君の「本当の自分」「パート3」
クラスは16時10分に終わった。それはちょうど5分前のことだった。
僕は自分の机に座って、教室を見渡しながら、各APAが全て消えているかを確認していた。もし、メールを送った人物が僕のクラスの誰かだったとしたら、そのAPAは点灯して、これから会う場所に向かうはずだ。
もう一度、教室をさっと見回した。どのAPAも特に怪しい様子は見られなかったが、それでも、数分間そのまま座って待つことにした。
どのAPAも音を立てなかったので、僕は机から立ち上がり、歩き始めた。
階段を降りて1階に着くと、僕は学校の空っぽの廊下を歩いていた。廊下の端を曲がったところで、校庭に通じる出口にたどり着き、そこで足を止めた。僕が出てきた建物は、僕のような2年生に割り当てられている建物だった。左側には3年生の建物があり、右側には1年生の建物があった。僕たちが会うことになっている場所は、正面、学校の本館の右隣にあった。
緊張を抑えようと、ゆっくりと数回息を吸い込んだ後、しっかりとした足取りで目的地へと向かい、ついにその場所にたどり着いた。
最初に目に入ったのは、本館の壁の近くにある大きな木で、その木は建物の半分ほどの高さまで伸びていた。その下には、長い銀色のベンチがあり、周りにはたくさんのカリプソ色やライラック色の花が咲いていた。大きな木の葉がゆっくりと揺れながら芝生に落ちていき、その芝生は暖かい日差しを受けて輝いていた。
それは素晴らしい光景だった。
しかし、時刻は午後16時41分。そこには誰もいなかった。
僕はさらに歩みを進め、大きな木の前まで行き、ベンチに腰を下ろした。落ちていく葉を見つめながら、僕は待ち続けた。
そして、太陽がついに学校の本館の裏に沈むのを見届けた。
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僕はまだ大きな木の下で待ち続けていた。約1時間が経過していた。
「間違いない、ただの悪質な冗談だったんだ…」
失望しながら、僕は地面を見つめたまま呟いた。
もちろん、そんな結論にはすでに30分前に達していたが、それでも心のどこかで誰かが現れるのを期待していた。だからこそ、僕は立ち上がってその場を去ることができなかったのだ。明らかに分かりやすい冗談だったし、この学校に僕と話すつもりがある人なんていないと信じていたのに、少しでも希望を抱いてしまった自分は愚かだった。
僕は顔を上げ、肩にバッグをかけ直してから、家に帰るために歩き始めた。そして、学校の本館の右側にある角を曲がったとき、金属の物体に思い切りぶつかってしまった。
すぐに顔を上げ、何にぶつかったのかを確認しようとした。
「¡あっ…!」
それは、女性型のAPAだった。
「も、申し訳ありません!大丈夫ですか…?」
「えっ?」
APAの声を聞いた瞬間、少し歪んでいることに気づいた。すぐに彼女の頭の上を見上げたが、そこには名前が表示されていなかった。
「い、いえ、大丈夫です!その衝突でケガはしていませんから!」
「君が僕にメールを送った人だよね…?」
彼女は少しの間を置いてから答えた。
「うん…」
その短いやり取りの後、僕たちは二人で大きな木の下まで歩き、そこでお互いに向き合って立ち止まった。
「…」
「…」
その場に漂う沈黙は、学校で普段感じるものとは違っていた。どう表現すればいいのだろう?何というか、居心地が悪くて、焦るような感じだった。
「さあ!何か言わなきゃ!このチャンスを逃すのか?他のクラスメイトと普通に話しているみたいに、ただ彼女と話せばいいんだ!」そう思ったんだ。
「お、おい、ちょっと聞きたいんだけど…、どうして僕にあのメールを送って、ここに呼び出したの?」
僕が話しかけると、彼女はすぐに答えた。
「わ、私…、もうずっと前から…、あなたを見ていたの…」
自然に顔が赤くなり、ほとんど本能的に視線を逸らした。それからまた、二人は沈黙の中に包まれた。
「市川さん…」
そのAPAは、少し照れくさそうに、歪んだ声で続けた。
「実は…、誰かにこんな気持ちを抱いたのは初めてなの。あなたを見るたびに、胸が痛くて、心臓が激しく鼓動を打ち続けるの。」
突然、背後から強い風が吹き荒れた。その風に押されて、大きな木の葉が激しく落ち、まるで雨粒のように地面に落ちていった。夕日の光が本館の横から差し込み、まるで映画のワンシーンのように、そのAPAに美しく照り返った。
その光景は、まるで映画の一場面のようで、僕の目に深く刻まれた。
彼女の本当の顔がどうしても分からなかったけれど、その瞬間、彼女は僕を魅了した。
「最初に、あなたが自分のクラスの生徒たちに話しかけているのを見たとき、そして僕に話しかけたときから、あなたは私の注意を引き始めたの。あなたがAPAを使わない唯一の人だからなのか、それとも、他の人に話すときにいつも優しい笑顔を見せるその態度が、私には特別に感じられるからなのか…。」
僕は今、何が起こっているのか信じられなかった。彼女のAPAから聞こえてくるその言葉が信じられなかった。何度も何度も、自分が今体験していることが本当に現実なのかを問いかけていた。
「それとも、他の人にいつも拒絶されても、決して諦めずに挑戦し続ける姿が、私にはすごく勇気をもらえるからかもしれない。だから、私は…」
その瞬間、まさに今、誰かが…
「あなたのことが好きなの。」
「…!」
誰かが、僕に自分の気持ちを告白してきた。
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「この胸の中で感じる変な感覚は何だろう?」その女の子のAPAが歪んだ声で最後の言葉を発した瞬間、僕は右手で胸を強く押さえた。心臓が激しく、乱れたリズムで鼓動を打ち続けていたからだ。
その時、どう反応すべきか全く分からなかった。彼女の言葉にどう返答すればいいのかも思いつかず、頭の中は完全に真っ白になっていた。
その瞬間、母方の叔母であるヒカルさんがよく話してくれた数々の話の一つが、ふと浮かび上がった。それがきっかけで、僕の右頬を小さな涙が伝っていった。
その様子を見た女の子のAPAは驚いて反応した。
「え、え!?大丈夫!?私、何か言ってはいけないことを言ったの!?」
「…え?い、いえ!違うんです、実は今、信じられないくらい幸せな気持ちなんです。」
「そ、それってつまり…」
僕は少しだけ考えを整理するために数秒間黙り、落ち葉で覆われた芝生に目を向けた。深く息を吸い込み、その後ゆっくりと吐き出す。気持ちが整ったと感じた時、心からの答えを返した。
「もしかしたら、君が言ったことを考えると、少し自分勝手かもしれない。でも、今の僕には君の気持ちに対して答えることができない。」
「ど、どうして…?」
「僕は君の本当の姿を知らないから…」
僕の言葉を聞いた彼女は、しばらく沈黙した。
「君がどうして名前を隠しているのか、そして声までわざわざ歪ませているのか、その理由は分からない。たとえ、こんな場所に僕を呼び出して、心を開いてくれたとしても。」
僕は視線を空に向け、夕焼けの深紅色の広がる空を見上げた。
「二年前から、僕はこの国の人々とそのAPAへの執着が理解できない。APAを使っていることで、みんなは人生でたくさんの素晴らしい瞬間を経験できなくなっているんだ… それは、APAを使っていなければ体験できない瞬間なんだ。」
僕は素早く視線を彼女のAPAの顔に戻し、そして大きな笑顔を見せながら、決意を持って手を差し伸べた。
「APAは置いておいて、僕たち友達になろう!お互いのことをもっと知ろう!好きなこと、嫌いなこと、趣味や興味…!一緒に青春を過ごしたいんだ!それなら、ただそれだけで…、君の気持ちに対してはっきりと答えることができる。」
強い風がぴたりと止まり、大きな木の葉が落ちるのをやめ、夕日の深紅色の光も静かに消えた。僕の目に焼き付いたその光景は、もうなくなっていた。
「…わ、私、もう何をすればいいのか分からない… あなたが唯一、彼女を助けることができる人だよ。」
「え?」
突然、僕の息が止まった。なぜか、彼女のAPAの声が歪んでいるのに、それでも一言一言が震えているように感じた。まるで、彼女がその向こう側で崩れそうになっているかのようだった。
そして、その瞬間、APAが彼女の最後の言葉を再生した。
「今度の土曜日、学校の正門で午後12時ちょうど。そこで、私が本当の自分を見せるから。」
「ビープ」
その言葉が再生されると、彼女のAPAはすぐに接続を切り、背を向けて学校の本館の後ろへと消えていった。