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ただのミステリー小説好きが書いている、自分の好きを詰め込んだお話です。
頭を空っぽにして読んでください。
恥ずかしくなったらこっそり消すかも……
だいたいの治療が終わって休憩していると、電話が鳴った。
いろはさんからだ。
「はい、どうかしましたか?」
小声で、なぎさん、と言う声を聞いた瞬間、ただ事ではない気配を感じ、ナイフと銃を持って走り出した。
「刃物を持った何かに追われています。……今は物陰に隠れていますが、助けに来ていただくことはできますか……?」
「今、ダッシュで向かっています!絶対に、そこを動かないでください!!」
くっそ、読み逃した!!
なんで、こういう時だけ読みのがすかな!?
アンテナは常に張ってた。なのに、なんで……
やっぱり最近本当におかしいかも。
後でちょっと調べないと。
エントランスに着き、銃を構えて物音を立てないように外へ出る。
すると、いろはさんが何者かに包丁を突きつけられているのが見えた。
幽霊じゃない、僕と同じくらいの、
そこまで気づいた瞬間、いろはさんの前に飛び出した。
ドン、とお腹に衝撃が走る。
「なぎさん!!」
「え、あ、おれ、」
真っ青な顔をした、中学生くらいの男の子をそのままぎゅっと抱きしめる。震える手でよしよしと頭を撫でながら、大丈夫だよ、と言い続けると、その子は大声で泣き出した。
「大丈夫。怖くないよ。僕は、僕達は味方だからね。」
ごめんなさいと繰り返す声を聞きながら、記憶処理を施していく。
眠ったのがわかると、そっと肩を抱える。
「いろはさん。この子任せていいですか?近くに霊がいるみたいです。それにもうすぐ救急車もきますから。他の子達も頼みました。」
「でも、」
「僕は大丈夫です。」
男の子をいろはさんに預けると、お腹に刺さっている包丁を思いっきり引き抜く。
「う、ぐ……っ!〜〜っ!!」
痛みを誤魔化すために叫んだ声は、声にならなかった。
「なぎさん!」
「……っ、し、にや、しません。」
傷口から血がドバっと出る感覚がする。
痛いと言うより、燃えるように熱い。
「血が、」
「大丈夫ですよ。」
もう霊力も何もかもすっからかんなので、応急処置程度にヒールをかけて血を止める。
「なぎさん、お願いだから救急車で一緒に病院にきてください。その怪我じゃ、」
「この格好で救急車なんて乗ったら、病院より先に警察です。僕は、行けません。」
僕は殺し屋ブルームーン。
今はピアスや制服、銃もナイフも持ってる。
一瞬で正体がバレておしまいだ。
霊力で服を変えることはできるけれど、もうそんな霊力は残ってない。
「お願いします。いろはさん。あの子達を救ってあげてください。」
頭を下げると、いろはさんは強くうなずき、男の子を抱き抱えて病院の中へ走っていった。
さて。もうひと仕事しますか。
その前に、セトへ電話をかける。
……出ないんだけど。
仕方ないのでクロにかけると、秒で出た。
「なぎ、おつかれ。どうした?」
「クロごめん。僕今から無理するから、回収しにきてくれない?」
「は、ちょっとどういうこと?なぎ、」
プツリと電話を切った瞬間、背後から妊婦さんの霊が、3体姿を現した。しかもでっかい。2mくらいあるんじゃないの?
長い黒髪に、大きく開かれた目がおそろしい。
きっとこいつらがさっきの男の子に取り憑いて操作していたのだろう。
攻撃をかわしつつ、まずは1体、頭を狙って撃つ。
サラサラと粉になるように消えていくのを確認しつつ、もう1体を狙いにいく。
腕がびよーって伸びて、こちらを捕らえようとしてくる。
「シールド!」
シールドで腕を弾く。腕の先、本来手にあたる部分に
太い針が付いていて、ガキンと鳴る。
危な、毒針か。針の先端から液体が垂れている。
銃を撃つ反動が腕に伝わるたび、力が抜けていくような気がする。
「はっ、は……っもう、うるさいっ。」
悲鳴にも聞こえる声で叫ばれて、耳が痛い。
血を流しすぎたこの体は、さすがに2体同時に来られるときつい。
息をするのもつらくて、自分の周りの酸素だけ薄くなってるんじゃないかという気さえしてくる。
不意打ちを狙って1体の両足を吹き飛ばす。
今だ。
ずしゃ、と崩れ落ちたその首に、弾を打ち込む。
サラサラと消えていく霊を見つつ、視界の端でもう1体を捕らえる。
躊躇わず突進してきたので、銃で攻撃を弾きつつ距離をとる。
この1体はさっきの2体よりちょっと手強い。
というか、時折何かを探しているような仕草を見せるのが気になる。何かあるのだろうか。
もう体力も限界なので早く終わらせたい。
すると小さな針が降ってきて、慌てて避ける。
「あは、ここにきて広範囲攻撃きっつ!」
いろはさんにせっかく手当てしてもらった足に、傷が増えてまた血がにじむ。
銃を構える。弾がない……
あと5発。
カチャ、とリロードし終わった時に、ちょうどあちらから突っ込んできてくれたので、伸びてきた手を掴んで、胸に銃口を押し付け3発弾を打ち込んだ。
最高の力を振り絞るかのように腕を伸ばして背中に突き刺そうとしてきたので、残りの弾2発で弾き飛ばす。
霊は消えていく。
キョロキョロと辺りを見回して他に気配がないことを確認すると、ドサッと倒れ込むように横になった。
気を緩めた瞬間、一気に疲労と体中に激痛が押し寄せる。
「つかれた……」
ここで寝てたら、他に霊がいたとしても、おびき寄せられて来るでしょ……
それまで、休憩。
そんなことを考えつつ、僕は意識を飛ばした。
「……む、えむってば。M。」
どこからか声が聞こえて、目を開ける。
「クロうるさい……」
「死んでんのかと思った。驚かせんなよ。」
どうやらヒールをかけてくれているらしい。
血は止まっていて、少しだけ痛みがひいた気もする。
「もう動けるからいいよ、ありがとう。」
「よくないでしょ。そんなことより、何この傷。」
クロはお腹の深い傷を指さして怪訝そうな顔をする。
僕は行方不明者が見つかったこと、霊に取り憑かれていた子に刺されたことを話した。
「Mが刺されるわけなくない?……かばったの?」
「まぁ、うん。……血が止まってれば大丈夫だから、もういいよ。そうだ、浄化しなくちゃ……」
霊が消えたあとは、また霊が留まらないように必ず周辺の浄化をするのが決まりだ。
「ここは俺がしといたから。建物の中は?」
「ハナがしてくれたと思う。」
いてててと言いながら立ち上がる。
クロは肩と背中を支えて補助してくれた。
「もうお前帰って休めよ。フラフラじゃんか。」
「でも、着替えて病院行かないと。いろはさんだけで言い訳するのは厳しいでしょ。」
「そうだけど。顔色悪いぞ。俺も着いてこうか?」
「大丈夫。……だけど、家と病院まで送ってほしい。」
「はいはい。じゃ、行くよ。」
クロは能力を使ってテレポートができる。
簡単に言えば、瞬間移動。
自分と自分に触れている対象を、自分が知っているところならどこでも移動することができる。
使用する霊力は距離によって変化する。
一瞬で家まで送ってもらうと、濡らしたタオルで軽く血を拭いて、傷口に包帯をまく。
パーカーに着替え、テーブルでお茶を飲んでいるクロに声をかける。
「よし。おまたせ。」
「行くよ。」
クロにつかまってぎゅっと目を閉じる。
次に開けた時にはもう病院の目の前だった。
「じゃ、俺疲れたから帰るわ。」
「うん。ありがとう。おやすみ。」
クロが消えると、すぐにいろはさんに電話をかける。
「あ、もしもし、いろはさん?」
ワンコールで出たので少しびっくりした。
「なぎさん!?無事ですか!?怪我は、」
「大丈夫ですよ。それより今、病院の前にいます。事情聴取の時に僕がいた方がいいかと思いまして。迎えに来ていただいてもいいですか?」
すぐ行きます、と言われたので入り口で待っていると、本当にすぐに走って来てくれた。
「なぎさん!無事でよかったです。」
ぎゅっと強く抱きしめられる。
「いたたたた。血止めただけなんで、まだ痛いんですよ。ちょっと加減してください。」
「ご、ごめんなさい。でも、うれしくて。ところで、どうやってきたんですか?」
「あ、仲間にテレポートができるのがいるので。送ってもらいました。そんなことより、まだ警察はきてませんか?」
「はい。まだのようです。あ、子どもたちは軽い怪我だけで、特に命に関わるようなことはないそうです。みんなぐっすり眠っています。」
よかった、と胸を撫で下ろす。
歩きながら、なんでフードを被っているのかと聞かれた。
「ピアスを隠すためです。このピアス、メンバーだっていう証明のためにもありますけど、実はGPSが埋め込まれてまして。」
いろはさんは少し驚いたようだったけど、なるほどと頷いた。
「なぎさん、顔色すごく悪いですけど、本当に大丈夫ですか?」
怪我して血がいっぱい流れちゃったから、顔色が悪いのはしょうがない。
大丈夫ですよ、と伝えてもいろはさんはまだ心配そうな顔をしていた。
エントランスのソファーに座っているようにいろはさんに言うと、少し離れたところで電話をかける。
「もしもし?……ああ、もう近くに来てるんですね。わかりました。お待ちしております。」
通話を切り、いろはさんの隣に座る。
「もう近くまできてるそうです。」
「なぎさん、刑事さんとお知り合いなんですか?」
「はい。でもいろはさんも刑事さんのお知り合いいっぱいいるでしょう?それにいろはさんも知ってる人ですよ。」
「まぁ仕事上関わりはありますけど。高校生で刑事さんと知り合いなんて子なかなかいませんよ。」
たしかに、と2人で笑っていると、ドアが空いてスーツの人が数人入ってきた。
そのうちのひとりが僕に向かって、よお、と手をあげる。
そのまま歩きながら談話室に移動する。
「小鳥遊さん。おひさしぶりです。」
小鳥遊あんり。刑事さん。よくわかんないけど、結構偉い人らしい。
肩までつく長い紫色の髪をひとつにまとめている。
髪と同じ紫色の瞳の下には、もう一生取れないであろう濃いクマがある。
コードネームはラムリリスらしいんだけど、長いからみんなラムさんって呼んでる。
「ひさしぶり。お、今日は探偵もいるんだね。」
「げ、小鳥遊さん。」
小鳥遊さんといろはさんは昔から仲良しらしい。
ちなみに小さい頃僕を拾ってくれたのが小鳥遊さん。
「いやぁまさか春原がいるとは思わなかったな。」
小鳥遊さんは他の刑事さん達に指示をだすと、談話室に3人だけになった。
僕はフードをとると、簡単に小鳥遊さんに説明を始めた。
主に行方不明者のこと。
「で、どうして春原がいるわけ?俺はブルームーンにしか依頼していないはずだけど。」
「仕事だよ。私も依頼されて。……待て、どうしてブルームーンのことを、てか、依頼って?」
「小鳥遊さんはブルームーンの創設者なんですよ。」
「そーそー。ブルームーンつくった後警察に入って、ブルームーンに任務流してるってわけ。」
小鳥遊さんが警察には解決できない、霊や怪異仕業だと判断した事件が、ブルームーンに回ってくる仕組みになっている。
「で、春原に依頼したのって、誰?」
「顧客情報は漏らせません。探偵には守秘義務があります。」
「あ、でも、いろはさんと一緒にきてた4人の中で、警察の人が2、3人いたよ。」
「そいつらだな。勝手なことしやがって。しかし行方不明者が出てるなんてどうやって知ったんだ?俺のとこには入ってこなかった……」
「もうバレたから言うけど、別とこで行方不明になった人達があの場所に集まってるって説は?私が聞いた行方不明者はひとりだけだよ。あんなに大勢いるなんて想定してなかった。」
「なるほど。その説はありそうだ。まあこの後のことは警察に任せなさい。被害者を調べればすぐわかる事だ。君たちはもう帰りな。お疲れ様。セトにも私から言っておく。送迎の車出すから。前で待たせてある。」
顔色悪いよ、と頭を撫でられる。
「ありがとう。おやすみなさい。」