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マスメディアは仕事を放棄した!

 それはそれは歴史ある、世界で一番購読されている新聞紙の、そのテレビですから私たちは頷いて見ていたものですが、最近はどうも見ていられなくなってきた。丸い石が蚊帳の外から飛んできたと思ったら、誰かを撃ち抜こうとした銃弾がそのまま別の誰かを圧倒してしまったり、最近では賄賂と浮気不倫が流行る世の中で、正当だ正当だと学級委員長ぶっていたあの子がまさかそうだったのかと、もう左右も見れなくなってきた。

 頭に張り付いた蜘蛛の巣を掻い潜るように飛び込んだネットも、どうだかわからず、はてさて、私はどうしたものか。スワイプすると、記事があった。


 『マスメディアは仕事を放棄した! 報道しない自由!!』


 罵詈雑言、支離滅裂。返信欄は加えてエッチな広告と変な顔の外国人。どうにもこれもよくわからないなと、閉じたその真下にある記事、


 『ネットの誤情報に注意! デマが拡散されています!!』


 とネットで発信する知った名の新聞社。一応開いた返信欄はご想像の通りの有様。何を書いても同じ感想ばかりなのだからもはやどっちでもいいのではなかろうか。

 たまにロケットがどこかへ飛び立つ動画をその小さな枠に見かけるが、あの中に私たちが入っていて、もうすでに情報の宇宙にいるではないかと思う次第である。こんな世の中、どうやって正しく生きられるのだろうか。

 そのように板の片手を眺めていた午後二時頃、チャリンチャリンと玄関が鳴った。誰か来たのだろうか、畳まなくてよくなった新聞を置いて私は戸を開けた。

 居たのは見すぼらしい服の冴えない若造と、小綺麗な身なりのスーツマン。片方はやはり不気味に緊張していて、もう片方はニヤニヤとまた不気味だった。私は「何の用ですか」と訊いた。スーツマンは冴えない若造を肘で小突いて言わせる。


 「あなたは神を信じますか? 地震がもうすぐ来るんですよ」


 ほうほうほうと、私はありもしない髭を撫でた。こいつ等は馬鹿だなと、私は学者ぶったのだ。つまらない時間が続いていたから少しばかり話すことにした。


 「じゃああなたは神を見たことあるんですか?」

 「ええ、ありますよ。朝に三十分だけ祈れば現れるのです。それから病気も治りました。幸せになりました。あなたは幸せですか」

 

 冴えない若造は自慢げにか、まるで私を好きな女の子と間違えているのか、気持ちよさそうにする。確かに今、その表情は嬉しそうであるが、その身なり、どうも幸せそうには映らない。説得力の欠片もないのだ。これだから最近の若いものは。まずは身なりだろう。

 そう訝しんでみせると、隣りにブスを並べて誇らしげにする性根の悪い女子のように目立つスーツマンがニヤニヤと唾を飛ばしてきた。


 「いやね、まず祈るだけでいいんです。祈るだけで幸せになれるんですよ。やらない意味はないでしょう? それに――」


 ぐいぐいと早口論理並べてくる。眩暈がしそうである。気疲れしてしまって、私はもう面倒になってきた。適当に返事して、適当に紙に名前を書いて、判子を押して追い払った。それから毎日、三十秒だけうんたらかんたらと詠唱して、肉食も辞めて、座り方も変えて、聖堂にまで毎週足を運ぶと余ったお金を下ろすようになっていた。

 そうして一年くらい経って、ようやく気付いた。あれ、私の神様いつ出てくるんだ? いや違う、そっちじゃない。なんか、入信してた。


 けれどこの生活、あまり悪いものではなくて、年取って外に出る時間も減って、交流も少なくなっていたから色々話せて楽しいし、聖堂の坂を頑張って登るのも足腰が鍛えられて反って健康になった。これも毎日祈った賜物だな、いや違う、いい坂なだけだ、うむ。あと聖堂の景観が割とゴージャスで芸術的で安っぽいもんだから、登りきると達成感があって、気持ちいいだけだ。隣りの山田さんの意義切れした肩をトントン叩いて、今日も日課の、


 「いつかあの聖堂を私たちの手でもっと大きくしましょう」


 と勇敢な兵士のごとく語るのだ。ああ、なんて充実した毎日。これも神様のおかげか。エボンの賜物か。いや、違う。違うのだが、それはそうと、もうだいぶ経った。私の神様はいつやってくるのだろうか。お金も随分と入れたのだから神様からキスの一つ、接待の一つしてくれてもいいだろう。

 だから私は山田さん、あと仲のいい大上田さん、その他仲間と武装して教祖様の神殿へ襲撃を掛けることにした。物騒かもしれんが、勘違いしないでいただきたい、これはそういう宗派なのだ。革命とは武力を持って行われるべきという宗派なのだ。私たちの神様を独り占めしているかもしれぬ、そう宗教ネットサイトで言ってたんだから仕方ない、襲われるべきなのだ。

 門を車で吹き飛ばし、警護警察を昆でなぎ払い、またせっせせっせと坂を登る。教え、教えと、鍛えられた運転の認知対策、昆など護身武道、いつの間にか鍛え抜かれた足腰、本堂は実に軟弱なものだと私たちは神様、神様、と神殿を駆けていった。

 そうしてついに大きな扉があった。大きいというのはサイズだけでなく、金額的にも黄金でできていたから大きかった。こんなものに私たちのお金が使われていたのかと、デモもしたい気分になってきたが、構わずその扉を砕いて中に入った。

 中は壁と天井は黄金で、脱ぎ散らかされた着物が埋め尽くす床もおそらく。布団枕も散らかって、その向こうに一人、全裸の汗まみれの太ったおっさんが黄金の玉座に偉そうにしていた。あれが教祖に違いない。昆を投げつけ、私たちは怒鳴った。


 「さぁ観念したまえ、命を払って罪を償え! 私たちの神様を出せ!!」


 黄金の部屋はよく反響した。そのせいで自分たちの声が大きくなって、小さく動く教祖おっさんの口が何を言っているのか聞こえない。耳に手をあてて、静かになっても、あれ、聞こえない。ああ、そうか、これが老化か。教祖おっさんもこれに気づいたか、自らこっちに来た。


 「わ、私が神であるぞ。神であるぞ?」


 うむ。聞き間違えたか、私たちは顔を合わせるとまた耳に手をあてた。次は随分と大きな声で言ってくれたからそうでないとわかった。ものの、どうなのだ、これは。全裸の太ったおっさんが神様だと、イケメンになれると入ってきた若造もそこに居るのに、説得力がない。けれどその肝心の若造が真っ先に跪いたから驚いた。それを見て、ドミノ崩しのように他の仲間も跪いて懇願し出した。

 ダメだ、ダメだ。嘘に違いない。さすがの私もここまで来て騙されるわけにはいかぬ。ならばと私は「一つ、芸当をみせてみよ」とその誰かおっさんに提案した。そうするとあれはキリッと変な立ち方をしながら、


 「今、お主の後ろにある風景がそうであろう?」


 と言い放ってきた。なるほど私以外全員頭を下げていた。こうなると、なんか私も頭を下げてきたくなっちゃったぞい。

 そうして誰かおっさんは神様だったとわかった。私もそうであるが、頑張って祈ってきた周りがああも惑わず祈るのだから間違いない。あれは神様なのだ。

 それから私は死ぬまで神様にお金を落とし続けた。年金が無くなっても、借金して落とし続けた。聖堂も日本の観光地になるまで成長して、私たちは勇ましかった。ああ、いい人生だった。


 死後、私は自らをキリストとか神様だとか名乗りやがる愚か者と対峙した。そんな訳が無いと私は自らの人生を語って反証した。するとどうだ、キリストはこう返してきた。


 「いえ、その人は詐欺師ですよ。あなたは騙されていたんです。私ならあなたを救える。よかったら、私に魂を捧げてみませんか」


 こいつは酷い。なんて酷い奴だ。何を根拠に詐欺だとか、嘘だとか抜かすのか。私がそんな馬鹿にみえるのか。だから私はハッキリ言い返した。


 「お前が神だなんてどこの記事に書いてある! どれくらいの人が賛成している!!」


 その後、私とキリストは殴り合った。あまりに乱暴にやったのでもっと偉い人に叱られ、檻に入れられた。禁固もかなり長くなって、私たちはまた神様へ祈った。するとその神様はそこにやって来てくれた。私は嬉しかった。神様は吐きそうなほど悲しいほど顔をしていた。

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