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迎撃海域  作者: 伊藤 薫
第4部:迎撃
30/35

[3]

―SS-515「ひりゅう」―

《水中に魚雷あり!》ソナーが報告する。《また65です。方位345、距離3600》

「魚雷の針路は?」沖田は言った。

《060です》

 山中が口を挟む。

「見当違いの方向ですね」

《水中に2発目の魚雷あり!これもタイプ65です・・・針路は090》

「展開したんでしょうか?通常弾頭を使って、パッシヴ・ソナーでサーチしながら散開させて私たちを見つけるつもりでしょう」

「そうだろうな」沖田はうなづいた。「私なら、3000でアクティヴにする」

《水中に3発目の魚雷あり!針路は120》

「電話連絡員」沖田は命じた。「全乗組員に告げろ。繰り返して言うんだ。魚雷がこっちに向かっている。超無音準備、爆雷衝撃準備!」


―「長征14」―

「爆発までの時間は?」陸が尋ねた。

「あと1分です」楊は答えた。

「ソナー、敵艦の気配はあったか?」

《発令所、ソナー。敵は感知できません》

 楊は戦術状況モニタを確認した。水上部隊は1隻残らず、これまで爆発があった海域から避難している。陸艦長の通信が、厳密に言葉通りの意味で使われることを知っている人間が上級司令部にいるのだろう。

「副長、ソナーが使えなくなる前に敵のコンタクトを注意して探すように」

「了解しました、艦長」

 楊はソナーに陸の命令を伝えた。

「待っている間に、1番から3番発射管に魚雷装填。発射準備を整えよ」


―SS-515「ひりゅう」―

《3本目の魚雷が接近しています》ソナーが報告する。《左舷そばを通過します》

「魚雷の状態は?」沖田が聞いた。

《パッシヴ・ソナーでサーチしています。直線航走です》

「アクティヴになるのは、この艦を通り過ぎた後かもしれません」山中が言った。

《いま、魚雷は最接近点を通過》ソナーが知らせた。《距離820》

 恐ろしい衝撃が「ひりゅう」を襲った。腹に響くような低音がごうと鳴った。

 さっきよりもっと距離が近い。

 2度目の爆音が響いた。本条は顎をガタガタと鳴らした。舌に銅の味が広がった。虫歯治療でかぶせ物をした歯のそばで、歯茎を食い破ったらしい。何度か艦体に衝撃が加わり、「ひりゅう」は右に10度傾いている。

《1本目と2本目の魚雷が爆発しました!》

 ソナーがそう叫んだ時、再び爆発が襲った。「ひりゅう」は横殴りされ、砂地の上をずるずると引きずられた。衝撃が容赦なく何度も激しくぶつかり、艦体はさらに傾いた。

《3本目の魚雷が爆発!本艦からの距離は6400》

 本条は頭を横に振った。思考をはっきりさせようとする。艦長や発令所にいる他の乗組員たちも似たようなことをしていた。自分たちがまだ生きていることに驚いているかのようだった。眼を見開いて互いを見つめている。

 全艦で損害報告を行った。艦体側面に装備されているハイドロフォン・アレイに異常が見られただけだった。轟音が小さくなり、振動が次第に収束する。

「操舵」沖田が言った。「針路100、前進3分の2、速力12ノット」

「針路100、前進3分の2、速力12ノット」志満が答える


―「長征14」―

「全ての魚雷が爆発しました」楊が報告した。

 わざわざ声に出して言う必要は無かったかもしれない。耳の痛みはまだ治らない。

「ソナー、『そうりゅう』の形跡はあったか?」陸が尋ねた。

《ありません。今は雑音が晴れるまで、ソナーが使用不能です》

「分かった。操舵、方位120。深さ1200に下げ、海底に沿って行く」

「方位120」操舵員が答える。「深さ1200に下げ、海底に沿って行きます」

「ここから南へ移動し、『そうりゅう』の捜索を行う」陸が命じた。「最後の魚雷が爆発した地点に達したら、艦首の高周波ソナーをアクティヴにする」

「爆発で海底の砂やら泥が巻き上がってるはずです」楊は言った。「ソナーによる捜索は時間を置かないと厳しいかと」

「音響環境は悪くても構わん。奴の残骸はすぐに見つかるはずだ」

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