嘘つきの大統領
かの国の大統領は大きく笑った。
「お前らに真実なんてわかるはずないだろう。己惚れもいいかげんにしろ」
そのテープが漏れたのは重要な選挙の前日。新聞、テレビ、ネットは騒然。ありもしない噂が混じって大統領が今まで築きあげてきたもの全てが台無しになる寸前、大統領は前代未聞の法律を定め発布した。
『テロリストは問答無用で捕まえ、逆らえば抹殺する法』
騒ぐ民衆を抑えつけ、叫ぶ群衆をひっとらえ、それでも暴れる団体は首だけになった。
かの国の大統領は暴君だろう、そうだろう。別の国の組織はその頭を狙う。運悪く外して、別の国には制裁が科された。大統領は真実を知っているようである。すぐ差した指はちゃんとその組織だった。
けれどもやり過ぎてしまっただろうか。ただでさえ不況であったのに、反乱者すべてをテロリスト見做し、もちろんその中には本物もいただろうが、やはりやり過ぎていた。どいつもこいつも牢獄に居やがるので、経済が回らなくなってしまいました。国はより貧乏になって、もっと他国のテロリストが入りやすくなってしまいました。
かの国の大統領は最初こう思っていたのでしょう。
「反乱者は貧乏だから反乱する。だから居なくなっても構わんのだ。所詮弱肉強食がこの世界、この国なのだ」
全米が鼻で笑えなくなるほどに、物が売れなくなったのです。買う人がいなくなったのです。作る人がいても使う人がいなければ、そりゃ売れない。
あれだけこの国を偉大にするとスピーチしていたのに、この始末。もう民衆は黙っていられません。反乱しました。捕まりました。そしてテロリストが増えました。
こうなるともっと悪い人種が寄ってくるのが世の理。倫理を無視した秘密の技術、人体錬成を用いて社会経済、国を作りましょうと取引してきました。
けれど、ここはさすが大統領。その人種が黒幕だと見抜いていました。すぐにそれら、牢獄にぶち込み、首を取って、勝利の拳をあげたのです。叫びました、大々的に報道させました。あれ、おかしい、街に人はいないままでした。
だから、ここはさすがの大統領。その手そのまま、禁忌の沼にぶち込みました。消費者がいない? 国民がいない? だったら、作ればいいじゃないか。
はてさて、そうして出来上がった国では完璧な法律と完全な経済が広がっているようです。刊行するにはもってこいの国、テロリスト対策はちゃんとして、旅行でもいかがですか。
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ありもしない需要を作り出したこの広告を私たちは笑った。