいてきた。ちなみにこのロイド様にはそのことを言っていない。機密事項なので。
「ケイトリン、あまり働きすぎると体に悪い。今は大事な時なのだから、頑張りすぎるな。私に指示して欲しい。そうすれば采配したら、自分で動く」
みんなびっくり顔をした。ロイド様が動く??どうしたの?
「あの、ロイド様。働いてくれるのですか?え?どうしたのですか?」
「あっ、いや、今まで君や領民に申し訳ないことをしていたと反省していたのだ。今まで自分は何をやっていたのだと、本当にすまなかった。領民たちにも謝罪しようと思う。今後は気持ちを入れ替えて、みんなのために頑張って行こうと思う」
「そ、そうですか。領民のために働いていただけるのでしたらありがたいです。それでは皆様行きますわよ」
「ケイトリン、無茶をするな」
「ケイトリン嬢です!あ、でも嬢だとおかしいかしらね、バツイチだし、妊婦だし?」
1人で呼び名を悩んでいたところ、ルーデンスが助け舟を出した。
「旦那様、ケイトリン様とはすでに他人ですから、呼び捨てはよくないと思います。コリンズ伯爵令嬢でよろしいのではないですか?呼び捨てはいけません」
ナイス、ルーデンス。
「コリンズ伯爵令嬢、最近あちこち動き過ぎる。休んだ方がいいのではないか?」
「そうしたいところですが、現状を知りたいのです。そして早く領民に安定した生活をしてほしいので、今は動けるときに動きます。無理しない程度にするわ。お気遣いありがとうございます」
ロイド様が腕を差し出した。
「支えになるだろう。転んだりしてはその、あの、お、お腹の赤ちゃんに影響が出てしまう」
あら、優しいわね。そういえば、夜の房事も優しかったわね。1夜の房事で何度も行為をしたけど。そういえばどういうこと?それ?クララさんの代わりだったのかしらね、やっぱり。ルメニエール教は不貞行為を許さないから、クララさんを思いながらの行為か。なるほど。納得がいったわ。
「何かよからぬことを考えていなかったか?」
「いえ、ロイド様も優しいところがあるのだなぁと思っただけです。そういえば房事の時も優しかったような気がしたので、クララさんの代わりだったのかなぁと思っただけです」
真っ赤になった顔をして私の目を見ながら、釈明のようなそんな話をしていた。
「ま、まさか、房事の時にあの女のことは全く考えたことがなかった。これは本当だ。本当にケイトリンにはすまないことをしてきたと思う。そ、その、はじめは父が亡くなり、すぐ当主になり、災害が発生してどうすることもできなかったところに、貴女が私と結婚して領地を助けてくれたのはありがたかった。だが、自分で何もできなかった思いが強く、そして君に心がいってしまうのを恐れて、あのあとすぐあの女の所に行き、自分の気持ちはあの女にあると言い聞かせるように正当化していた。だから王都に長く行っては、貴女への気持ちは間違えだと修正をかけていたのだ。すまなかった」
「そうは見えませんでしたけどね。それではあなたはなんだか私のことを思っているように感じるのですが」
「貴女と離縁したあと、あの女と結婚するのだ、私と共に生き、きっと良い侯爵夫人になってくれるだろうと自分の考えを言い聞かせ、正当化し、そして期待していたのだが現実は大きく違っていた。お互い表面での付き合いだったということがわかったのよ」
「きっと私のことも表面的だと思いますよ。焦らずに誰か他の女性を見ていけば良いのではないですか」
「貴女は私を許さないだろうな。でも、私は貴女と子供達共に過ごしていきたい。お願いだ、私のこれからを見て決めて欲しい。頼む」
子供達って何?お腹には1人しかいないけど。
「今はこの領地のことを考えていきましょう、まずはそこからです」
「ああ、頑張るよ。共に助けあって生きて行こう」
もう、何言っているのこの人は。