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ただのミステリー小説好きが書いている、自分の好きを詰め込んだお話です。
頭を空っぽにして読んでください。
恥ずかしくなったらこっそり消すかも……
病院を出ると空が明るくなっていて、車で刑事さんに送ってもらった時には、すでに朝の6時を回っていた。
「僕、ちょっと寄るとこあるので、すみません。先シャワー浴びててください。40分ほどで戻ります。」
「わかりました。お腹すいたでしょう?軽い食事を用意しておきますね。」
「ありがとうございます。」
僕は歩いてゆうかとりのさんの家へ向かう。
先程、りのさんに、起きたら連絡してほしいとスマホでメッセージをおくったら、もう起きているとのことだった。
早起きでえらいなぁ。
ゆうかとりのさんの家までは、歩いて10分。結構近いところにある。
呼鈴を鳴らすと、すぐに出てくれた。
「なぎちゃん、怪我したの?珍しいね、顔色も悪いし。大丈夫?」
「りのさん。朝早くにすみません。今さっき任務が終わったところでして。血はさくに止めてもらったのですが、霊力がすっからかんで自分では治せなくて。」
りのさんはヒールが得意。
僕も軽い擦り傷や切り傷なんかは治せるけれど、ここまで大きな傷は治せない。基本的に応急処置しかできない。
でもりのさんは大体の怪我は治せる。
怪我だけじゃなく、すぐボロボロになる僕たちの制服は、すべてりのさんが治癒と浄化の応用で直してくれている。
「いいのよそんなこと。さあ、上がって。」
「すみません。おじゃまします。」
まだ誰も起きてこないから、と、リビングらしきところに案内される。
着ていたパーカーを脱ぐと、りのさんは目を丸くした。
「ま、どうしたのこの傷!?早くここに横になって。」
僕がくると聞いて床にひいてくれたのであろうお布団に横になる。
目をつぶると、体がポカポカと温かくなっていくのを感じる。同時に痛みも徐々にひいていく。
「なぎちゃんがこんなに傷作ってくるのめずらしいわね。」
「すみません。人質が多かったもので。」
「責めてるわけじゃないのよ。でも、あまり無茶しないでね。恋人のためにも。」
驚いて飛び起きると、両肩を押さえられた。
「ああこら、動かないで。」
すみません、と横になり直す。
「恋人って、」
「あら、探してるあずさちゃんって、恋人じゃないの?」
「姉です!」
わかってる。
りのさんは絶対にわかってて言っているのだ。
だってちゃんと説明したもん。
「まあ、そうだったの?じゃあ、今気になってる人とかいないの?」
「いませんよ、別に。」
思わず目をそらすと、クスクスとりのさんの笑い声が聞こえる。
「なぎちゃんかわいいから、恋愛ぐらいいつでもできるわよ。……さて、傷は治ったわよ。体の調子はどうかしら。」
起き上がってお腹の刺されたところの包帯を外して、触ってみる。
傷はきれいに治っている。
跡のひとつもない。
「いい感じです。本当にありがとうございます。今度お礼にお菓子もってきますね。」
「あらうれしい。じゃあそのお菓子を一緒に食べながら、恋バナの続きをしましょ。」
「よ、よろこんで……」
ここで断ったら、二度と傷を治してくれなくなるかもしれないので、断らないでおく。
服を着て玄関先に行くと、もう一度お礼を言って、家を出た。
「ただいま。」
「なぎさんおかえりなさい。早かったですね。まだご飯できてないので、お風呂入っちゃってください。シャワーだけで申し訳ないですけど。」
「ありがとうございます。」
玄関からそのままお風呂場に直行してシャワーを浴びる。さすがに疲れた……
頭を洗いながら、そういえばどうして行方不明者、しかも子どもだけがあの場所にいたのかと考える。
小鳥遊さんは行方不明者が集められたみたいなことを言っていたけど。
霊が子どもを誘拐して、あそこに閉じ込めたってこと?
じゃあ、鍵は?
霊だからドアをすり抜けられるかもしれないけど。
それは自分だけで、誘拐してきた子どもはすり抜けられないと思うんだけど、そんなことはないのかもしれない。
もしかして、霊が自分で思考し、工夫し、他の霊と協力して行動している……?
もしくは、そこまでレベルの高い霊が現れ統治し始めた、もしくは霊の全体レベルが上がっている、とか…?
お風呂から上がってタオルで拭きつつ、考えすぎだよな、と思い直す。
脱衣場から出ると、ふわりとスープのいい匂いがした。
「ちょうどできましたよ。いつでもどうぞ。」
「ありがとうございます!おいしそう!」
席に座って早速スープをひとくち。
「ん〜おいしい……」
あったかいスープが体に染みる……
意外とお腹がすいていたらしく、パンと一緒に一気に押し込む。
「ごちそうさまでした。学校に休みの連絡入れて、ちょっと寝ようと思ってます。」
「お粗末さまでした。了解です。ゆっくり休んでください。」
なぎさ、起きて、なぎさ。
またこの夢。
だから僕はなぎだっての。
なぎさ、私、待ってるから。
声が遠のいていく。それと同時に僕はゆっくり目を開けた。
「ん、何時……?」
ベッドにたどり着いた瞬間、僕は倒れ込むようにして眠りについた。
眠りから覚めると、上手く回らない頭でスマホを探す。時刻はもう16時になるところだった。確か8時30分とかに寝たから、かなり寝てたみたい。
ベッドから起きて寝室を出ると、いろはさんはリビングのテーブルで書類整理をしているようだった。
邪魔をしないようにそっとキッチンへ行くと、2人分のコーヒーを入れる。
「いろはさん、おはようございます。」
いろはさんの前にコーヒーを置いて、向かいの席に座る。
「おはよう。体はもう大丈夫?顔色はだいぶ良くなったみたいだけど。」
「大丈夫です。ちょっと血流しすぎて貧血気味だったみたいで。ずいぶん寝坊しちゃいました。」
へらっと笑いながらコーヒーを飲む。
「もっと寝ててもよかったんですよ。コーヒーありがとう。いただきます。」
「どうぞ。あ、お砂糖ちょこっとだけ入れちゃいました。」
いろはさんもコーヒーに口をつける。
いろはさんは微糖かブラックが好きで、今日みたいな疲れた日や思考が行き詰ったときなんかには微糖をよく飲んでいる。
なので、今日も角砂糖をひとつ落とした。
おいしい、と微笑んでくれてほっとする。
「いろはさん、ちょっと聞きたいことがあるんですけど。」
僕は、昨日お風呂で考えていた事をいろはさんに話してみた。
どうして行方不明者、しかも子どもだけがあの場所にいたのか。
「これは小鳥遊さんの考えですが。神隠しの要領で、遊びにきた子ども達が、霊に連れ去られたのではないかと。私も調べて見たところ、先週、子ども会のイベントであの廃病院の近くで肝試しを行ったらしいです。」
「なるほど……遊びで近づいて呪われたり、憑かれたりした例はよくありますからね。」
そういうことかとうなずく。
「もうひとつ、私の意見としては、あの廃病院って、元は産婦人科でしたよね?そしてあそこにいたのは皆妊婦さんの霊でした。ですから、子どもを亡くしてしまった方や死産だった方が、成仏出来ずにいるのではないかと。」
こういうのって、地縛霊って言うんでしたっけ?と首を傾げる。
「なるほど、実は戦ってる時に、霊が何かを探しているような動作をしてまして。それなら納得がいきますね。」
あれは、我が子を探していたのだ。
死産で母子共に亡くなってしまう方もいると聞く。
納得して何度も頷いていたら、そういえば、といろはさんが切り出した。
「なぎさん、お話があるんでした。」
先程よりワントーン低いいろはさんの声に、僕はギクッとして、素早くテーブルから離れた。
しかしそれより早く腕を掴まれてしまった。
「逃がしませんよ。帰ったらお説教と言いましたよね。」
「さて、なぎさん。まずはブルームーンのことですが。」
「はい。」
結局捕まってしまった僕は、とりあえず座り直して背すじを伸ばし、じっといろはさんを見つめた。
「別に怒ってはいません。やめろとも言いません。小鳥遊さんが8割悪いので。くわしいことは後で小鳥遊さんに聞きます。しかし、お説教があるのはなぎさんのその考え方のことです。」
「考え方。」
「はい。その自分より他人を優先するという考え方。直せとは言いません。それ自体は長所でもあります。しかし、自分を身の危険に晒してまで他人を優先するのはいただけません。」
「はい。ごめんなさい。気をつけます。」
「本当に、怖かったんです。心臓が止まるかと思った。私のせいでなぎさんが、って。……生きててよかった。」
いろはさんは顔を手で覆い、大きなため息をつく。
そうか、いろはさんの中では、自分をかばって僕が刺された、ってことになっちゃってるのか。
いや間違ってはないけど。
「いろはさん、全然いろはさんのせいじゃないんですよ。僕がわざと、」
「わざとだとしたら余計悪いです!どうして自分から命を投げ捨てるようなことを、!」
僕からしたらわざと刺されて霊をおびき寄せる、そしていろはさんも子どもも守れて一石二鳥っていうだけの話なんだけど。
そういうことじゃないんだよね。
「ごめんなさい。いろはさん。本当に。でもほら、見てください。」
僕は椅子を引いて立ち上がると、ガバッと服をめくり、お腹を見せた。
もう傷も痕も残っていない。
「……すごい。きれいになってる。」
「だから大丈夫ってわけじゃないのはわかってますけど、ちゃんと僕なりの絶対大丈夫っていう確信があってやった事なので。でも、いろはさんにもちゃんと大丈夫ってことを説明するべきでした。そこは、反省してます。」
服を直して、椅子に座る。
「そう、ですか。……助けていただいたのにあんまり怒るのもおかしいね。よし。今日はなぎさんの好きな料理を作ろうか。何がいい?」
「やった!じゃあ、オムライスがいいです!たまごふわふわのやつ!!」
「いいよ。たまごふわふわのやつね。じゃ、買い物行こうかな。」
「あ、僕も自分の制服洗っちゃわないと……」
傷だらけの血だらけなので、捨てちゃってもいいのだけど、洗濯だけすれば、りのさんが直してくれるから。
「俺やっておきますよ?」
「さすがに血だらけの服を洗わせられないですよ。」
コーヒーの残りを飲み干して立ち上がる。
そういえば、あのことはいろはさんに言うべきだろうか。
……まだいいか。