ペアワーク「パート1」
サロンにいた全員の中で、ぼく、一川みのるだけが他のクラスメートと違っていた。
厳密に比べる必要もなく、ちょっと見ただけで誰でもそれがわかっただろう。
彼らの中で「本物の人間」として振る舞っているような人はいなかった。
全員が無表情な顔をしていて、目を一度も瞬きせずに開けたままだった。
体は机に座ったまま、少しも動かずに静止していた。
さらに、教室全体が完全な静寂に包まれているにもかかわらず、彼らの呼吸音すら聞こえなかった。
しかも、彼ら全員の肌は同じように青白く、目は黄色で、髪は銀色だった。
「ビープ」
もう一度まわりで繰り返されたその鋭い音が、今日の最初の授業の課題がクラスメート一人一人に送信されたことを知らせてくれた。
すぐに、ぼくは古いノートパソコンの画面を見た。メールを通じて、同じ指示がぼくにも送られてきたのだ。
時間を無駄にせずに、さっそく内容を読み始めたが、ぼくにとって最も重要な最後の一行にだけ集中した。
そこでぼくが読んだのはこうだった。
ペアでの作業。
ペアでの作業という概念は、この学校ではほとんど使われることがなかった。実際、この国で今でもそれを行っているのは、この学校だけだと言えるだろう。
最後にペアで作業をしたのは、もう一か月前のことだったのを覚えている。
なぜこの学校でこのような作業が続けられているのか、その理由はまだ知っていたけれど、ぼくにとってはクラスメートと何かしら言葉を交わす絶好の機会だった。
この瞬間も、思わず顔に大きな笑みを浮かべてしまった。
「一川くん。」
突然、背後からロボットのような女性の声で、ぼくの名前が呼ばれた。
振り返ると、声を聞いただけで誰の声かすぐにわかるとは思っていたが、習慣的に彼女の頭の上に目を向けた。
その場所には、透明な長方形のホログラムの中に浮かんだ文字で「田巻春香」という名前が形作られていたが、今ぼくに話しかけているのは「本物」の田巻春香ではなかった。
彼女の冷たい肌は、元のものに似ていたが、実際はゴムでできた人工のコピーに過ぎなかった。透けるようなガラスでできた目を通して、微細なレンズが私を一秒一秒捉えているのが見えた。そして、彼女の短い銀色の髪はウィッグのような役割を果たしていた。
前述の説明は、実際の田巻春香が所有しているAPAについて言及していたに過ぎない。このAPAが、彼女の言葉を一つ一つ再生する役目を担っていた。
現在、日本は技術革新のおかげで他国を凌駕しており、そのため、先進的なパーソナルアンドロイド、略してAPAの使用が普及している。
APAは、脳の皮質表面に埋め込まれたチップの信号と同期する無線信号を発信する。特別な透明なビジョンを通じて、人々は頭にあるチップの信号を活性化させ、その信号を接続したいAPAの信号と同期させることができる。この信号の同期が成功すれば、APAを遠隔で自由に操作することができる。
APAが社会に導入されてから数年が経ち、最も複雑で危険な作業から最も単純で日常的な作業まで、APAによって快適に行うことができるようになった。
これの一例として、仕事や学校に行く際が挙げられる。
サラリーマンの立場になった場合、彼らは自宅からAPAを使って、職場で与えられた仕事を何の問題もなくこなすことができる。APAは、掃除や接客業、事務作業、医療、さらには建設現場のような身体的な労働にも対応できる。
学生のような私たちも同様に、授業で与えられるさまざまな活動や学校に関連する作業をAPAを使って行うことができる。さらに、学校は各学生にAPAを無償で提供し、授業に参加するために使用できる。
APAは性別と年齢によって分類されている。子供、若者、大人の違いがわかるように、異なるサイズが用意されている。性別以外は全て同一で、肌は白、目は黄色、髪は銀色という色合いだ。
残念ながら、APAを持つことは、今やこの国の人々にとって呼吸と同じくらい重要なものとなっている。そのため、年々、日本では人々が家に閉じ込められ、お互いに“本物の”接触を避けて孤立している。
その一例として、私のクラスメートでありクラス代表でもある田巻さんを挙げれば良い。
おそらく田巻さんは自宅の部屋に座って、APAを通じて私を見ているのだろう。それが理由で、私は田巻さんの「本物」の姿を見たことがない。もうほぼ二年間、同じクラスにいながらだ。
他のクラスメート、学生、教師、そして学校のスタッフも同様だ。
日本やこの学校の現状では、おそらく私は田巻さんやクラスの誰かの「本物」の姿を見ることはないだろう。
「一川くん。」
「一川くん。」
「はっ!」
田巻さんが話しかけてきたことを忘れ、私はその声を再び聞いた瞬間、思考の世界から戻ってきた。
「私の話、聞いてるの?私たち二人はこの最初の授業で与えられた課題を一緒にやることになったの。机を持ってきて、あなたの隣に座るべき?」
「ごめん!あ、気にしないで!机をあなたの隣にくっつけるから…!」
二人で机をくっつけた後、仕事を分担し、作業を始めた。