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ペアワーク「パート2」

ふたりのあいだのしずかさはぜんたいでした。


わたしはかおをあげて、まえにあるたまきさんのAPAをみました。

かのじょはそれをむかしのコンピューターのように、つかわれていないときとおなじようにスリープモードにしていました。

これは、たまきさんがむこうがわでじぶんのしごとをしているあいだ、かのじょのAPAがこのモードにあることをいみしていました。


わたしはきょうしつをかるくみまわしました。


クラスメイトたちのほかのAPAも、わたしたちのせんせいのAPAも、スリープモードになっていました。


わたしはながいためいきをつきながら、「これがどうやってふたりでのしごととよべるのだろう?」とかんがえました。

きょうしつのだれも、おたがいのともだちとことばをかわそうとさえしなかった、たとえそのAPAたちがおたがいのまえにたっていても。


わたしは、たまきさんのAPAのかおにもういちどめをもどしました。


いままで、たまきさんにきいたときのことをおもいだすと、いつもかのじょからのこたえは「きょうみないよ」というきっぱりとしたことばでした。

…それでも、ためしてみてもなにかをうしなうわけではないでしょう?

このがっこうのせいとたちにもうなんかいもことわられてきたので、いちどことわられたところで、もうなんともおもわないはずです。


わたしはあたまをふり、すべてのうたがいをふきとばそうとしました。

そして、けっしんをかためて、たまきさんにこえをかけました。


「すみません、たまきさん。」


すうびょうご、すぐにAPAからききなれたおとがきこえてきました。


「ビープ」


スリープモードからさめて、たまきさんのAPAのめがわたしをみつめたとどうじに、またたまきさんのこえがきこえはじめました。


「どうしたの?なにかあったの?じぶんのしごとでなにかこまってるんじゃないでしょうね。」


「あっ!い、いえ、ぜんぜんそんなことないです!しごとにはぜんぜんかんけいなくて…」


「じゃあ、どうしてわたしをじゃましたの?しごとにかんけいないことをいってくるのは、やめてください。」


「も、もうしわけないです…ただ、その…ききたいことがあって…」


たまきさんのこたえかたからして、かのじょがまたわたしをことわることはかくじつでした。

それでも、おじけづかずにきくことにしました。


「きょうのほうかご、じかんがありますか…!?」


「…」

「…」

「…」


たまきさんはこたえることさえしませんでした。


そのちんもくは、いっしゅんで、いくびょうかんもふかいふあんなかんじがつづきました。


「た、たまきさん…?」


かのじょがなんのはんのうもしないので、わたしははなしをつづけることにしました。


「ただ、放課後に学校でふたりであって、おたがいのことをもっとよくしって、わたしたちがともだちになれるきっかけにしようと思っていたんだ。どう?ともだちになりたくない?もしかしたら、わたしたちに何かきょうつうのことがあるかもしれないし。」


そのとき、わたしはたまきさんにできるかぎり、いちばんしんせつでこころからのえがおをむけようとしました。それをみたかのじょは、ながいためいきをつきながらやっとこたえてくれました。


「ともだち…?それがあなたがわたしに話しかけたりゆうなの?それはただのじかんのむだだってこと、わたしにはわかってるから。しかも、わたしとあなたに、なにかはなしのテーマやきょうつうのものなんてあるとはおもわない。」


たまきさんがこういってきたにもかかわらず、わたしはしんだいにちゅうししないで、えがおをまるでくるってしまうくらいにひきつりながら、いっそうしつようにせいこうしました。


「そんなこといわないでよ…これがふたりにとって、あたらしいけいけんになるかもしれないっておもってみてよ。それに、ふたりでかんがえてるべきことをわすれて、しばらくは学校のことをわすれて、きもちをリフレッシュすることもできるよ!ぜったいにこうけんをして後悔しないから!だから…どうかな?」


「…さんじゅうにかい。」


「え?」


「あなたは今年度の間に、このような招待を32回もしてきましたよね。しかも、私はそのすべてを断ったことを覚えています…どうして今回は私が受け入れると思うのですか?」


すぐに、私の笑顔はさらに歪んでいきました。このやりとりの中で、今度は私が黙ってしまいました。


今、私は何ができるのでしょう?どうすればこの状況をうまく切り抜けられるのでしょうか?

ここまで来て、もう何も思いつかなくなってしまいました。


少しずつ、私は目を机の上に落としながら、必死に解決策を探していました。


…だめだ。


その時、ふと頭に浮かんだ考えがあり、まだもう一つできることがあると思いました。


私は再び目を上げ、拳をしっかりと握りしめ、真剣な表情をして、たまきさんに本当に思っていることを伝えました。


「たまきさん、私たちはもうすぐ二年間もクラスメートだけど、私が知っているあなたのことと言ったら、名前と苗字、それにクラスの代表であることだけだ。もしかしたら、あなたは私の名前や苗字だけでなく、もう少し私のことを知っているかもしれない。でも、それはおかしいと思う。」


自分の言葉が、私たちのすでに遠い関係をさらに悪化させることになるかもしれないと分かっていたけれど、私は一切遠慮せずに言いました。


「毎日8時間以上、同じ教室で一緒にいる二人が、どうしてこんなにもお互いのことを知らないなんておかしいと思わない?言葉を交わすことも、目を合わせることすらしないじゃないか。どうして私がどう感じているのか、考えたことがあるのか?私たちはクラスメートだよね?ただ、あなたの本当の姿を知りたいだけなんだ!」


それから、私の口から出たすべての言葉は、たまきさんの返事によって容赦なく打ち砕かれました。


「もうあなたにはうんざりだ。」


その言葉は、たまきさんのAPAから嫌悪感を込めて再生されました。それを聞いた瞬間、私の呼吸は数秒間凍りつきました。


そして、最悪なことがその後に来ました。


「いつになったらあなたはあきるの!?初日から、そしてこの数ヶ月、毎週同じことを繰り返してるじゃない!何回、私にそんなバカな招待をし続けるつもりなの!?私が興味ないって分からないの!?」


私の頬は痙攣しているように感じ、再びゆっくりと目を机に落としました。そして、顔に浮かべていた強制的な笑顔は完全に消えました。

これは初めて、クラスメートにこんなに怒鳴られた瞬間でした。数分前にあった私たちの間の沈黙が、私は心の中で戻ってきてほしいと思いました。


しかし、息を整えるために深く息を吐きながらも、たまきさんは止まる気配を見せませんでした。


「休み時間に校庭を歩いて話す?屋上に上がって一緒に昼食を食べる?放課後に一緒に遊びに行く?あげくには、APAを使うなって言ったこともあったよね!いったい、どこの国に住んでると思ってるの!?日本中の誰もあなたみたいに行動するわけないでしょ!どうして一度でも気づいて、普通の人間として振る舞おうとしないの!?」


玉木さんは黙って私を見つめて、私が言ったことに対する答えを待っていたが、私は何を返すべきかわからなかった。それに気づいた玉木さんは、続けた。


「それに、せっかくの機会だから、最近の2ヶ月間で起こったことについても伝えたいことがあるの。2-Eの代表として、あなたからの愚かな招待に関して、クラスメートだけでなく、学校全体の多くの生徒からメールでたくさんのクレームを受け取っている。」


「う、うーん…?」


「その通りよ。クレームの内容は『市川くんはしつこくて、うるさく感じる』から、『もう我慢できない、市川くんが本当にうっとうしい』っていうものまで。いくつか挙げただけでもこれだけよ。それは、学校中のみんながあなたに対してうんざりしているということを意味しているし、私も含まれている。だから、お願いだから他人の生活に干渉するのをやめて、自分自身のことを心配するようにしてほしい。」


そう言って、玉木さんはようやく話を終えた。


「わかってくれたかしら?それじゃあ、早く自分の部分を終わらせて。もうかなり時間を無駄にしてしまったから。」


「ビープ」


すぐに彼のAPAは待機モードに戻った。私はそこに座ったまま、視線を失いながら教室の静けさに溶け込んでいた。


「今日は間違いなく、学生としての私の人生が変わる日だ!」


突然、毎朝繰り返し言っていたあの言葉が頭をよぎった。それを何度も何度も繰り返して、ようやく私は結論に達した。


「今日が、学生としての私の人生が変わる日だとは思えない…」

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