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迎撃海域  作者: 伊藤 薫
第4部:迎撃
28/35

[1]

―「長征14」―

《1番から発射した魚雷が目標上で爆発しました》ソナーが報告した。《深度730、『おやしお』に激突》

 遠くから雷鳴のような音が響き渡る。艦体にあたる振動がずっと続いた。

「やっとだな」陸は言った。「あれでは誰も生きて切り抜けられまい」

「そうですね」

 楊が答えた瞬間、海面で反射した衝撃が戻ってくる。陸は戦術表示モニタをちらりと見た。楊が進言する。

「艦長、キロ級や付近の水上艦艇に危険が及ぶ恐れがあります。2番から発射した魚雷を爆破したほうがよろしいかと」

「認める。2番の魚雷を自爆させろ」

 楊は発射管室に陸の命令を伝えた。しばらくして、有線で送られる指令が「爆破」と表示され、その他のデータが停止した。さまざまな音と衝撃が艦体を揺さぶる。その後、バッフルズによる雑音や海面で反射したエコーがさらに届いた。


―SS-515「ひりゅう」―

《発令所、ソナー》相原が言った。《こちらに向かっていた2本目の魚雷が爆発しました》

「海中が荒れてるので、有線が切れる前に自爆させたんでしょう」山中は言った。

 沖田はうなづいた。

「本艦の艦首ソナーの調子はどうだ?」

《使い物になりません。航走による雑音が入ってきています》

「操舵、前進3分の2、15ノットに減速」

「前進3分の2、速力15ノット」志満が答える。

《発令所、ソナー。本艦の深度が、まもなく1000を超えます》

 今度は西野が報告する。本条は耳を澄ませながら天井を見る。ゴム製の吸音タイルに覆われた「ひりゅう」の艦体はかすかな軋みも上げていない。

「少し方位を変えて、M18から離れよう」沖田は言った。「こちらが浸水して沈没しているかのように思わせたい」

 山中がうなづいた。

「では、さらに深部へ向かいましょう。タイプ65の射程距離から離れるんです」


―「長征14」―

《発令所、ソナー。一過性の機械音を捉えました。これまでの目標と同一です!》

「そんな!」

 楊が驚きの声を上げる。

《ソナーのアルゴリズムは目標が破壊されていないことを示しています!断続的に艦体のコンタクトあり!》

 陸はインターコムを取った。

「目標の深度は?」

《現在の深度は1000を超えてます。パッシヴ・ソナーのコンタクトは消えました。針路は不明。隔壁破壊や内破音はありません》

「たしかか?」

《間違いありません》

「敵は『そうりゅう』型だ。間違いない」陸は息を呑んだ。「1番と2番にタイプ65を装填。いつでも撃てるようにしておけ」


―SS-515「ひりゅう」―

「ソナー、現在の深度は?」沖田が言った。

《現在、深さ1150・・・あっ、待ってください》

 発令所に、さっと緊張が走る。

《方位284で、M18からパッシヴ・ソナーのコンタクトが断続してあります。最後の魚雷が爆発して、そのエコーが敵艦のセールと艦首の丸みに反射してきました》

「距離は?」

《はるか後方にいるようです。海面の反響が届く距離でもありません。ソナーの信号強度による推定ですが、M18の距離はざっと4500です》

「M18の型式を判別できるか?」

《周辺特性だけでは、判別できません》

「わかった。引き続きM18の動きに注意してくれ」

「いったん右舷に旋回するのはどうでしょうか」山中が言った。「曳航アレイの捜索範囲を広げるんです。距離の推定がもっと正確になり、音紋を捕捉できるかもしれません」

「ダメだ」沖田は言った。「それだと、右舷の航走雑音が大きくなってしまう。敵はそれを捉えるだろう」

 沖田は戦術支援用モニタを見た。最新の情報では、M18の針路は変化していない。相変わらず方位090のままだった。

「敵は私たちを追って方向転換していない。見失ってるんだろう」

「そのようですね」森島が言った。「ドップラーレーダーによると、距離は開いています。M18の方位で、魚雷が発射されたり、装填された音の形跡はありません」

 沖田は今度、兵装状況モニタに眼を向ける。1番と3番発射管はすでに、魚雷の装填が完了している。本条は沖田の一手を考える。左右に回頭して浅い深度に上がり、M18に向けて発射するか。

「ソナー、M18の深度は分かるか?」

《最後に分かっている深度は、900です》

「船体のきしむ音は?」山中が聞いた。

《ありません。潜航のフローノイズや、外殻がきしむ音も聞こえません》

 沖田は狭い発令所を眺め渡した。

「敵は本艦と同性能、もしくはそれ以上と考えてもいいだろう。私たちを追っている。戦いは始まったばかりだ」

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