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ただのミステリー小説好きが書いている、自分の好きを詰め込んだお話です。
頭を空っぽにして読んでください。
恥ずかしくなったらこっそり消すかも……
あずさ、行かないで。
ごめんね。なぎさ。私、待ってるから。
いつか必ず、迎えに来て。
「なぎさん、どこ行くんですか?」
夜中にこっそり出ていこうとしたら、急にパチッと電気がついた。
思わずビクッと体が跳ねる。
油断してた……
そろそろと後ろを振り向くと、いろはさんが立っていた。
春原いろは。お仕事は探偵さん。
カフェオレのような茶色の髪と、黄色の瞳を細めた優しく甘い笑顔が、無意識に人をたらしこんでいる。ちなみにいろはさんが入れるカフェオレはめっちゃ美味しい。
僕はこの春から高校に近いからという理由で、いろはさんのお家にお世話になっていた。
「ご、ごめんなさい。起こしちゃいましたか?」
「それはいいですけど、……で、どこ行くんですか?」
「あ、いやえっと……ちょっとそこまで……」
「ああ……また秘密の任務ってやつですか?」
やっぱりいろはさんには隠し事はできない。
「そ、そうです。すぐ片付けてきます。」
「了解です。お風呂……は、いいんですよね?じゃあいってらっしゃい。」
「うん。あっちで入ってきます。いってきます。」
僕の今日のお仕事は殺し屋ブルームーン。
でも僕は人殺しはしない。銃は使うけど、当たったら死ぬほど痛いだけのゴム弾を使っている。
「M。こっち。」
「……さく。」
一之瀬さく。
僕のチームメイトで中学からの友達。
目にかかりそうなほどの黒髪に、右頬の泣きぼくろが印象的な男子高校生。
「名前で呼ばないでってば。仕事。」
「ああごめん。クロ。早いね。」
僕のコードネームは、メル。略してM。
Mの方が呼ばれることが多いかな?
さくのコードネームは、クロ。
ちなみに、目も髪も、服装も黒が多いから、コードネームもクロらしい。
本名がバレると色々めんどくさいので、ブルームーンメンバーは一応全員コードネームを持っている。
「他の人は?」
「今日は俺らだけ。あ、でも、セト先輩が後からくるかな。」
コードネームはセト、本名は氷室アリス。
金髪に青い瞳と、いかにもハーフっぽい見た目が女子に大人気で、常に学校ではモテまくっている男子高校生。
絶対セトよりアリスの方がコードネームっぽいし、かっこいいと思うのだが。
まぁみんなのコードネームは、自分で考えているわけじゃないからしょうがないけれど。
「あね。じゃあ行きますか。」
我らはブルームーン。
殺しはしない殺し屋集団。本業は幽霊退治。
「今日もすんなり終わったな。」
「そうだね。じゃ、帰るか。あ、セト。」
帰ろうと後ろを向いたら、セトが歩いてきた。
「なんだ?もう終わったのか?」
「圧勝。」
指でブイを作ってにかっと笑う。
「まさかお前……ブルームーンのMか!?って言われたから、そだよーって返したら逃げてった。」
「軽いな。」
「俺なんもしてないんだけど。他に任務ないの?」
「霊退治ならいっぱいあるが。行くか?」
「行くー!」
幽霊退治。世の中ではおばけと呼ばれるもの。人に害をなすおばけを倒すお仕事。霊を祓う、が近いかもしれない。
ブルームーンは霊感を持つ人が集まる不思議集団。
殺し屋なんかじゃない。
誤解されて狙われてるだけ。
「んじゃ、今夜も祓いに行きますか〜」
「セト依頼資料ないの?」
「とりあえず今はこれしか持ってない。」
「十分だろ。すぐそこじゃん。走るよ。」
ダッとさくが走り出す。
「あ、ちょっとまってよクロ!足早すぎ〜」
慌てて追いかけようと走り出す。
セトは後ろでため息をつきながら、歩いて僕たちのあとをついてくる。
走って追いかける気はないみたいだ。
「……っと、いるね。」
現場に着いた途端、どこからかネズミの霊の大群が集まってきた。
「きもっ!数多いパターンじゃん!やっぱり散弾銃持ってくればよかったかな……」
「今さらだろ。いくぞ。」
クロはそう言って腰にしまっていた刀を抜いた。
セトは武器は滅多に使わない。が、足技が得意。
この前セトのシュークリームを食べちゃってみぞおちに蹴りをくらった時は、まじでシュークリーム全部出るかと思った。
僕も上着の内ポケットから銃を取り出して構えつつ少し後ろに下がる。
「きもいの無理〜僕、遠くから銃で援護してる。」
「おーけー。俺らにあてるなよ。」
「まっかせろ!」
とりあえず連弾して近くの奴らを一掃する。
チラッとクロの方を向いてみると、後ろから迫ってきてるのに気づいてない。
「クロ〜しゃがんで〜」
まずは1発。反撃をかわして2発目。
「やっべ弾切れそう。」
リロードしつつ呟くと、近くにいたセトがため息をついた。
「なんでもっと持って来なかった?お前視えてて持って来なかっただろ。」
「だって重かったんだもん……ナイフもってない?」
「はいはい。……ほら。」
投げられたナイフを受け取ってそのまま一撃。
後ろ手にもう一撃。
「ノールックかよ。さすがだな。」
「伊達に未来視てませんからね。」
ブルームーンのメンバーはそれぞれ得意な能力を持っていて、例えばクロはテレポート、セトはシールドが得意。かく言う僕は未来視ができる。
過去視もできるけど、未来視の方が得意で、……まぁそれはおいおい説明するとして。
「今のでラスト?」
「ああ。そうだな。……俺はここ浄化してから行くけど。お前らもう1件いくか?」
「えーもう寝たいんだけど……僕明日学校なんだよね」
「学校とかえらすぎ。」
さくは刀を鞘に収めて、ポケットに手を突っ込んだ。
「クロはもうちょい真面目に行きなよね。先生呆れてたよ。」
「だる。しょうがないな……明日は俺も行くか……」
「じゃあ浄化も終わったし解散でいい?」
「ああ。お疲れ。……あ、そういえば。基地のシャワー壊れたから。」
「……え。」
きゅ、と蛇口を捻る。
水は出るが、しばらく流していても一向に暖かくならない。
「お湯でない……」
「だから言っただろ。諦めて家の風呂入れ。」
「そうするか……じゃあ、また明日学校で。」
「ああ、また。」
「またね、クロ、セト。」
今日は返り血とか浴びてないし、大丈夫かな?
基地を出て、帰り道を歩きながら言い訳を考える。
バレなきゃいいんだ。バレなきゃ。
見つかる前にすぐお風呂に行こう。
そんなことを考えていると、お家についてしまった。
そーっと玄関を開ける。忍び足でお風呂に向かい、ドアを閉めると、ほっと一息ついた。
よかった。いろはさんは気づいていないみたい。
サッとシャワーを浴びて、パジャマに着替える。
洗濯機のスイッチを入れてから時計を見ると、4時20分。
まだもう少し寝れる。
寝室に行くと、すぐにおふとんに潜り込む。
目を閉じるけれど、なかなか寝付けなくて。
僕は何度もふとんの中で寝返りをうちながら朝を迎えた。
「さく、おはようえらいね。」
「おはよ。ねぇみて氷室先輩が女子に告られてる。」
「まじじゃん!!いじりに行こ!!!」
とりあえず物陰に隠れて様子を伺う。
女の子が泣きながら去っていったところで、2人してアリスの元へ向かう。
「あ〜アリスちゃん、女の子泣かせちゃいけないんだ〜」
「うるさい。ちゃん付けやめろ。……メル、クロ、今夜いけるか?」
アリスが急に声をひそめる。
コードネームってことは、任務だな。
「俺はいいけど。Mは?」
「大丈夫。」
「了解。あ、ハナとノアも呼んでくれ。じゃあ、今夜2時、月が青く染まる頃に。」
アリスが歩いていくと同時にチャイムが鳴る。
「俺ノアに言ってくから。ハナ先輩に伝えて。」
「わかった。」
小声での会話を終え、通常の声に戻しつつさくと教室に向かう。
ちなみにセトとハナは3年、クロと僕は2年、ノアが1年。ブルームーンのメンバーはもうひとり大学生のノアの姉がいる。
3年生の教室をちょっと覗いてみる。
えーっとちはやはこのクラスだったと思うんだけど。
「ねぇ君、2年の水羽くんだよね?3年の教室に何か用事?」
キョロキョロしている僕を見かねてか、3人組の女子の先輩が声をかけてくれた。
「ちは……音瀬先輩いますか?」
「待ってね。呼んであげる。」
先輩が、ちはやーと教室の中に声をかけると、数人の視線がこちらを向く。
その中で、こっち、と手をあげている、僕と背が同じくらいで、肩で青い髪をそろえている女の子。
音瀬ちはや。コードネームはハナ。
「あっ、ちはや。アリスから伝言なんだけど。」
そう言いながらちはやの席に近づく。
「氷室から?なに?」
「今夜2時、月が青く染まる頃に。」
「……了解。」
要件だけ伝えると、じっと見ている隣のちはやのお友達にもぺこっと会釈して席を離れた。
「え、ちょっとちはや。今の会話なに?」
「ああ、今日みんなで天体観測に行こうって話。」
背中からそんな話し声が聞こえてくる。
『月が青く染まる頃に。』
それは、僕らの集合の合図。