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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

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キャロライン・グリーンヒルの結婚

さようなら、旦那様。さようなら、婚約者様。

作者: 高瀬あずみ

なんとなく勢いで書きました。設定はふわっとなーろっぱ。


「私が君を愛する事はない! 我が心身は真実愛するアリッサのもの。君に指一本触れる気はない。そう心得よ!」


 先程、婚姻が成ったばかりで私の夫となったはずのエリックが、夫婦の寝室に入って来た途端、そう宣った。双方、夜着の上にガウンを羽織った初夜の装いである。

 エリックは侯爵家の五男。私は伯爵家の嫡女であり、未来の女伯爵である。つまりこの男は入婿の分際で早々とやらかした訳だ。


「この家を継ぐのが私であることは理解しておられますよね? 私があなたに嫁いだのではなく、あなたが私に婿入りしたことも」

「もちろんだとも! だが私たちは婚姻し、夫婦となった。ならば妻は夫に従うものであろう!」


 あくびが出た。今日は早朝から結婚式の支度に追われ、ようやっと式が無事に終わればお披露目のパーティーがあり、笑顔を貼り付けて来客への挨拶を繰り返していた私は、すっかり疲れ果ててていたのだ。することをしないのならば、もうさっさと寝かせて欲しい。

「エリック様、あなた、そんな寝言ばかり口にして。早く眠ってしまった方がいいわね。私も疲れて眠いから、もうこのまま休ませてもらうわ。初夜は仕切り直してからにしましょう」

「キャロライン、私の話を聞いていたか? 君を抱く日がくることはない!」


 何言ってやがるんだ、こいつは。

 言葉は悪いけれど、正直な私の今の気持ちを言語化するならこうなる。


「それは契約違反です。あなたの血筋と顔の良さを見込んで、婚姻を成したのですから」

「私に惚れて申し込んできたのではなかったのか!?」

 ご自慢の顔に私がのぼせ上ったとでも思われていたらしい。そんな事実はどこにもない。


「さすがに名家と名高いグレートリー侯爵家であっても、末の凡庸な息子の処遇には困っておられたようですね。継がせるべき爵位もなければ、王宮の文官として勤めるだけの頭脳もなく、騎士として身を立てるだけの体力も技量もない。近日中に籍を抜いて侯爵家から追い出す算段をされていたとか。そこに婚姻を打診していた我が家からの申し出。飛びつくように了承していただけましたわ、格安で。有体に述べれば、こちらがあなたを買い取ったわけです」

「それでは人身売買ではないか!」

 私の言葉に青筋を立てて、唯一の取り柄である整ったお顔が台無しになっている。

「大差ないでしょう。伯爵家からは支度金をそれなりに用意しましてよ? 

 あなた、侯爵家の不良債権であった自覚はお持ちでなかった? 学院を卒業しても何の仕事に就くわけでもなく。家や領地での仕事を手伝うわけでもない。近く、家督もご両親から長男であるお兄様に引き継がれるそうですわね。面倒を見るのはそこまでと話し合われていたということです。

 少し調べさせていただきましたら、平民女性との恋愛ごっこに勤しむばかりで、努力の必要な行為をするのを厭うておられる。こちらとしましては、私の仕事の邪魔をするだとか、伯爵家の実権を握ってやろうとするような野心を持った婿はいらなかったので、あなたは実に丁度良かったのです」


 私は椅子から立ち上がって、自分よりも高い位置にある夫の顔を目を眇めて見上げた。

「あなたにしてもらいたい仕事はひとつだけです。私に子種を与えること。たったそれだけで一生の生活保障をしてさしあげるのです。逆に言えば、閨事を拒絶するようであれば不用品は処分せねばいけませんわね」



 私とて、この婚姻を心から望んでいたとは言えない。幼い頃からの婚約者であった伯爵家の三男ウィリアムが病没したために、急ぎ新たな相手を探さねばならなかった。この国では女性の爵位継承も認められてはいるが、夫を持たなければ継承の条件を満たさない。伯爵である父もまた病床についている現状、早急な継承が望まれているのだ。婚約期間すらほとんど設けずに婚姻に至ったため、エリックとの交流を図る暇さえなかったほどだ。



「考え直す余地はないと受け取ってもよろしくて? 

 アリッサさんというのがあなたの恋人の平民女性ですね? 真実の愛だとか宣われているようですが、真実の愛だけでは生きてはいけませんよ? ご実家と我が家から放逐されて貴族ですらなくなった後、彼女に養ってもらうのですか? あなたには生活能力も財産もございませんでしょうに」

「見損なうな! 私だとて、本気になれば一角の人物になってみせる!」

「無理に決まっているじゃありませんか。なれるのならもう、とっくになっているはずですもの。

 もうよろしいわ。おやすみなさい、さようなら」


 卓上のベルを鳴らすと、すぐさま扉が開き、屈強な護衛たちが入室した途端にエリックを押さえつけて運び出していく。念のためと控えさせていたがまさかの事態だ。

「キャロライン様、どうなさるおつもりですか?」

 同じように見送っていた侍女長のスーザンが、ハーブティーを差し出しながら尋ねてきた。カモミールの香りが鼻腔をくすぐって、胃の腑に落ちるぬくもり。穏やかに入眠を促す優しい味に疲れてささくれた心が癒される。

「予想していたよりも愚かな人物のようね、私の旦那様は。明日以降は夜毎に媚薬を投与するように。暴れないよう拘束することも忘れないで。それ以外の時は意識を朦朧とさせる香を焚いた部屋に軟禁しておいて。エリック様の部屋に入る者には十分な防護をさせてね」

「媚薬を使うとなりますと、お嬢様のお身体に負担が……」

「仕方ないわ。旦那様に新妻を思いやるような行為が自発的にできない以上、覚悟はしていてよ」



 自分が伯爵家を継ぐのだということ、次代を儲けねばならないことはもう、とうに覚悟してきた。それでも身体が震えて怖気付く自分もたしかにいる。当然ながら男女の交わりの経験もない。未知への恐怖を抱いても仕方ないだろう。互いに尊重し、家族としての愛を育めればという憧れもなかったわけではないが。


(でも、あの方ではねえ)

 正直なところ、爵位を継げない貴族家の次男以下からすれば、女伯爵の婿というのは美味しい立場だ。貴族籍を保ったままそれなりの水準の生活も保障されるのだから。子を儲けた後であれば、愛人を持つことすら暗黙のうちに了承される場合もあるのだ。過剰な奢侈に耽らなければ私とて許容するつもりでいた。

 婚姻の申し出もそれなりの数が我が家に届いており、その中から賢しすぎ、野心を持つような男を排除していった結果、多少は愚かな方が望ましいと思って血筋と容姿の優れたエリックを選んだのだが。想定以上に愚かすぎた。


「一定期間閨を共にして、子が出来ぬようであれば、托卵も配慮せねばね」

 あくまでも私が産んだということが重要なのだ。伯爵家の血を持つ子でなければ意味はない。髪色と目の色がエリックと同じ男を見繕って、彼の子だとしてしまえばよい。そう割り切らねばならないのが私の立場だった。



(本当に愚かで憐れなこと)

 ひとり寝台に横たわって、エリックの行く末を憂う。

 大人しく夫婦の義務さえ果たしていれば、彼の真実の愛の相手共々、養うくらいはしてやったものを。

 たった一度の発言のせいで、彼は何もかも失ってしまった。


 夫婦での社交も当然できず、体調不良で寝込んでいると説明することになるだろう。そしてそれは真実となる。おそらくエリックが正気に返ることはもう二度とない。彼の部屋に充満させる香は思考を奪う。それだけ強力で、かつ常習性も高く、そして寿命を縮めるものだ。エリックの実家も、愚かな息子の末路を予想していながら売ったのだから、あちらから難癖をつけられる心配はない。不用品の処分もできて、伯爵家との繋がりができ、それなりの金額を受け取っていれば。後は見て見ぬふりをするだけのこと。



 冷たいと、人の心がないと、私の中ですら訴える声がする。

 だがそれがどうしたというのだ。

 私すら伯爵家の血を繋ぐための歯車に過ぎない。貴族の家に継嗣として生まれたからには、家と領民を守るために己すら犠牲にできなくては。

 自分の中の弱さは、以前の婚約者の死と共に葬ったはずなのに。彼とならば穏やかに愛を持って伯爵家を守っていけたはずだという未練がまだ私を苦しめる。


(さようなら、エリック様。さようなら、ウィリアム様。そして―――)

 苦く長い生が、私の前に続いている。せめて、生まれて来るであろう我が子を愛せますように。


出て来る香は、阿片のイメージですが細かく想定していません。

主人公のキャロラインは二十歳前後。一人娘。父が病に倒れたので実質的に伯爵家も掌握しています。

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― 新着の感想 ―
主人公のキャラが確り立っていて、面白かったです。 台詞のやり取りも、楽しく読めました。 応援しています!
ヒロインに救いがないのが気になります。 相愛の相手が現れてほしい☆ 本文では名前が『キャロライン』ですが後書きでは『キャサリン』になってます。
現代の不妊治療もそうだけど、媚薬使って生まれた子って次世代大丈夫なのかな? 歴代運用して安全性担保されてたとしても「鉛のカップのホットワイン」って史実あるし、薬は不安
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